Citrix iForum 2011イベントリポート
安いストレージは失敗のもと、ベンダーが語るデスクトップ仮想化のリアルな動向
Citrix iForum 2011のパネルディスカッション「デスクトップ仮想化の期待と現実」をリポートする。デスクトップ仮想化の主要ベンダーが、ユーザー企業のリアルな動向、導入“失敗”事例などを赤裸々に語った。
クライアント端末のセキュリティ対策や従業員のワークライフバランス、企業の事業継続性の観点でデスクトップ仮想化に期待が集まっている。本稿では、シトリックス・システムズ・ジャパンが10月4日に開催したCitrix iForum 2011で行われたパネルディスカッション「デスクトップ仮想化の期待と現実」の模様をお伝えする。デスクトップ仮想化の導入に関与する企業の代表者6人が集まり、デスクトップ仮想化の導入状況や導入後の課題、今後の展望などを議論した。
登壇者
パネリスト(50音順)
小林章浩氏 ネットワールド勤務。デスクトップ仮想化のSEに従事。
佐山国央氏 ワイズマン勤務。介護や福祉に関するアプリケーションをASPサービスとして提供。
西脇資哲氏 日本マイクロソフト勤務。好きな仮想化技術はマイクロソフトのOptimized Desktop。
細野 淳氏 インターネットイニシアティブ勤務。DaaS(Desktop as a Service)を提供。
宮下 徹氏 ネットワンシステムズ勤務。デスクトップ仮想化の構築や評価・検証に従事。
宮原 徹氏 日本仮想化技術勤務。デスクトップ仮想化をはじめ、仮想化技術の導入、評価にベンダーニュートラルな立場で従事。
モデレーター
新野淳一氏 Publickeyのブロガーとして、技術や製品の最新動向を独自の視点で伝える。
第一部:デスクトップ仮想化の現状と課題
デスクトップ仮想化のニーズはどこにある?
新野 デスクトップ仮想化の導入を検討するユーザー企業は今どのような課題を抱え、ベンダー企業はどのような対応をしているのかをお聞かせください。
小林 少し前まではセキュリティ課題を抱えるユーザー企業からの問い合わせがよく見受けられましたが、掛かるコストを知って考えてしまう企業も多かったです。ベンダー側としては、セキュリティだけでなく(エンドユーザーのPCの)管理コストが減ることについても明示化する必要があると思います。また、ユーザー企業がデスクトップ仮想化を導入する場合はトップダウンでないとうまく進まないと感じます。
佐山 われわれは介護・福祉業界の職員にアプリケーションを提供しています。2001~2003年ごろはクライアント/サーバ型でサービスを提供していましたが、バージョンアップのたびに職員にCD-Rを配っていました。当時はあまりPC操作に慣れない職員が多かったため、「面倒でやってられない」という声が多かったです。そのため、アプリケーション仮想化を使い、アプリケーションをサーバ側のサービスとして提供し、職員には本来の業務に集中してもらうようにしています。
新野 小林さんからはセキュリティ課題、佐山さんからはエンドユーザーに使いやすい環境を提供するという課題でデスクトップ仮想化のニーズがあるということでした。デスクトップ仮想化はコストに見合わないと感じるユーザー企業も多いようですが、佐山さんのところではコストの問題は出なかったのでしょうか。
佐山 確かにコストを楽観視できたわけではありませんでしたが、介護・福祉業界はエンドユーザー数が多く、一気に広まった感はあります。
新野 規模でカバーできたのですね。日本マイクロソフトの西脇さんはどうですか。
ベンダーが苦しむ、導入のハードルとは?
西脇 導入を判断するユーザー企業の考え方に遅れが見られます。デスクトップ仮想化はCitrix Systemsがメタフレームの時代からテクノロジー先行で引っ張ってきた市場です。マイクロソフトもそれについて行きました。
ユーザー企業の導入のハードルをクリアするには、「PCの運用は個人に任せる」という慣習を打破する必要があります。デスクトップ仮想化ではデバイスとソフトウェアを分けて考えなければなりません。かつ、ソフトウェアとユーザー設定・情報も分ける必要があります。PC管理に関する責任の所在も変わります。技術的な説明だけでなく、こうした概念をユーザー企業に理解してもらうことが大事です。
新野 企業が導入した後に「こんなはずじゃなかった」とならないために、機能やコストだけでなく概念も理解してもらう必要があるということですね。
細野 われわれはDaaS(Desktop as a Service)を提供していますが、DaaSはまず1カ月間ユーザーに試してもらい、よければそのまま使ってもらえばいいので、導入のハードルは低いと思います。少ないリソースで運用できるならば不要な分は解約すればよいのですから。
赤裸々ディスカッション! 導入“失敗”事例も……
新野 小林さん、システムインテグレーター(SI)としてサイジングは難しいですか。
小林 サイジングは難しいです。ある程度の計算式は存在しますが、ユーザー企業が実際に使ってみると想定と変わる部分もありますよね。
新野 思い切って聞きますが、計算式が当たる確率と外れる確率どれくらいですか?
小林 やはり外れるようには計算しません。少し多めにサイジングすることが多いです。
新野 安全性を見込むとなると、その分は今度コストに跳ね返ってきますよね。
細野 デスクトップ仮想化のTCOが難しいという話ですが、デスクトップ仮想化には、お金にしにくい“生産性”があると思うんです。PCの利用には“見えないエンドユーザーのコスト”がたくさんあります。PCの場所代、PC代、PCの電気代、パッチを当てる人件費などです。デスクトップ仮想化ではそれらが全部IT部門の費用となります。エンドユーザーは、端末が壊れたらすぐ新しいものに交換してもらえ、パッチも当てなくてよくなります。セキュリティソフトの管理もいりません。どこでも仕事ができる生産性が手に入ります。エンドユーザーのPC管理費用はコストに明示しにくいのです。
新野 今まで各社員が広く薄く負担していた手間や場所代、電気代、これらがデスクトップ仮想化でサーバ側に集まると、見積もりの中に価格の数値として載ってくるということですね。それを数値で見たユーザー企業は「コストが高い」と思うのかもしれません。そこを説得するのが導入のハードルを下げるポイントのようです。
では、コストが高いという導入のハードルをどうやって解決したらよいのでしょうか。実は打ち合わせのとき、宮下さんからストレージの費用を安く抑えようとしてデスクトップ仮想化の導入を失敗したというお話を聞きました。安いストレージは駄目なのでしょうか。
宮下 はい。先ほどの“見えないコスト”の中にはバックアップの費用も入ると思います。あるユーザー企業の事例で、提案の際、きちんとバックアップの重要性は提示していたのですが、予算の関係で当初はバックアップを取らないことになりました。しかし、導入後にバックアップの大切さが分かり、後からバックアップを取ることになりました。従来はエンドユーザーが個別にPCのバックアップを取っていましたが、デスクトップ仮想化ではIT部門がバックアップを取らなければなりません。何とか捻出できた費用で安いストレージを導入しました。すると、バックアップの機能が非常にプアで、デスクトップ仮想化のパフォーマンスまで悪くなってしまいました。問題の切り分けをする際にも、ストレージの管理機能がなかったため苦労しました。最終的にはストレージをリプレースしたという苦い経験です。やはり安物買いはお勧めしません。
IT部門がPCの管理をどこまで世話しなければならないのかを軽く見ていると大変です。
コストの話に持ち込むと失敗する
宮原 実は今のところ、サーバ仮想化の提案はよく通るのですが、一方でデスクトップ仮想化の提案は連戦連敗なんです。「デスクトップ仮想化の導入のハードルを下げるには、費用対効果の視覚化が必要」という考えの人は多いようですが、私は逆だと思います。費用対効果を得られるサーバ仮想化と異なり、費用対効果の話に持ち込んだ時点でデスクトップ仮想化の提案は負けます。つまり、コストではなく機能要件で「デスクトップ仮想化でないと駄目」という理由がないとユーザー企業は導入しないと思います。サーバ仮想化のやり方をデスクトップ仮想化に乗せてもだめですよね。
新野:コストは悩ましい問題ですね。
第二部:スマートデバイスの登場と利用
新野 最近スマートデバイスを仕事で活用しようとする動きが多くあります。介護・福祉業界ではタブレットPCやスマートフォンの活用状況はいかがですか。
佐山 デスクトップの仮想化というよりはアプリケーションの仮想化ですね。事業所の中でスマートフォンを導入したものの電波が届かないという声は多いです。無線LANを導入するとコストが上がりますし。結局使われない印象を受けます。タブレットPCは端末自体で5万円くらいするので導入に足踏みする企業も多いようです。その代わり、1万5000円程度で購入できる任天堂DSを入力デバイスとして使っていたりします。
新野 細野さん、DaaSでスマートデバイスを使いたいというユーザー企業は多いですか?
細野 今、クライアントの半分くらいからスマートデバイス活用の要望があります。特に、WindowsアプリケーションをタブレットPCで使いたいという案件が多いです。また、営業担当や障害担当が外出先からリモートアクセスして、お客さんに説明するツールとして使いたいというニーズも非常に多いです。
新野 ビュワー的な要素ですね。
細野 編集作業ではどうしてもキーボードやマウスが必要となりますからね。
宮下 われわれもスマートデバイスへの引き合いはすごくあります。ただ、個人的な意見ですが、デスクトップの配信をスマートデバイスにするのは使い勝手の問題で現実的ではないと思います。スマートフォンの画面は小さいですし、タブレットPCも画面変換が上手とはいえずオーバーヘッドも大きいです。プレゼンテーション資料の閲覧にはよいと思いますが、編集作業はさすがに厳しいです。
西脇 マイクロソフトの立場では、スレートPCの需要が高まっているといえます。結局はPCとスマートデバイスの2台持ちになる人が多い状況ですよね。2つとも有益なデバイスですが、1台でよい世界をマイクロソフトは“Next Windows”で実現したいと思っています。使いやすいが生産性は高くないiPadでは、なかなか成し得ないことだと思います。今の現実解はスレートPCを利用したデスクトップ仮想化になるのではないでしょうか。
宮原 私はiPadを発売日に買いましたが1カ月で飽きてしまい、今では机の上でNHK時計を表示する置物になっています。
今日のパネリストに3人もMacBook Air持参者がいるように、バリバリ仕事をする人には非同期で完結できるデバイスが1つくらいないと困ります。スマートフォンでのデスクトップ仮想化は、携帯電話の付加機能にはなると思いますが、あまり相性が良いとはいえません。入力デバイスと画面サイズの問題は非常に大きいのです。
新野 もう少し前向きな議論が出るかと思いましたが、意外な結果となりました。
第三部:デスクトップ仮想化の先にある未来
新野 デスクトップ仮想化はそもそもデスクトップやアプリケーションをデリバリーする手段として開発された技術です。これは将来どうなると考えますか。1人ずつ聞いていきましょう。
佐山 デスクトップ仮想化の1番のメリットは情報がサーバという安全な場所にあることです。事業継続性を考えると、導入が一層進むと思います。
新野 東日本大震災以降、ユーザー企業の災害復旧(DR)の意識はどうですか。
宮下 需要は非常に高まりました。机上で検討していたユーザー企業からも、実際にデモをしてほしいという要望が増ました。
細野 われわれは東日本大震災以降、停電対策への対応が多かったのですが、それも尻すぼみになってきました。今は、ユーザー企業がもう少し腰を据えて、会社の事業を続けるとはどういうことかを真剣に考えている時期だと感じます。
佐山 医療業界では、今回の震災でカルテを全部流されてしまった病院も多かったので、デスクトップ仮想化はどんどん普及するのではないでしょうか。
西脇 これまではデバイスにアプリケーションがひも付いていたため、アプリケーションがインストールされる先はデバイスでした。しかしデスクトップ仮想化では、アプリケーションが配信される先は個人です。エンドユーザーは、どこでアクセスしてどのデバイスを使おうが同じアプリケーションにアクセスできます。
この先に理想があります。それはポリシーに基づいてアプリケーションがデリバーされることです。例えば、エンドユーザーが人事部から総務部に異動したとき、アプリケーションのポリシーは変わります。それが設定で変わるのではなく、部署ごとのポリシーにのっとってアプリケーションがデリバーされる仕組みになるといいです。いよいよアプリケーションとデバイスが分離され理想形に近づきます。
細野 デスクトップ仮想化が導入されることで、従業員がPC盆栽(好きなアプリを入れたり、パッチを当てたり)をしなくなり、本業に専念するのというのが理想像です。
もう1つはWANがなくなることです。企業はインターネット回線のみでよくなります。エンドユーザーは私物のPCでリモートアクセスして仕事をするようになります。ネットワークのアーキテクチャが、デスクトップ仮想化によって大きく変わると思います。
宮下 デスクトップごと配信するVDI(Virtual Desktop Infrastructure)はなくなり、アプリケーションのみを配信するアプリケーション仮想化が主流になるのではないでしょうか。例えば、インターネットを経由してアプリケーションを使い、どこからでも安心して自分のファイルが開けるのが理想です。
宮原 私は最近、たった300グラム軽くするためにPCを買い替えました。理想を言えば、PCを持ち歩かず手ぶらで仕事がしたいのです。どこからでもシームレスに自分のワークスペースにアクセスする手段ができるといいと思います。
新野 配信のモデルを変えた方がいいという意見も出ました。デスクトップ仮想化の今後に期待したいと思います。
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