従来の暗号化技術に潜む弱点
生データを隠してデータ連携 KDDIが4000万人の顧客情報を安全に分析できた理由
企業間のデータ連携においては、プライバシー規制の順守が課題となっている。KDDIはそうした要件に応えるため、生データを出さず安全にデータ連携、分析を実現した。どのような仕組みなのか。
AIモデルの高度化や効果的なマーケティング施策には、組織の壁を越えたデータ連携が不可欠だ。しかし、日本の個人情報保護法における第三者提供制限やデータ漏えいリスクが、企業間のデータ連携において構造的な制約になっている。
こうした課題に対し、機密データ技術を扱うAcompanyは通信事業者のKDDIと共に、データを保護したまま計算処理を実行する「Confidential Computing」(CC:秘密計算)技術を活用したデータクリーンルームを構築した。これによって、パートナー企業に生データを開示することなく、4000万人規模の顧客データを用いた安全な共同分析システムを実現した。厳格な法規制下において、大規模なデータ連携を可能にしたアーキテクチャの要件を解説する。
4000万人規模のデータを安全に共同分析できるデータクリーンルーム
本稿は、グローバルカンファレンス「Confidential Computing Summit 2026」におけるセッション「A Large-Scale Data Clean Room Case Study in Japan: Confidential Computing and Privacy Regulations」の内容を基に構成する。セッションにはAcompanyの執行役員 VP of Public Affairsの竹之内隆夫氏と、取締役CRDO(Chief Research and Development Officer)の近藤岳晴氏が登壇した。
顧客をより深く理解し、AI活用やマーケティング施策を最適化するためには、他社が持つデータとの掛け合わせが欠かせない。しかし、現実には以下の2つの構造的な制約が立ちはだかる。
- 同意の限界
- 本人同意を得られた限定的なデータのみでは偏りが生じ、全体の顧客像を捉え切れない。
- データ漏えいリスク
- パートナー企業に生データを渡すことは、情報漏えいや法的ペナルティー、企業信用失墜のリスクを伴う。
この課題を解決したのが、KDDIが導入した「データクリーンルーム」(DCR)だ。同社が持つ「位置情報や属性データ」と、提携パートナー企業が持つ「POSデータ」「購買データ」をシステム内に集約。新規顧客の獲得や実店舗の最適化に向けて、互いの生データを相手に見せることなく、「分析結果や統計データのみ」を抽出する仕組みを構築した。これによって、個人情報保護法の第三者提供制限を順守しながら、大規模なデータ共有を可能にしている。
「開かない金庫」と「ダブルガード」でデータを完全保護
生データを渡さずに高度な分析をするための核がCCだ。従来の暗号化技術では、データの保存時や転送時は保護できるものの、分析を実行するメモリ上ではデータが復号されるため、特権オペレーターや内部不正によるリスクが残されていた。
これに対してAcompanyのアプローチは、以下の2つの安全対策(ダブルガード)でこのリスクを解消する。
- データの仮名化・匿名化(事前処理)
- 「k-匿名化」「差分プライバシー」などの技術を用い、あらかじめ個人を特定できない形に加工する。
- CCによるハードウェア隔離
- 半導体内部に、外部から閲覧ない安全なエリアである「隔離実行領域」(TEE)を形成する。暗号化した状態のままメモリ上で計算処理を実行するため、クラウドベンダーやシステム管理者であってもデータの中身を見ることはできない。
これらの仕組みによって、処理速度への影響を抑えつつ、極めて高い安全性を確保している。
商用クラウドと国際標準技術の活用
KDDIによる4000万人規模の大規模データ運用を支えるインフラには、「Microsoft Azure」のConfidential Computing機能が採用されている。ハードウェア層には「Intel SGX」などのプロセッサ技術が利用されており、Intel Labsとの共同研究や国際標準化団体「Confidential Computing Consortium」(CCC)における技術標準化の取り組みとも連携している。単一ベンダーの独自仕様ではなく、グローバルなクラウドインフラや半導体技術の標準仕様に準拠した構成を採ることで、安定した処理を実現している。
日本国内におけるCCの活用は、技術面にとどまらず法規制や政府指針の動向とも連動して進んでいる。政府の「人工知能基本計画」において「信頼できるAI」の実現が掲げられる中、個人情報保護法の改正議論や国会附帯決議において、CCを含むプライバシー強化技術(PETs)の活用が言及されるようになった。
プライバシーテック協会をはじめとする業界団体や関連事業者による政策提言活動を通じ、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が策定する「重要情報を扱うシステムの要求策定ガイド」などの公的指針においても、改定の検討が進んでいる。「特権オペレーターやハードウェアへの攻撃に対してもメモリ内データを保護する」というセキュリティ要件が整備されることで、秘密計算の適用範囲は広がりを見せつつある。
こうした制度的枠組みの整備に伴い、今後は半導体ベンダー、クラウドベンダー、データセンター事業者、AIベンダーが協調し、国内のデータ主権を保持する「ソブリンAI」や機密性の高いAIインフラ(Confidential AI)の構築に向けた取り組みが加速するとみられる。
本稿は、The Linux Foundationが2026年7月18日に公開した動画「A Large-Scale Data Clean Room Case Study in Japan: - T. Takenouchi & T. Kondo, Acompany Co., Ltd.」を基に作成しました。
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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
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