デスクトップ仮想化の導入戦略(前編)
デスクトップ仮想化を推し進めるビジネス部門の存在
従来デスクトップ仮想化は、IT部門のデスクトップ管理とセキュリティ問題を解決する技術として導入が進められてきた。だが最近は、複雑なビジネス問題を解決する手段としてビジネス部門が注目しつつある。
本稿は、エンタープライズデスクトップ仮想化の導入戦略について解説した2回にわたる連載の前編だ。ここでは、IT部門のエグゼクティブと専門家が、さまざまなビジネス問題に解をもたらすデスクトップ仮想化の最新のドレンドを紹介する。また後編では、企業が仮想デスクトップ技術をどのように導入するべきかに焦点を当て、そのときに直面するさまざまな課題について掘り下げる。
デスクトップ仮想化の形勢は変わった。従来、この分野はIT部門がデスクトップ管理とセキュリティ問題を解決する技術として議論し、導入を進めてきたものだが、最近は複雑なビジネス問題を解決する手段として、ビジネス部門がデスクトップ仮想化に注目し、IT部門への働き掛けを強めつつある(参考:コスト削減以外の仮想化導入メリットを見いだすには?)。
米Honeywell Internationalのエンドユーザーたちは、iPadやその他のiOS端末からAdobe FlashベースのSAPアプリケーションへのアクセスを望んでいる。ところが、これらの端末はFlashをサポートしていない。またエンドユーザーたちは、端末持参型(BYOD:bring-your-own-device)サポートモデルを会社に要望しており、一方で技術者たちは、巨大なコングロマリットのコンシューマ部門、航空宇宙部門、自動車部門、その他の製品向けに、それぞれのカスタマーサイトでのリモートサポート提供を求められている。
Honeywellで主任セキュリティアーキテクトを務めるバイジュ・シャイト氏は現在、同社の膨大なデータ資産を保護しながら、それらのシナリオを解決する方法を調査中だ。ソリューションは、デスクトップ仮想化でほぼ固まりつつある。
従業員はインストールした1つのWindowsイメージで仮想マシンを「チェックアウト」し、Flashベースのアプリを搭載したコーポレートマシンやモバイル端末と同等のユーザー体験を得ることができるとシャイト氏は説明する。インターネットに接続した仮想デスクトップをセッティングすれば、Honeywellのネットワークにトラフィックが流入することはない。これによって、リモートサポート技術者がHoneywellネットワークへのウイルス流入をダイレクトにブリッジする危険性は回避され、同時にカスタマーサポートや技術者は自由に端末を選べるというオプションを提供することが可能になり、BYODの推進にも寄与するはずだ。
米Time WarnerのWarner Bros. Entertainment部門のエンタープライズアーキテクチャおよびエンジニアリング、MIS担当副社長のアンジェロ・サレルノ氏によると、Warner Bros.では最大1万人のユーザーが「デスクトップ仮想化に向かっている」という。こうした動きの主な理由は2つある。「ある日、CFO(最高財務責任者)がCIO(最高情報責任者)の肩をたたいて、(デスクトップ)オーナーシップコストについて尋ね、仮想化すれば全てが迅速に進み、コストも節約できると聞いたのに、なぜWindows 7のロールアウトに3年もかかるのかと質問したのだ」(サレルノ氏)
それは非常に興味深い変化だ。ほんの1年前まで、幹部たちはオフショアの開発者や特定のタスクワーカーをサポートするデスクトップ仮想化のコストにためらっていた。米Gartnerによると、2010年のホステッドデスクトップのサポートコストは、要求されるインフラやスキルセットの観点から、物理デスクトップPCのサポートコストの1.4~1.7倍と見積もられていた。
「企業は必ずしも短期的なROIのために(サーバホステッドデスクトップを)やるわけではない」と、サンディエゴで開催された2011年のGartner Catalyst Conferenceでクリス・ウォルフ氏は述べた。「むしろ長期的に、つまり3年から5年ほどの期間でTCOを縮減する戦略投資といえる。それはコストを10%ほど削減するのと同等の効果を生む」
結局、コスト削減、少なくとも短期的なそれは、デスクトップ仮想化を正当化するためのビジネスケースにはなり得ない。もっとも、伝統的なデスクトップマシンの購入やハード、ソフトの更新に充てられていた資金は当然削減できるが。
ダスティン・フェネル氏は、各学期1万1000人の学生が学び、1000人の職員が働くアリゾナ州のスコッツデール・コミュニティーカレッジの副理事で、CIOを務めている。同氏は、ハードとソフトの定期的な更新に当てていた予算(サポートコストも含む)を、デスクトップ仮想化技術の導入に振り向けた。
「『このプロジェクトの初期投資として5200万ドル必要だが、それによって運用支出が大幅に削減され、結局4年で元が取れるだろう』などということを、私は理事会で決して言わなかった」と、フェネル氏は述べた。「ただ、いずれ非効率で高価な技術の更新のために使われるはずの予算を、新規(デスクトップ仮想化)プロジェクトに転用しただけだ」
デスクトップ仮想化のコストに関する記事
大学の仮想化プロジェクトが示す可能性
大学組織は金融や医療セクタの企業と異なり、政府のさまざまな規制やセキュリティコントロールが適用されない。だが、スコッツデール・コミュニティーカレッジがデスクトップ仮想化技術の導入を決めた背景には、企業が既に、あるいはいずれすぐに社内外で取り組むことになるであろう幾つかの事情がある。
- 同カレッジのITおよび全体の運用予算は2008年から毎年カットされてきた
- フェネル氏はカレッジの理事たちから、技術へのアクセスを拡大し、従来と違った学生(世界中に広がるリモートの学生)もサポートするように命じられた
- ITのコンシューマリゼーション(産業分野と消費者分野の逆転)に伴い、同カレッジは学生に彼らが利用する端末や学習する場所を問わず、どのようにデータやアプリケーションを提供できるか明らかにする必要があった
- 従来型のデスクトップサポート、すなわちパッチを当て、数千台ものデスクトップを何度もアップデートする方法は、持続可能ではなく、コスト効率が悪い
学生や職員が利用する端末が多様化したことで、特定のモデルに限定した強制的なサポートモデルを改める必要性が生じ、認定された端末だけを利用するといった制限が同カレッジのポリシーから消えた。「今や利用する端末は自由。われわれは全てサポートする」とフェネル氏は胸を張る。
学生の端末選択は、実際どの程度広がったのだろう。ある学生は全ての講義およびアプリケーションにプレイステーション 3(PS3)でアクセスしているという。同カレッジのIT部門は現在、学生や職員がそうした端末からでもWebインタフェースへアクセスできるようにしている。ユーザーがActive Directoryの名前およびパスワードでログインすると、ゲートウェイが安全なVPN(仮想プライベートネットワーク)を確立し、そのユーザーが利用可能なサービスのみを提示する仕組みだ。
こうした独自のアプローチは、ローカルPCにOSをインストールすることから、ホステッドアプリケーション、ホステッドデスクトップ、サーバベースコンピューティングおよびアプリケーション、OSストリーミングまで、一連のデスクトップ仮想化技術と非仮想化技術を通して実現した。
「(仮想デスクトップインフラ技術については)『1つの指輪が全てを支配する』といった過剰な宣伝文句が踊っているが、それは真実ではない」とフェネル氏。「他の多くのプロジェクトと同様、われわれは適切なソリューションを実現するために、さまざまなツールを使う必要がある」
デスクトップ仮想化の基礎を知る記事
人中心のコンピューティングを実現するもの
Gartnerのウォルフ氏は、デスクトップ仮想化が彼の言う「人中心のコンピューティング」を実現する技術の1つだと確信している。それは、ほとんどの企業が生き残るために必然的にサポートすることになるモデルだ。人中心のコンピューティングは、ユーザーがどのようなデ端末を用い、どのような場所にいようと、必要なデータやアプリケーションへのアクセスを提供する。
「ユースケースはアプリケーションとデータだ」とウォルフ氏は説明する。「特定のOSに縛られることはない。さまざまな端末を使い、アプリケーションやデータを自由に利用する。まさにシンプルそのものといえるだろう」
IT部門の幹部や専門家たちによると、企業をデスクトップ仮想化へ走らせるもう1つのファクターは、SaaS(Software as a Service)モデルベースのアプリケーションの幅広い普及だ。SaaSベースアプリケーションは、リモートアプリケーションへの安全なアクセスを必要とする。このモデルをサポートしなければ、ユーザーは失望し、恐らく一部のユーザーはIT部門を通さずに、それらのサービスを勝手に利用するようになるだろう。IT部門はデスクトップ仮想化によって、SaaSベースアプリケーションへのユーザーアクセスをコントロールしながら、好きな場所から好きな端末でデータにアクセスしたいというユーザーをサポートすることが可能になるだろう。
デスクトップ仮想化は、多くのビジネス問題やITサービスデリバリーのジレンマを解決するストレートな解答であるように思える。しかし、インフラを構築し、デスクトップ仮想化をサポートすることはそれほど簡単ではない。次回では、IT幹部や専門家たちが、その点を議論する。
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