上流工程の「手戻り」は減らない
「AIならすぐできるはず」と言われるエンジニア 他職種とのずれを埋めるには
開発現場でAIコーディングが浸透する中、エンジニアと非開発職の意識の差が現場のストレスを生んでいる。負担軽減にはツール導入を超えた業務環境の改善が必要だ。今日のシステム開発で真に求められる組織体制とは。
システム開発の現場において、要件定義の曖昧さや関係者間の認識の相違に起因する手戻りは構造的な課題だ。AIツールの普及によってコーディング作業の効率化が進む一方で、こうした上流工程に起因するボトルネックが解消されたわけではない。
エンジニア向けメディア「KIKKAKE ITREND」を運営するキッカケクリエイションは2026年5月、システム開発に携わるITエンジニア321人を対象に、開発業務における心理的負荷の実態調査を実施した。調査によれば、AIツールの業務利用が広がったことで、逆にストレスが増大したと感じている層が一定数存在する。
効率化を実現するはずの技術導入が、なぜ現場の負荷を高める結果を招いているのか。その背景には、最新技術に対する他職種からの過度な期待と、システム開発の根本的なプロセスに対する理解不足が複雑に絡み合っている。調査から開発現場が直面している新たな制約と、企業が取り組むべき対策を解き明かす。
上流工程に起因する「よくあるストレス要因」
システム開発における心理的負荷の根本には、以前から存在する上流工程の課題が横たわっている。調査において、最も精神的な負荷が高い開発フェーズとして「要件定義・仕様策定」が23.4%で最多となり、「テスト(単体/結合/総合)」の15.0%がそれに続いた。そのフェーズにおいてストレスを感じる要因の筆頭には「事前に決まっていたはずのことが途中で変わること」が37.8%で挙がり、次いで「エンジニア同士で認識がズレていることが後から判明すること」が33.7%、「十分な時間が確保できないまま期限が迫ること」が26.8%となっている。要件の曖昧さや関係者間の認識の相違が手戻りを招き、納期と品質のプレッシャーとなって開発現場を圧迫する構造が残り続けていることがうかがえる。
調査結果からは、AIツールの普及がもたらした新たな課題の構造が見える。AIツール普及後にストレスが「増えた」と感じるエンジニアは36.1%(「非常にそう思う」7.8%、「ややそう思う」28.3%の合計)に上る。新たなストレス要因としては、「非エンジニア職から『AIツールがあるならもっと早くできるだろう』という期待やプレッシャーを受けること」が53.4%で半数を超えた。同趣旨の発言を受けた経験を持つエンジニアも45.8%(「頻繁にある」10.6%、「時々ある」35.2%の合計)に達している。
技術的な負荷として「AIツールが生成したソースコードの妥当性を自分が保証しなければならない責任感」が41.4%、「AI活用に関する新しい知識のキャッチアップを常に求められること」が30.2%となっている。従来の手動によるコーディングと、AIツールを活用した開発プロセスでは、エンジニアに求められる役割の比重が異なる。AIツールは一定の処理手順や定型的なソースコードを素早く出力できるが、顧客要件の矛盾を自動的に補完したり、セキュリティや排他制御などの複雑な非機能要件を満たしたりすることは難しい。生成されたソースコードの妥当性を検証し、既存のシステム構成と整合を取る作業には、高度な技術的知見と長時間の集中が要求される。
非エンジニア職が「AIツールによる部分的な自動化」を「開発工程全体の飛躍的な短縮」と誤認することで、不適切なスケジュール設定や無意識のプレッシャーが生じている状況が推察される。自由回答において「顧客の理解を得られなければ瑕疵(かし)扱いで無理な対応を迫られる」「何も決まっていないのに納期、品質、費用の両立を求められる」といった声が寄せられていることからも、上流工程における意思決定の不在を、実装フェーズの速度向上でカバーしようとして現場にしわ寄せが向かっていることが分かる。
他職種に対して、自身の職種のストレスや苦労が十分に理解されていないと感じるエンジニアは45.8%(「あまりそう思わない」35.5%、「全くそう思わない」10.3%の合計)を占める。開発業務で感じているストレスの状況を踏まえ、今後もITエンジニアとして働き続けたいかという問いに対しては、「現在の会社、現場で続けたい」は28.7%にとどまった。一方で、「会社、現場を変えて続けたい」が37.7%となり、「できれば離れたい」(15.0%)と「すぐにでも離れたい」(4.0%)を合わせると19.0%となった。技術人材の流出やモチベーションの低下を防ぐ観点からも、企業は看過できない状況にある。
根本解決に必要な「適切な工数設定」と「相互理解」
こうした課題を解決するためにエンジニアが求めているのは、局所的なツールの導入よりも、業務環境の構造的な改善だ。ストレス軽減や働きやすさ向上のために求めるものとして、「適切な工数、スケジュール設定ができる体制」が41.7%で第1位となった。続いて「給与、報酬の改善」が30.2%、「関係者間の認識合わせを効率化する仕組み」が29.3%となっている。
2026年現在、生成AIをはじめとする高度な技術の業務利用は試験的な導入を終え、本格的な投資対効果が問われるフェーズに移行している。ツールがいかに進化しても、上流工程における要件定義の精度や、部門間のコミュニケーション不足といった根本的な課題を自動的に解消するわけではない。むしろ、技術の高度化はブラックボックス化を招きやすく、仕様の正確な擦り合わせの重要性をより高めている。
企業が真に向き合うべき問題は、最新のインフラやツールへの投資と同時に、それを扱うエンジニアの専門性に対する論理的な理解と、職種間の相互理解を伴う開発体制の構築だ。AI時代における技術の効果と限界を組織全体で客観的に認識し、適切な工数管理と関係者間の認識合わせを効率化する仕組みを再設計することが、今後のシステム開発における論点になる。
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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
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