VBAコードをWebアプリケーションへ
ブラックボックス化したExcelマクロの解読 生成AI「IBM Bob」で95%削減
属人化してブラックボックス化した「Excelマクロ」に対し、エヌアイシー・パートナーズは生成AIを活用してWebアプリケーションへの刷新を試みた。仕様把握の時間を約95.0%削減したアプローチとは。
現場主導で、プログラミング言語「VBA」(Visual Basic for Applications)を用いた「Microsoft Excel」用のマクロ(以下、Excelマクロ)を開発すると、仕様書が存在せず担当者の異動や退職によって保守が困難になるという構造的な課題を抱えがちだ。特に長年の運用で改修が重なったExcelマクロは、システム刷新の際に業務ロジックの解析に膨大な工数を要することがボトルネックになり得る。
ディストリビューターのエヌアイシー・パートナーズ(以下、NICP)にも、社内で利用している見積もり作成用Excelマクロが作成者の知見に依存しており、継続利用に向けた改善が急務になっていた。この制約を解消するため、同社は日本アイ・ビー・エムが提供するAIエージェント駆動の開発支援システム「IBM Bob」を用いた自社での先行検証を実施した。IBM Bobの導入によって、ソースコードの分析から仕様把握までの時間を従来比で約95%削減し、Webアプリケーションへの再構築にかかる開発期間も約6週間から約2.5日へと短縮した。
生成AIを活用してブラックボックス化した業務資産を可視化し、実運用可能なWebアプリケーションへと刷新したプロセスと設計思想を解説する。
「既存資産の可視化」と「Webアプリ化」の2段階プロセス
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現場で多用される業務ツールは、業務部門の担当者が自身の効率化のために自ら開発することがしばしばあり、IT部門が管理を統制できていない「シャドーIT」の状態に陥りやすい。要件定義書や設計書といったドキュメントが整備されておらず、ソースコードの全容を理解しているのが作成者本人だけという属人化を引き起こす。担当者の異動や退職が発生すると、誰も手出しができないブラックボックスと化してしまう。個人のPC内にファイルが散在し、最新版のデータがどれか分からなくなるという運用上の混乱も頻発する。既存の業務ロジックが不透明なままでは、ビジネス状況の変化に合わせた機能追加や他システムとのデータ連携も困難となり、企業全体の業務生産性を低下させる要因となる。
NICPが取り組んだのは、この「失われた業務要件」を生成AIで抽出し、現代的なWebアプリケーションとして再生させるプロセスだ。対象集団となったのは、社内で運用している1件の見積もり作成用Excelマクロであり、2026年8月の発表に先立つ先行検証プログラム(クライアントゼロ)として、自社システムを用いて実施した。
IBM Bobを用いたアプローチは、「既存業務資産の可視化」と「Webアプリケーション化」の2段階で構成される。
第1段階である可視化の工程では、見積もり算出に利用していたExcelマクロのファイル本体をIBM Bobに読み込ませる。システムは、内部に記述されたVisual Basic for Applications(VBA)のコード構造をはじめ、データの入出力フローや具体的な処理内容、参照しているデータの構造を機械的に分析する。その分析結果をもとに、人間が業務フローを理解するための仕様情報やドキュメントを自動生成する。人間が直接VBAの複雑なソースコードを解読するのではなく、生成AIが論理構造を整理し、構造化された仕様情報として出力する仕組みだ。担当者は生成された出力をレビューし、実際の業務フローと照らし合わせて既存仕様の全容を確認する。
第2段階であるWebアプリケーション化の工程では、第1段階で整理された仕様書データを基に、IBM Bobの支援を受けながら新たなアプリケーションのソースコードを生成する。この工程は、既存システムの移行可否検討から始まり、実装、動作テスト、パフォーマンスのチューニング、新システムのドキュメント作成に至る開発ライフサイクル全体をカバーしている。生成された成果物に対して人間がレビューとテストを実施し、対話形式で修正指示を出すことで、実業務で利用可能なシステムに仕上げる。人間と生成AIが役割を分担することで、単なるツールの置き換えにとどまらない、現代のWeb標準に適合した実用的なシステムの構築を実現している。
導入の判断軸と選定理由
NICPが見積もり作成用Excelマクロの改善においてIBM Bobを選択した合理的な理由は、単なるコード生成ツールにとどまらず、エンタープライズの運用条件における要件を備えた「業務知識の抽出システム」として機能する点にある。
一般的に、既存のドキュメントが欠落しているシステムを刷新するプロジェクトは、要件定義の段階で頓挫するか、不完全なまま移行が進められて深刻なトラブルを引き起こす要因となる。作成者へのヒアリングやソースコードの解析に多大な人手を投入する必要がある上、度重なる改修でロジックが複雑化している場合、解析自体が困難になってプロジェクトの進行を阻害するリスクがある。NICPは、IBM Bobのソースコード分析能力とドキュメント生成機能が、このボトルネックを解消する合理的な手段だと判断した。
従来アプローチとの設計思想の違いと定量的成果
従来のシステム移行手法は、エンジニアが手作業でソースコードを読み解き、リバースエンジニアリングによって仕様書を作成した上で、新たな言語でコードを書き直すという直線的なアプローチであった。この手法は工数が膨大になるだけでなく、人間による解釈の誤りやコーディングミスによる不具合混入のリスクがつきまとう。
対して、本検証で採用されたアプローチの設計思想は、「生成AIによる論理抽出およびコード生成」と「人間による業務要件のレビュー」を明確に分業する点にある。生成AIが大量のソースコード分析や仕様書のたたき台作成、Webアプリケーションのベースコード生成といった定型的かつ負荷の高い作業を担う。人間は、生成AIの出力が実際のビジネスロジックや業務要件と合致しているかどうかの判断と、対話を通じた要件の擦り合わせに特化する設計だ。
この設計思想の違いは、開発工程における大幅な時間削減として定量的成果に表れている。NICPの検証において、従来の手法では平均1〜3日を要すると想定されていたVBAコードの仕様把握は、約0.5時間(30分)で完了した。これによって、仕様把握に要する時間を従来比で約95%削減している。
Webアプリケーションの開発工程全体においても、担当者の事前見積もりで約6週間(30日)かかると想定されていた同等の作業が、約2.5日で完了した。これは開発にかかる時間を約92%削減したことに相当する。この大幅な時間削減は、生成AIの活用がシステム移行のボトルネックをいかに解消できるかを示す明確な指標となる。
今後の展望と運用上の留意点
再構築されたWebアプリケーションは2026年8月現在、NICP社内で実業務に投入されている。ExcelマクロからWebアプリケーションに移行したことで、見積もりデータのデータベースへの蓄積、過去実績の検索・再利用が容易になった。これによって、特定の担当者に依存していたナレッジが組織全体の資産として共有され、継続的な運用改善が可能になっただけではなく、将来的な機能追加やデータ活用を効率的に行うためのインフラが整備された。
生成AIの活用領域は、単なる開発時のコーディング支援にとどまらない。今回の検証は、ブラックボックス化した既存システムを解読し、再構築への道筋を付ける「上流工程」でこそ威力を発揮することを裏付けている。ただし、生成AIを使って改修したシステムを実運用に乗せるためには、生成AIの分析・出力結果をうのみにせず、実際の業務要件と照らし合わせてレビューする「人間の判断プロセス」を開発工程にどう組み込むかが成否を分ける。
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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
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