AIを導入しただけから抜け出せない
AIのROI「明確に確認」は11.8% 効果測定を阻む3つの課題と対策
ネオスは、全国の就業者500人を対象に実施した「企業のAI活用に関する実態調査」の結果を公表した。AI導入のROIを明確に確認できている割合は11.8%にとどまり、成果の明示には課題があることが分かった。
生成AIツールを全社に導入したものの、「どれだけ業務時間を削減できたのか」「投資に見合う成果が出ているのか」を説明できない――。AI活用を進める企業の情報システム(情シス)部門にとって、こうした問題が新たな課題になりつつある。
ネオスが全国の就業者500人を対象に実施した「企業のAI活用に関する実態調査」では、AIの導入やPoC(概念実証)によって測定可能なROI(投資対効果)を「明確に確認できている」と回答した割合は11.8%だった。続いて「部分的に確認できている」が41.0%、「確認できていない/未達」が19.4%、「測定していない」は16.8%だった。
なぜ、AIツールを導入しても効果を数字で示せないのか。調査結果からは、ツールを導入する前後の「業務設計」に3つの見直すべきポイントが見えてくる。
ポイント1.「AIを使うこと」が目的になり、KPIを決めていない
最初に確認したいのは、AI導入時に「何を改善するためのツールなのか」を定義できているかどうかだ。
調査では、AIの導入・活用を阻む要因を尋ねた。その結果、「ROIが見えない」「効果的な使いどころが不明」がそれぞれ19.4%を占めた。
例えば、「Microsoft 365 Copilotを全社員に配布する」と決めるだけでは、効果の測定は難しい。「会議後の議事録作成時間を何分減らす」「社内規定を探す時間を何%削減する」など、対象業務と指標を先に決めておかなければ、導入前後を比較できないためだ。
AIの利用回数やアクティブユーザー数だけを見る方法にも注意が必要だ。利用者が増えたとしても、それだけでは業務時間やコスト、品質が改善したとは判断できない。
情シス部門はまず、AIを導入する業務を限定し、「AIを使った回数」ではなく「AIによって何が変わったか」を測定できるKPIを置く必要がある。
原因2.AIに渡す「社内ナレッジ」が整理されていない
もう1つの問題が、AIに利用させる社内情報そのものだ。調査では、業務ノウハウ、判断基準の文書化、共有の状況を質問した。その結果、業務ノウハウや判断基準を「一部のみ言語化できている」が37.0%、「ほとんど個人の頭の中にある」が25.2%で、合計62.2%が十分に言語化されていない状態であることが分かった。社内ナレッジを体系的に整理・最新化できている企業も14.2%にとどまった。
例えば、社内問い合わせをAIで効率化しようとしても、回答の根拠となる規定やマニュアルが複数のファイルサーバやSaaSに散在していたり、担当者の頭の中にしか判断基準がなかったりすれば、AIは安定した回答を生成しにくい。
その状態で「問い合わせ対応時間が減らない」と評価しても、問題がAIモデルにあるのか、参照データにあるのか、そもそもの業務フローにあるのかを切り分けられない。
AI導入前に、対象業務について「どの情報を参照して判断しているのか」「最新版はどれか」「誰が更新するのか」を棚卸しすることが重要になる。
原因3.同じAIを使っても、従業員ごとに使い方が違う
効果測定を難しくする3つ目の要因が、利用方法のばらつきだ。特定のツールを使った場合に、従業員間で成果物に差を感じるか尋ねた質問では、成果物に「3~4倍」の差を感じるとの回答が29.5%、「5~10倍」が11.3%、「10倍以上」が4.6%だった。合計すると45.4%が、「同じツールでも、成果は3倍以上変わる」と感じていることが分かった。
AIを活用できている要因を聞いたところ、「他人の事例参照・人から教わった」が最多で35.8%。「業務時間外の自習・独学」が33.8%で合計69.6%が自主的な学びを通じてAIを活用していることが分かった。一方、「体系的な社内研修・教育がある」と答えたのは26.0%だった。
従業員ごとにプロンプトや参照情報、作業手順が異なる状態では、「AIを使った場合」として一括して効果を比較することは難しい。そこで必要になるのが、効果の出た使い方を「型」にすることだ。例えば、問い合わせ対応なら参照する情報源、プロンプト、回答後に人が確認する項目まで決め、同じ条件で利用できるようにする。個人のAIスキルに依存する状態から、組織として再現できる状態に変える必要がある。
情シスは「小さく測る」ところから始める
では、AIの効果を測定できていない企業は何から見直せばよいのか。ネオスは、まず社内ナレッジと判断基準を棚卸しし、次に社内データに基づく回答生成や権限、監査の仕組みを整えた上で、全社展開やAIエージェント化へ進む流れを提案している。効果測定については、「情報を探す時間の削減」のようなKPI(重要業績評価指標)を設定することを挙げている。
AIのROIを測るために必要なのは、複雑な効果測定システムを新たに導入することではない。まず「どの業務の、何を改善したいのか」を決め、現状値を測る。その上で、AIに必要な社内情報と使い方を整備し、同じ条件で導入前後を比較する。
AIツールの全社展開を急ぐ前に、「効果を測れる業務設計になっているか」を確認することが、情シスにとって最初の一歩になる。
本稿は、2026年9月9日にテクミラホールディングスが公開した「企業のAI活用に関する実態調査」を実施、AI格差を生む「5つの壁」と企業のナレッジ未整備の実態が明らかにを基に作成しました。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
技術文書・技術解説
[Jamf Japan 合同会社] MDMだけでモバイルセキュリティは十分? 不足する対策を16項目でチェック -
事例
[Wrike Japan 株式会社] 世界的な家電メーカーが実践する「クリエイティブプロセス効率化」の方法とは? -
事例
[Wrike Japan 株式会社] 世界的テクノロジー企業に学ぶ、プロセス標準化とプロジェクト納品自動化の秘訣 -
事例
[Wrike Japan 株式会社] ソニー・ピクチャーズ テレビジョンに学ぶ、次世代サービスデリバリーのヒント -
事例
[Wrike Japan 株式会社] ソミック石川に学ぶ、ICT浸透後に直面した「工数管理」の課題と解決策
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「Microsoft 365」が乗っ取られる 跡形もなくMFAを破る手口
-
2
「企業内サーバ環境の利用実態」に関するアンケート
-
3
AI全部入り「Microsoft 365 E7」に企業が二の足を踏む訳 移行意向はわずか4%
-
4
「VMware離れ」は本当か 3000社がVCF 9にかじを切った現実的な理由
-
5
エンジニアが選考を辞退する本当の理由 7割が隠す“面接の違和感”とは
-
6
脱VMwareの前提が崩れる BroadcomのVDDK公開停止で確認すべき点
-
7
【基本情報技術者試験】「デュプレックスシステム」と「デュアルシステム」の違いは?
-
8
「AI活用を前提とした業務PCへの移行」に関するアンケート
-
9
「データストレージの活用方法」に関するアンケート
-
10
AWS障害でも補償ゼロの衝撃 サイバー保険で情シスが見落とす「細則の壁」
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
生成AIのハルシネーションを防止 回答精度を高めるセマンティックレイヤーとは
-
2
5回聞くだけじゃ足りない? トヨタ式「なぜなぜ分析」の正しい実践方法
-
3
AIエージェントで多様な日常業務を効率化するための入門ガイド
-
4
インシデント対応工数を約3割削減、東京ガスの事例に学ぶ監視体制刷新のコツ
-
5
「脱Excel」か「Excel快適化」か? 現場にやさしい業務改善の進め方
-
6
マンガで解説:「ゼロトラスト」「SASE」の必要性とメリット
-
7
5分で分かる「セキュア大容量ファイル転送サービス」の機能とメリット
-
8
情報セキュリティ対策早分かりガイド:25の自社診断で弱点と解決策を理解
-
9
国税庁の次世代基幹システム「KSK2」稼働開始に向けて、対応すべき変更点とは?
-
10
AIが「わざわざ使うツール」になっていない? 業務で自然に使う導線にする秘訣
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー