DXを阻む本当の原因
なぜ人を増やしてもDXは進まないのか 情シスが注目すべき「スキルベースの人材計画」
IT人材不足を課題としている企業の中には、人員数ではなく、必要なスキルを持つ人材の不足が問題となっているところがある。この問題の解決策として「スキルベースの人材計画」を紹介する。
生成AIの導入やクラウド移行、サイバーセキュリティ対策の強化が進む中、多くの企業が「IT人材不足」に悩んでいる。しかし実際には、人数自体は十分そろっている場合がある。
では、IT人材不足はなぜ発生するのか。その理由は単純な人員不足ではなく、「必要なスキルを持つ人材が不足している」ことにある。AI時代に求められるのは、人員数を基準にした従来型の組織運営ではなく、スキルを軸に人材を配置する新しい人材戦略だ。
本稿では、CIO(最高情報責任者)や情報システム部門の責任者が注目すべき「スキルベース人材計画」(Skills-Based Workforce Planning)の考え方と実践方法を解説する。
情シスが注目すべき「スキルベースの人材計画」とは
企業のIT部門では、「人員は確保できているがプロジェクトが進まない」という状況が珍しくない。
例えばクラウド移行プロジェクトを進めようとしても、クラウドアーキテクチャ設計の経験者が不足している場合がある。AI活用を進めようとしても、データエンジニアリングやAIガバナンスの知識を持つ人材がいなければ計画は停滞する。
つまり問題は人数ではなく、事業戦略を実現するためのスキルが不足していることだ。
特に近年は次のような要因によって、従来の人材計画が機能しにくくなっている。
- AIの進化によって技術スキルの陳腐化が早まっている
- マルチクラウドやエッジコンピューティングなど技術環境が複雑化している
- サイバー攻撃の高度化に対応する専門知識が求められている
- 少人数でより多くの成果を出すことが求められている
従来の組織図や職務定義を前提にした人材管理では、こうした変化に対応しにくくなっている。
「職種」ではなく「スキル」で人材を見る
こうした課題への対応策として注目されているのが、スキルベースの人材計画だ。
従来の人材管理では、「インフラエンジニア」「システム管理者」「プロジェクトマネジャー」といった職種や役職を基準に人材を配置していた。一方、スキルベースの人材計画では、「どのような能力を持っているか」を基準に人材を管理する。
例えば新たなAIプロジェクトが立ち上がった場合、「AIエンジニアは誰か」ではなく、「機械学習の知識を持つ人は誰か」「データ基盤構築の経験者は誰か」「ガバナンス設計に詳しい人は誰か」といった観点でチームを編成する。AI関連プロジェクトでは、単一の専門職だけではなく、複数のスキルを組み合わせることが重要になるためだ。
この考え方によって、組織は以下のようなメリットを得られる。
- プロジェクトに必要な人材を迅速に集められる
- 社内の人材を柔軟に再配置できる
- スキルギャップを可視化できる
- 採用や教育投資の優先順位を決めやすくなる
AI時代に求められる新しい人材計画
スキルベースの人材計画は、単なる教育施策ではない。経営戦略とIT戦略を結び付ける仕組みでもある。例えばある企業がAI活用を重点施策として掲げている場合、人材計画は以下の観点で設計する必要がある。
- AI導入に必要なスキルは何か
- 現在の組織に不足している能力は何か
- 採用と育成のどちらで補うべきか
- 社内で転用可能なスキルはあるか
そのためには、従業員の保有スキルを継続的に把握する仕組みが欠かせない。
従業員の自己申告や資格情報だけでなく、過去のプロジェクト実績や業務履歴を活用してスキルを可視化する企業も増えている。近年はAIを活用して従業員のスキルを推定し、将来的な不足領域を予測する取り組みも広がりつつある。
CIOが取り組むべき7つのステップ
スキルベースの人材計画を導入するにあたっては、以下の手順を踏むことが有効だ。
1.経営層と共通認識を持つ
情報システム部門、人事部門や経営層が連携し、人材戦略を経営課題として位置付ける。
2.スキルの棚卸しを実施する
保有資格やプロジェクト経験などを整理し、現在のスキルマップを作成する。
3.事業戦略と必要スキルを結びつける
AI、クラウド、セキュリティなど重点施策ごとに必要な能力を定義する。
4.スキルギャップを特定する
現在従業員が持っている能力と将来必要な能力を比較し、不足している領域を明確にする。
5.プロジェクト単位で人材を配置する
役職や所属部署ではなく、必要な能力を基準に人材を割り当てる。
6.継続的な学習環境を整備する
研修や資格の取得支援、ジョブローテーションなどを活用して従業員の育成を進める。
7.成果を測定する
スキルの不足率、プロジェクトの立ち上げ期間、社内での異動率、人材定着率などを継続的に評価する。
AI時代に競争力を左右するのは「人材の柔軟性」
今後、AIエージェントやデジタル労働力の活用が進めば、企業の労働力は正社員だけで構成されるものではなくなる可能性がある。従業員、契約社員、外部のベンダー、AIエージェントが混在する労働環境で、企業は必要な能力を迅速に組み合わせることが求められる。
そのとき競争力を決めるのは、組織図の規模ではなく、人材のスキルを把握し、必要に応じて再配置できる能力だ。
AI時代の人材戦略とは、人を増やすことではなく、組織が持つ能力を可視化し、変化に応じて素早く活用できる仕組みを作ることである。企業のDXやAI活用の成否は、その柔軟性にかかっていると言えるだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
TechTarget発 先取りITトレンド
米国TechTargetの豊富な記事の中から、最新技術解説や注目分野の製品比較、海外企業のIT製品導入事例などを厳選してお届けします。
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社キーエンス] なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは -
製品資料
[株式会社セールスフォース・ジャパン] 「CRMは設計と無関係」は本当か? PLMとの融合で実現する高速開発 -
事例
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] AIエージェントの時代にどう備える? 「新たな働き手」を支える3要素とは -
製品資料
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] “横並びの自動化”から脱却、AI活用で生産性と競争力を高める秘訣 -
製品資料
[サイボウズ株式会社] AIが「わざわざ使うツール」になっていない? 業務で自然に使う導線にする秘訣
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
2
法務と開発者で「言葉が通じない」問題 トヨタやソニーが語るOSS管理の真実
-
3
【漫画付き】ひとり情シス協会が明かす、RAG導入でしくじる企業「2つの共通点」
-
4
情シスの約8割が転職や退職を意識 調査で分かった“辞めたくなる最大の理由”
-
5
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
6
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
7
情報漏えいはなぜ繰り返されるのか 今すぐ見直すべき「境界」
-
8
BMWも導入 78兆円市場に化ける「フィジカルAI」の衝撃
-
9
「Wi-Fi 7」経由でWindowsが乗っ取られる? 最高権限奪取の恐怖
-
10
「AI活用を前提とした業務PCへの移行」に関するアンケート
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
3
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
4
財務部門がAIを最大限に活用する方法 無駄のない戦略的リーダーシップへの道
-
5
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
6
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
7
なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは
-
8
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
9
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
10
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー