発見から修正までのタイムラグが致命的に
拡散までわずか4時間半? AI開発時代に「従来型セキュリティ」が破綻する理由
AIコーディングツールの普及によって開発の高速化が進む一方、攻撃手法も急速に進化している。脆弱性の発見から修正に平均3カ月かかる従来の管理手法が限界を迎える中、企業はこの脅威にどう立ち向かうべきなのか。
ソフトウェア開発において、AI技術を活用したソースコード生成支援ツールの導入が急速に進んでいる。ソースコード共有サービスを運営するGitHubが2024年に2000人のエンジニアを対象として実施した調査では、開発者の97%が何らかの形でAIコーディングツールを利用していると回答した。
開発効率が向上する一方で、生成されるソースコードの安全性という構造的な課題が浮上している。企業向けシークレット管理サービスを提供するGitGuardianが5つのプログラミング言語、100種類のプロンプトを用いて実施したソースコード生成実験によれば、標準的なプロンプトでAIツールが生成したソースコードの約40%に脆弱(ぜいじゃく)性が含まれていた。同社が経営層を対象に実施したインタビュー調査では、回答したCEOの約69%が「AI生成コードに起因するセキュリティインシデントを経験した」と回答している。
AI技術によってソースコードの生成速度が飛躍的に高まる中、開発の現場では従来型の脆弱性管理アプローチが通用しなくなりつつある。AIコーディング時代における新たなリスク構造と、それに対抗するための技術的対策を解説する。
AI時代のサプライチェーンリスクと開発体制の課題
本稿は、GitGuardianでデベロッパーアドボケイトを務めるマッケンジー・ジャクソン氏による「NDC Security 2026」でのセッション「Secure Code in the Age of AI Supply Chain Risk」の内容を基に構成されている。
AI生成コードがもたらすリスクは、単純な構文上の脆弱性にとどまらない。より深刻な課題として、オープンソースソフトウェア(OSS)のサプライチェーンに対するリスクが挙げられる。
AIモデルは過去のデータを基に学習しているため、開発者がAIツールにソースコード生成を依頼した際、学習時点の古い依存関係をインポートする仕組みになっている。これによって、既知の脆弱性が存在する古いライブラリが、新規開発の段階でアプリケーションに組み込まれるリスクが生じる。AIモデルがハルシネーションによって実際には存在しない依存関係を生成することも、攻撃者にとって格好の標的となっている。
従来アプローチの限界を示す「3カ月のタイムラグ」
このようなAI主導の開発環境において、従来の脆弱性管理の手法は構造的な限界に直面している。一般的に、セキュリティ研究者が報告した欠陥に対し、専門機関がCVE(共通脆弱性識別子)を付与してデータベースに登録して、開発者や企業に共有する。研究者が脆弱性を発見し、OSSのメンテナーが修正し、修正済みであることがデータベースに登録されるまでには、平均して約3カ月を要する。
ジャクソン氏は、この「3カ月」というタイムラグが、現代の開発速度において致命的であると指摘する。クラウドセキュリティベンダーWizの調査によれば、著名なOSS開発者であるジョシュ・ジュノン氏のアカウントが侵害され、マルウェアが混入したパッケージが公開された事例では、わずか4時間半の間に、同社が監視するクラウドインフラの10%にマルウェアが拡散した。AIツールを利用したマルウェア開発と拡散の高速化に対して、手作業を中心としたデータベース登録と照合という従来のアプローチは、速度面で完全に破綻している。
技術的アプローチ:AIを用いた非決定的なセキュリティ検証
高速化する開発手法と巧妙化するマルウェアの脅威に対抗するため、セキュリティの仕組み自体も設計思想を変える必要がある。ジャクソン氏は、AI技術が引き起こしたこの脆弱性問題に対する合理的な解決策として、「AIツールそのものをセキュリティスキャンに活用する」アプローチを提示している。
従来のSAST(静的アプリケーションセキュリティテスト)ツールは、あらかじめ定義されたルールセットに基づき、SQLインジェクションなどの決定的な脆弱性を検出する仕組みを採用していた。ただしこのルールベースのアプローチでは誤検知(フォールスポジティブ)が頻出し、開発者とセキュリティエンジニアの間で確認作業が往復するため、AIコーディングツールの生成速度に追い付かないという運用上のボトルネックがあった。
これに対してAIツールを活用したスキャンアプローチは、非決定的な(出力が毎回異なる)事象の発見に優れている。ソースコードの難読化など、マルウェアの兆候ではあるが確定ではない要素を分析し、脅威の可能性を文脈から推論する。IDOR(安全でない直接オブジェクト参照)やビジネスロジックの欠陥といった、単純なパターンマッチングでは発見が困難な脆弱性の検出にも適合する。こうしたAIの強みを実際のセキュリティ対策に落とし込んだ例として、ジャクソン氏のチームはスキャンツール「Intel」を構築した。このツールはオープンソースの静的解析ツール「OpenGP」を活用してソースコード内の兆候を分析し、マルウェア検出におけるトリアージの効率化を実現している。
プロンプトの最適化とAIセキュリティの進化
開発現場において、AIコーディングツールを禁止することはもはや現実的ではない。ツールを安全に活用するための第一歩として、プロンプトの工夫が有効である。ジャクソン氏は実験を通じて、AIモデルに対してソースコード生成を指示する際、「安全なソースコードにすること」という条件を明示的に追加するだけで、生成されるソースコードの脆弱性含有率が大幅に低下することを確認した。AIモデルは処理速度や計算リソースを最適化するためにさまざまな前提条件を推論するが、セキュリティ要件を明確化することで、安全性を優先したソースコードを生成できるようになる。
今後は、AIモデル自体がセキュリティをデフォルトで優先するように進化することが考えられる。開発者は、事前に定義したルールに基づく静的スキャンと、AIツールを活用した非決定的なスキャンをパイプラインに連携させ、ソースコード生成から脆弱性検出までのプロセス全体を自動化するインフラの構築が求められる。
本稿は、NDC Conferencesが2026年5月12日に公開した動画「Trusting AI with Code: How Secure is AI-written code? - Mackenzie Jackson - NDC Security 2026」を基に作成しました。
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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
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