Google流の選考でも防げない問題
コーディング試験はもう古い シニアエンジニア採用で「指導力」を見抜く方法
従来のコーディング試験や思考問題では、優秀なシニアエンジニアを取りこぼす可能性がある。現場で求められるのは、指導力や実業務での問題解決力だ。従来の面接プロセスを見直し、優秀なメンターを引き寄せるには。
人材採用は企業にとって大きな予算項目であり、既存メンバーを本業から引き離す要因にもなる。ミスマッチな採用は、こうした業務負担をさらに増大させる。だからこそ、シニアエンジニアのような高度な専門職選考では、適切な手法を選択することが重要だ。
エンジニア採用には、主に2つの手法が用いられてきた。
1つ目であり最も普及している手法が、コーディング課題の提出だ。実務で使う見込みのあるプログラミング言語を指定し、候補者に基本的な課題を解かせる。「React」「Angular」「Vue.js」といったライブラリやフレームワークを使って簡単なToDoアプリケーションを作成する、といったものが典型例だ。採用枠に必要なスキルを備えているかどうかを確かめるのが狙いであり、ジュニア層やミドル層の選考において有効な手段となる。
2つ目の手法はGoogleが広めたスタイルだ。面接官は候補者に抽象的な質問を投げ掛け、思考プロセスや問題へのアプローチ方法を把握する。「マンホールの蓋はなぜ四角ではなく丸いのか」「スクールバスの中にビー玉は何個入るか」といった問いが挙げられる。
従来の採用手法では見落としてしまう能力
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求めるエンジニアを採用するには
シニアエンジニアの選考では、コーディングテストや抽象的な質問で測れるものとは異なるスキルセットを評価する必要がある。8〜10年以上の経験を持つエンジニアが、基本的な実装力や問題解決力を備えずにキャリアを重ねてきた可能性は低い。一方で、抽象的な質問は興味深い視点を与えるものの、実際の業務で遭遇する問題とは懸け離れた思考実験にとどまる。現実の業務には、トレードオフの判断、考慮事項、規約、標準規格といった複雑な要素が絡み合うためだ。
シニアエンジニアには、事業課題を把握し、採用可能なツールやフレームワークを比較検討した上で、解決に向けた道筋を設計する能力が求められる。従来の手法では評価できない最も価値ある能力は、ジュニア層やミドル層のエンジニアを成長させ、次のレベルへと引き上げるメンタリング力だ。
メンタリングの重要性
メンタリングは、シニアエンジニアに求められる非常に重要な能力だ。高額な費用を投じて人材を獲得する代わりに、社内エンジニアのスキルを引き上げて内部昇進を可能にすれば、採用費用を抑えつつ、業務で成果を出すまでの立ち上がり期間を短縮できる。
自社の技術構成や課題、業務プロセスに精通し、自社特有のノウハウを持つプロパーのミドル〜シニアエンジニアは、外部採用のメンバーよりもはるかに早く大きな成果を挙げられる。外部採用者は、自社の技術構成やプロセスの把握に相応の時間を要するためだ。
新たな解決策の模索
筆者は米大手生命保険会社のMassachusetts Mutual Life Insurance(MassMutual)でシニアエンジニアとして7年以上勤務した。在籍中、シニアエンジニアの採用評価基準を策定・標準化するためのプロジェクトチームが結成された。面接官と応募者の双方として選考を経験していた筆者は、この課題に強い関心を持ち、自ら志願して参加した。チームでは前述の従来手法を整理し、特にコーディング課題が抱える固有の問題点について意見を交わした。
MassMutualでの選考における大きな壁は、経済誌『Fortune』が発表する全米の企業売上高番付「Fortune 100」に入る大手企業では給与や福利厚生が充実しているものの、最先端分野のスタートアップや「FAANG」(Facebook<現Meta Platforms>、Amazon.com、Apple、Netflix、Googleの巨大ITベンダー5社)ほどの刺激的な魅力には乏しい点にあった。
コーディング課題の最大の弊害は、候補者の適性ではなく選考の手間や負担(心理的摩擦)によって優秀な人材を振り落としてしまう点だ。複数回の面接を受けるだけでも応募者の負担は大きい。そこに数時間を要する無償の課題提出が加われば、離脱につながるのは明白だ。チームメンバーの中には、他社の選考で週末を丸々費やす課題を出された経験を語る者もいた。
引く手あまたの優秀なシニアエンジニアの立場になって考えてみてほしい。志望度が非常に高いわけでもない企業から、膨大な時間を要する課題を出された場合、選考の手間を嫌って辞退し、他の選択肢に目を向けるのは自然な判断だ。こうした理由で有望な候補者を逃している懸念は強く、実際にそうした事例も確認された。リファラル採用(従業員による人材紹介)は機能していたものの、潜在的な優秀層をどれほど取りこぼしているかは把握できていなかった。
思考プロセスを探る問い掛け
こうした背景を踏まえ、われわれは新たなアプローチの探求を開始した。その一つが、抽象的な問いではなく、実業務に直結する具体的な課題を設定し、思考プロセスを確認する手法だ。以下に設問の例を示す。
- 社内の全開発チームが使うデザインシステムを構築する場合、設定やブランディングに関してどのような課題が予想されますか。それらをどう解決し、デザイン、開発、ビジネスの各部門における要望や見解の違いをどのように調整しますか
- 全てのコンポーネントでアクセシビリティーの確保が必須であると仮定します。検証のためにどのようなアプローチを採り、各工程でどのようなツールを活用しますか
- あなたが必要な生命保険額を試算する計算ツールの設計・開発を任されたとします。利用デバイス(スマートフォン、タブレット、PC)が特定できない状況で、どのような課題やトレードオフを考慮しますか
この試みは効果的であり、選考で活用できる質問リストを作成できた。しかし議論を深める中で、このアプローチも、シニアエンジニアの日常業務のごく一部しか捉えられていないことに気付いた。
協議を重ねるうちに、従来の選考ではほとんど確認されてこなかった重要な領域が存在することが明確になった。1つ目は、ビジネスアナリストやプロダクトオーナーと連携し、チケットに落とし込む要件の精査や、提案された解決策に伴う技術的トレードオフの検証をする業務だ。そして2つ目がコードレビューだ。
コードレビューへの姿勢を評価する
コードレビューは、開発チーム以外のメンバーからは軽視されがちな作業だと言える。しかし正しく実施されれば、標準の徹底、技術的負債の抑制、将来の修復や分析に役立つコメント記述の促進、何よりもエンジニアの育成という重要な役割を果たす。
優れたレビュワーは、ソースコードの変更提案を送信する機能である「プルリクエスト」を完璧に仕上げることが目的ではないと理解している。「完璧」の基準は主観的であり、過度な修正要求は開発者の意欲を削ぐ原因になるからだ。的確な表現として「ソースコードの品質を段階的に改善する」という考え方がある。評価が「C」と思われるプルリクエストが提出された場合、「B-」まで引き上げるフィードバックをする。
適切なコードレビューとは、単に変更を指示することではない。レビュー者と提出者の双方が、なぜその解決策が選ばれたのかを理解できるように問いを投げ掛ける対話のプロセスだ。例えば、以下の質問が考えられる。
- ここではなぜ手法Yではなく手法Xを選択したのですか
- これと非常に類似した処理を行う既存の関数はご存じですか。新しく処理を書く代わりに、そちらを活用できませんか
提出者が代替案を知らなかったためにソースコードが書き直される場合もあれば、何らかの制約があってあえてその実装を選んでいたことが判明する場合もある。後者のような場合に役立つのがコード内のコメントだ。「課題Zが存在するため、手法Yではなく手法Xを採用した」といった数行の記述を残すことで、背景が明確になり、将来的な不具合を防ぐことができる。半年後に別のエンジニアがそのソースコードを見て、「なぜ手法Yを使わなかったのか。手法Yに書き換えよう」と経緯を知らずに変更してしまう事態を防げる。こうしたコメントがあることで無駄な手戻りがなくなり、特に品質保証(QA)チームの手間を大幅に削減できる。
これらの議論を経て、われわれはコーディング課題の代わりにプルリクエストを提示する手法を採用することで合意した。機能の基本要件を示した上で、候補者がどのようなレビューコメントを入れるのかを評価する手法だ。候補者を離脱させないよう、時間をかけさせない工夫も凝らした。対象とするプルリクエストや機能自体は比較的シンプルなものとしつつ、改善の余地が明確に存在するよう設計した。
この選考手法がもたらすメリット
この手法によって、企業は候補者に関する以下の多様な情報を収集できるようになる。
- チームが重視するポイントと候補者の着眼点が一致しているかどうか
- チームが見落としている視点を持っているかどうか
- どのような姿勢でフィードバックをするのか
- どのような言葉遣いやトーンでやりとりをするのか
主観的な問題解決アプローチの評価
これらの質問は全て、問題解決への姿勢を確認する問いから派生している。単に答えを提示するだけではなく、「どのように問題に対処するか」を見るためだ。特定の機能実装のように解法が限られる作業とは異なり、コードレビューは主観的な要素が大きいため、問題解決への全体的な向き合い方が重視される。AIツールの普及に伴い、単にソースコードを書く能力よりも、ソースコードを理解し、レビューし、修正する能力の価値が高まっている。AIエージェントを導く作業は、まさにジュニアエンジニアを指導するプロセスそのものだ。
既存システムの開発や保守に適した選考
実際の業務では、一から新規プロダクトを作る機会ばかりではなく、既存のソースコードや機能、フレームワークが存在する成熟したシステムを扱うケースが大半である点も踏まえる必要がある。ToDoアプリケーションを一から開発する場合、既存の制約を気にする必要はない。対照的に、プルリクエストのレビューでは、制約やトレードオフを踏まえた論理的な思考が求められる。
まとめ
次回、シニアエンジニアを採用する際には、従来のコーディング課題の代わりに、次のスプリント(開発期間)で取り組む課題を提示し、その解決アプローチを尋ねてみてはどうだろうか。既存システムやフレームワークの前提条件について候補者が質問できる対話の場を設けるのだ。あるいは、在籍中のエンジニアとペアを組ませてプルリクエストをレビューしてもらい、どのような点に着目し、どのような提案をするかを観察するのも有効だ。
採用活動は企業と候補者の双方にとってストレスを伴う。一方的な試験ではなく対話の形をとることで、心理的ハードルが下がり、信頼関係が構築され、お互いの理解が深まる。採用難度が高く、選考の失敗に伴う人手や費用の損害も大きいシニアエンジニアにとっては、この違いが候補者に自社を選んでもらう決め手となる可能性がある。面接官にとっても、候補者が同僚とどのように接するかという、従来の面接では見えにくかった素の人物像をより正確に把握できるメリットがある。
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