要望を丸飲みする「請負体質」は卒業 フジテックが実践する“攻めの情シス”独自開発が招くシステムの陳腐化

現場の要求のままにシステムを独自開発すれば、情シスは疲弊する。請負体質を見直し、スマートグラスを使った現場改革やLINEによる顧客接点の創出など、「攻めの情シス」に転じたフジテックのアプローチとは。

2026年08月17日 05時00分 公開
[TechTargetジャパン]

関連キーワード

業務改善 | IT部門 | IT戦略


 従来の情報システム部門は、社内のシステム利用者からの要請書を待って開発する「インバウンド型」の組織だった。エレベーターやエスカレーターの製造を手掛けるフジテックの友岡賢二氏(上席執行役員 IT統括 デジタルイノベーション本部長)は、この請負体質からの脱却を提唱している。

 友岡氏によれば、従来のシステム整備などの「守りの情シス」は相対的に付加価値が低くなりつつあり、現在求められているのは事業の顧客を主語とする「攻めの情シス」への転換だ。これは、口を開けて餌を待つひな鳥のような受け身の姿勢から、情報システム部門自らが顧客課題を見つけ、テクノロジーによる解決策を提案する「アウトバウンド型」の営業へと行動様式を変えることを意味する。

 フジテックは、攻めの情シスと守りの情シスを両立させる「両利きの組織」を目指している。しかし、インバウンド型の業務に慣れ親しんできだ組織にとって、意識改革と行動変容は容易な道のりではない。同社はどのような手法でこの壁を乗り越え、現場にデジタル変革を根付かせたのか。

スマートグラス展開に見る「攻め」の定着手法

 現場の課題解決に向けた情報システム部門主導のアプローチとして、フジテックが実践したのがスマートグラスの全社展開だ。エレベーターやエスカレーターの保守現場において、当初は状況共有のためにスマートフォンを活用していた。しかし、油まみれの手での操作や高所作業時の落下リスクといった物理的な課題が浮上した。

 これを解決する手段としてスマートグラスに着目し、検証を開始したのが2015年だ。当時はバッテリーやケーブルの取り回し、防水防塵(じん)性能などに限界があり、導入をいったん中止した。ここで重要なのは、検証の失敗で終わらせず、市場に最適な製品が登場するまで毎年のテーマとして予算化し、辛抱強く待ち続けた点にある。

 2019年に条件を満たすデバイスが登場すると、情報システム部門が初期投資のオーナーになり、大量の貸し出し機を用意した。情報システム部門が現場に赴き、体験会を開いて回るアウトバウンド型の提案活動を展開した結果、現場への普及が実現したのだ。

ツールに業務を合わせる「DCAP」の作法

 この過程で友岡氏が強調するのが、ITツールの導入作法の違いだ。従来の守りの情シスはPDCA(Plan, Do, Check, Action)サイクルを回し、現場課題に合わせて追加開発をするのが常識だった。一方の攻めの情シスは、まずはやってみる「DCAP」(Do, Check, Action, Plan)のアプローチを採る。

 友岡氏は企業の情報システム部門に対して、ツールが現場の課題を完全に網羅できなくても、独自開発はせず、システムで解決する課題の範囲をツールに合わせて切り取る手法を推奨している。これによって、製品の進化による恩恵を素早く享受できるようになる。

シリアスとカジュアルを切り分けるシステム設計

 友岡氏は、システムの性質に応じて「シリアス」と「カジュアル」のアプローチを明確に分けて考えることを提唱している。

 エレベーターの安全運行など人命に関わる「シリアス領域」では、仕様策定から設計、試験、リリースへと進むウオーターフォール型の開発が基本だ。法規制や「ISO 45001」(労働安全衛生マネジメントシステムに関する規格)への準拠、フェイルセーフ設計やシステムの冗長化が不可欠であり、堅牢(けんろう)に構築する必要がある。

 一方、業務改善や顧客体験の向上を担う「カジュアル領域」では、アジャイルやリーン型の開発が基本となる。MVP(Minimum Viable Product:実用最小限の製品)を作成してエンドユーザーのフィードバックを得ながら、「小さく作り、試し、学び、改良する」サイクルを回す。ここでのKPI(重要業績評価指標)には、ユーザー価値とスピードが置かれる。

 2026年5月にフジテックがリリースした、「LINE」でエレベーターを呼び出す機能は、カジュアルなLINEのインタフェースと、シリアスな制御システムを断絶させ、安全性を確保しつつ顧客体験を向上させた一例だ。

顧客価値の核心をデジタルで守り抜く

 デジタル戦略を描く上で、自社が最も重視する顧客価値を定義することが出発点となる。フジテックの場合、その核心は「安全・安心」だ。

 エレベーターが停止するという顧客にとって最悪の瞬間をいかに防ぎ、万が一の際にどう迅速に復旧させるか。この価値に直結するプロセスをテクノロジーで強化していくことが、フジテックのDX戦略の根幹を成している。

 情報システム部門がオフィスにとどまるのではなく、顧客や従業員がいる現場に溶け込み、顔の見える関係を構築することが変革の原動力になる。現場に寄り添い、自ら価値を提案し続ける組織への転換が、これからの企業の競争力を決定づけていく。

本稿は、アイティメディアが2026年6月8〜11日に開催した「変わる情シス 2026 春」における、6月11日のセッション「攻めの情シスへの転換 〜情シスの体質改善方法を丸ごと伝授〜」を基に作成しました。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。

アイティメディアからのお知らせ

From Informa TechTarget

瞬時にM365が乗っ取られる――全社員に周知すべき“新フィッシング”の教訓

瞬時にM365が乗っ取られる――全社員に周知すべき“新フィッシング”の教訓
MFA(多要素認証)を入れたから安心という常識が崩れ去っている。フィッシング集団「Tycoon2FA」が摘発されたが、脅威が完全になくなったというわけではない。

ITmedia マーケティング新着記事

news017.png

「サイト内検索」&「ライブチャット」売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、サイト内検索ツールとライブチャットの国内売れ筋TOP5をそれぞれ紹介します。

news027.png

「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年5月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。

news023.png

「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...