レイオフの新たな真実【前編】
「IT業界の人員削減」が止まらない――その恐怖の理由
2024年にIT企業が大規模な人員削減を進める理由は、コロナ禍で採用し過ぎた人員を減らすことが主な理由ではないと専門家はみる。背景にどのような事情があるのか。
世界中のIT企業が、レイオフ(一時解雇)を推し進めている。その主な理由は、業績不振ではないと専門家は指摘する。事業が好調な企業も人員削減を進める背景には何があるのか。大手IT企業の例を踏まえて解説する。
「IT業界の人員削減」なぜ止まらない? その恐怖の理由
レイオフ(一時解雇)の状況を追跡するWebサイトLayoffs.fyiによると、IT企業では2022年に16万5000人以上、2023年に26万4000人以上の従業員が解雇された。2024年の状況は、8月までに13万5000人以上の従業員が解雇されている。IT企業の雇用情報を追跡するWebサービスtrueup.ioは、IT企業が2024年1~8月に発表したレイオフ情報を700件以上と見積もる。ブローカー(仲介業者)分析サイトを運営するBestBrokersは、2024年のレイオフ傾向を見た上で、「今後IT業界はさらに大量のレイオフを実施する可能性がある」と推測する。
IT企業で、AI技術への投資とレイオフが関連していることを裏付ける事例を以下に挙げる。
- 2024年8月、Cisco Systemsは7%の人員を削減して、AI技術を扱うスタートアップ(新興企業)に10億ドルを投資した
- 2024年8月、Dell Technologiesは営業職の人員を削減して、AI関連部門に人員を再配置する計画を発表した
- 2024年初め、Meta PlatformsのCEOマーク・ザッカーバーグ氏は、「当社はAIに関する長期的かつ野心的な戦略目標に投資するために、従業員を解雇している」と語った
- 2023年11月、Amazon.comは、生成AI(テキストや画像を自動生成するAI技術)に資金および人的リソースを集中させ、生成AI関連のプロジェクトに注力するために、数百人規模で人員を削減する計画を発表した
- 2024年7月、ビジネスツールベンダーIntuitは同社のソフトウェアにAI技術を搭載するために、1800人の人員を削減することを明らかにした
- 2023年5月、IBMのCEOアービンド・クリシュナ氏は「AI技術で代行可能と考えられる職種は、しばらくの間新規人材を雇用しない」と発言した
- 2024年3月、インドの大手複合企業Reliance Industriesは4万2000人の人員を削減したことを発表した
- 同社の会長を務めるムケシュ・アンバニ氏は「AIは生産性と効率を飛躍的に向上させる鍵だ」と語る。
「依然として経済情勢は厳しい。企業は、AI技術への投資を増やす唯一の方法が、他の分野への予算削減だという結論に至った。その結果レイオフが頻発している」。Layoffs.fyiの創設者ロジャー・リー氏はそう分析する。
レイオフの背景としてAI技術への投資を明示していない企業もある。ただしIT業界がAI技術への投資にかじを切ったことによる影響は、複数の面で現れている。
2024年1月にGoogleが従業員に配信した社内報において、同社のCEOサンダー・ピチャイ氏は次のように語ったことが報じられた。「当社は2024年に大規模な人員削減に取り組み、優先度の高い取り組みに資金を回す計画だ。このような投資に必要な資金を生み出すには、難しい決断を迫られることもあるだろう」
この社内報で、ピチャイ氏はAIへの明示的な言及は避けている。一方でこの社内報が発行された2024年1月というタイミングは、2023年10月にGoogleが生成AIのスタートアップAnthropicに20億ドルを投じることに合意し、同年12月にAIモデル「Gemini」を公開した後だ。
Microsoftは2024年6月、同社のクラウドサービス群「Microsoft Azure」部門と複合現実(MR)部門でレイオフを実施したことを明らかにした。それを受けて同社が配信した社内報において、同社の戦略的ミッションおよびIT担当エグゼクティブバイスプレジデントを務めるジェイソン・ザンダー氏は以下のように発言したという報道がある。「当社は『AIの波』を確立させ、全顧客によるAI技術の導入を成功に導くことに注力すべきだ。それに伴って、同僚に影響が及ぶ決断を下さざるを得ない場合がある」
現在のレイオフは、以下に挙げる複数の要素が引き金になっている。
- 企業が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行(パンデミック)の下で実施した過剰な採用
- 金利上昇
- AI技術や自動化の普及
こうした複合的な要因を受けて、企業は部門の再構築と縮小を迫られているとBestBrokersは分析する。特にAI技術に費用を投じるIT企業は人員を犠牲にしているという。その他、現在のIT企業が進めるレイオフの要因として同社は、他に景気の低迷、インフレ、株価の下落、売り上げの低迷、景気後退に対する懸念などを挙げる。
次回は、レイオフの背景にAI技術があることを企業が明かせない理由を探る。
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