特定ユースケースは「ノーゴーゾーン」扱いすべき
生成AIアプリで4社に1社で事故発生か 「エージェント型AI」の危険度を探る
ガートナーは、2028年までに企業向け生成AIアプリケーションの25%が、年5件以上のセキュリティインシデントを経験するとの予測を発表した。情シスリーダーが今すぐ設定すべき「ガードレール」と警戒すべき領域とは。
「AIに業務を任せるのはいいが、管理の届かない場所で勝手に動かれたらどう責任を取ればいいのか」――。現場の熱狂とは裏腹に、情報システム部門リーダーの不安は募るばかりだ。ガートナーの最新予測は、その懸念が数年以内に現実のものとなることを物語っている。
2028年までに、企業向け生成AIアプリケーションの4社に1社が、年間5件以上のセキュリティ事故を経験するというのだ。かぎを握るのは、自律的に動く「エージェント型AI」の台頭と、「Model Context Protocol(MCP)」の普及である。利便性を優先するあまり見落とされがちなセキュリティの「死角」をどう埋めるべきか。ガートナーが提唱する「ノーゴーゾーン(立ち入り禁止領域)」の定義と、組織を守るための具体的な防衛策を明かす。
どのような事故が起きるのか
ガートナーの予測によれば、企業向け生成AIアプリケーションの軽微なセキュリティインシデントの発生率は、2025年の9%から2028年には25%へと急増する見込みだ。さらに深刻なのは重大なインシデントの発生率で、2029年までに、全ての企業向け生成AIアプリケーションの15%が、年間少なくとも1件の重大事故を経験すると予測されている。これは2025年の3%から5倍に跳ね上がる計算だ。
リスク増大の背景には、組織がエージェント型AIの構築や統合を加速させている現状がある。特に「Model Context Protocol(MCP)」などの技術を用いる際、未成熟なセキュリティプラクティスがリスクエクスポージャ(危険にさらされる資産)の大幅な増加を招くという。
利便性を優先した「MCP」の落とし穴
MCPは、AIエージェントの相互運用性や開発の柔軟性を最優先に設計されている。しかし、ガートナーのバイスプレジデントアナリスト、ベン・ロード氏は「MCPはデフォルトでセキュリティを強化するものではない」と指摘する。
設計の主眼が開発スピードにあるため、通常の利用環境であっても設定ミスや誤りが表面化しやすい。特にエージェントが「機密データへのアクセス」「信頼できないコンテンツの取り込み」「外部との通信」という3つの要素を同一フロー内で行う場合、情報持ち出しのリスクが極めて高くなる。ガートナーは、これらの要素が組み合わさるユースケースを「ノーゴーゾーン(立ち入り禁止領域)」と定義し、強い警戒を呼びかけている。
情シスリーダーが講じるべき4つの防衛策
増大するリスクに、ガートナーはソフトウェアエンジニアリングやIT部門のリーダーに向けて、以下の対策を推奨している。
- 厳格なセキュリティレビューの実施
MCPのユースケースで正式なレビューを行い、高リスクな組み合わせを明示的に除外する。
- 低リスクパターンの優先
最初から高機能なエージェントを狙わず、安全性が確認されているパターンから導入を進める。
- エージェント特化の認証・認可
ユーザー権限をそのまま流用するのではなく、エージェント型AIのために設計された強固な認証プラクティスで補強する。
- 既知の脅威パターンの緩和
コンテンツインジェクション(悪意ある命令の注入)やサプライチェーンの脆弱性、不適切な権限昇格など、既知の攻撃パターンを事前につぶしておく。
「ドメイン専門家」によるガードレール構築
セキュリティ対策を大規模に機能させるには、IT部門だけで完結させないことが重要だという。ガートナーは、各業務分野の「ドメイン(特定分野の)専門家」がMCPサーバのオーナーとなり、ガードレールを定義することを提案している。
AIエージェントが複雑化するほど、一元的なデータ管理やコンプライアンスの維持は困難になる。だからこそ、現場の業務とデータに精通した専門家が、AIに許可するアクセス権限やリソースを事前に規定し、「デフォルトで安全」な状態を逆算して作り上げる必要があるとしている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
技術文書・技術解説
[アトラシアン株式会社] IT運用や従業員サポートは生成AIでどう変わる? 使い方や導入の流れは? -
製品資料
[株式会社みらい翻訳] 音声翻訳活用の課題を解決、“本当に使える”ツールの特徴とは? -
製品レビュー
[Wrike Japan 株式会社] 400店舗を支えるWalmart Canada、散在する情報やアナログな管理をどう変えた? -
事例
[Wrike Japan 株式会社] 年間100件超のDXプロジェクトを統合管理、JERAはどのように実現した? -
事例
[Wrike Japan 株式会社] グローバルなクリエイティブ業務を合理化、エスティーローダーに学ぶ実践のコツ
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「Copilot」はなぜ放置される? “議事録要約止まり”を脱する処方箋
-
2
ソフトウェア開発の厳しい納期と品質 トヨタグループはどう両立しているのか?
-
3
9割が頓挫する「AI内製化」 差がついたのはツールより設計力
-
4
脱VMwareの前提が崩れる BroadcomのVDDK公開停止で確認すべき点
-
5
LLMの「過学習」、正しく説明している文章はどれ?
-
6
JSONをやめてPythonで送る トークン消費を約7割抑えるAIの設計
-
7
全社標準Copilotに絶望? MS Copilotで問い合わせ6割減できた企業は何が違った
-
8
膨らむAIコストに歯止め GitHubのマルチモデルルーターは何が違うのか
-
9
IT製品の導入に関するアンケート「PC&デバイス」編
-
10
「有線LAN環境」に関するアンケート
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
5回聞くだけじゃ足りない? トヨタ式「なぜなぜ分析」の正しい実践方法
-
2
生成AIで文書活用を進めるには? 効率化と安全性をどう両立する
-
3
AIエージェントで多様な日常業務を効率化するための入門ガイド
-
4
JR西日本ITソリューションズが「監視業務の属人化」を解消した方法とは?
-
5
インシデント対応工数を約3割削減、東京ガスの事例に学ぶ監視体制刷新のコツ
-
6
国税庁の次世代基幹システム「KSK2」稼働開始に向けて、対応すべき変更点とは?
-
7
5分で分かる「セキュア大容量ファイル転送サービス」の機能とメリット
-
8
「スクラム」と「カンバン」の違いとは? アジャイル型開発手法を徹底比較
-
9
ドラマで分かる、標的型攻撃メールの被害を受ける企業と回避できる企業の分岐点
-
10
「脱Excel」か「Excel快適化」か? 現場にやさしい業務改善の進め方
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー