デスクトップ仮想化って何?(前編)
デスクトップ仮想化がもたらす柔軟で堅固なIT基盤
2010年が元年といわれるほど注目されているデスクトップ仮想化。かつて期待されたシンクライアントやサーバベースコンピューティングとは何が異なるのか。
デスクトップ仮想化がワークスタイルを変える
即断即決が求められる現代のビジネスシーンで、これまでのようにPCの持ち出しを禁止したり自宅や外出先から会社のネットワークへのアクセスを制限したりしていては競争に打ち勝っていくのは難しい。いつでも、どこにいても安全で快適に利用できるITインフラを用意することが、社員に対する企業の責務となりつつある。
それを容易に実現できる手段として、デスクトップ仮想化(仮想デスクトップ技術)に注目が集まっている。
デスクトップの仮想化とは、各ユーザーに分散していたデスクトップPC内のOSやデータ、アプリケーションのすべてをサーバやデータセンターに集約し、仮想デスクトップとしてPCやスマートフォンなどさまざまな端末からリモートアクセスできるようにする技術のこと。OSやアプリケーションが入っていなくてもユーザーは普段使っている端末をそのまま使用でき、WindowsやMac、Linux環境でも従来通りのアプリケーションが利用できることがポイントだ。一方、管理者にとっては、わざわざ専用端末を用意する必要はなく、重要なデータを集中管理することで、OSやアプリケーションのメンテナンス、印刷やコピーの制御などセキュリティ対策も一括でできるのが大きなメリットとなる。
では、今後デスクトップ仮想化はどれほど普及していくのだろう。IDC Japanが2009年11月に発表した「国内クライアント仮想化市場2009年上半期の分析と2009年~2013年の予測」によると、2009年上半期に26万ライセンスが出荷された国内のクライアント仮想化ソフトウェア市場は、2013年には124万ライセンスまで増加すると予測。中でもデスクトップ仮想化ソフトウェア市場は、2008年~2013年の年間平均成長率が61.8%で推移するとみている。
シンクライアントの課題を克服できるか
シンクライアントに代表されるセンター集約型のデスクトップソリューションは、既に10年以上も昔から提案されてきたが、これが広く普及することはなかったのはなぜだろうか。
「従来のシンクライアントは、セキュリティの強化やコスト削減、生産性の向上、モビリティの強化といった部分で期待が大きかった半面、実のところはパフォーマンスへの不満、標準化の不統一と方式の乱立、コストの増加といった問題も多く、社内ユーザーに不便なシステムを無理強いすることにもなっていた」と語るのは、ヴイエムウェアでパートナーシステムズエンジニアリング部長を務める野崎恵太氏だ。
それらの懸念を1つひとつ克服していけるのではないかという可能性に、デスクトップ仮想化への期待があると野崎氏はいう。
主流の画面転送型といわれる方式でも、サーバベースコンピューティング(SBC)方式やブレードPC方式、仮想PC方式(またはVDI方式)などがあり、それぞれ一長一短ある。だが、サーバ仮想化が普及の兆しを見せ始めた2009年あたりから、サーバ統合の延長でデスクトップそのものもデータセンターで標準化するメリットが認知されてきた。CPUなどハードウェアの強化やネットワークコストの低減によってインフラの土台が整い、仮想化技術によって、ユーザー、ハードウェア、ソフトウェアを切り離して管理可能になった技術的進展の影響も大きい。
「一昔前のシンクライアントが理想とするも実現できなかった姿が、デスクトップ仮想化でようやく形作られようとしている」と述べるのは、ヴイエムウェアのデスクトップスペシャリストの橋本洋氏。「デスクトップ仮想化は基幹システムを中心に導入が急速に進みつつあり、1年前とは企業の積極性がまるで異なるほど引き合いは多い」という。
デスクトップ仮想化が企業を元気にする7つの理由
では、デスクトップ仮想化を導入するとどんなメリットがあるのか。さまざまな要因によって条件は変るが、企業を元気にする7つの理由を考えてみた。
第1が、セキュリティリスクの削減とコンプライアンスの強化。これまでは、重要なデータはローカルのクライアント側にも置かれた状態で、無許可のUSBデバイスの使用やファイル共有ソフトの利用、PCの紛失・盗難など、情報漏えいの危険と隣り合わせにあった。
デスクトップ仮想化により重要なデータがサーバやデータセンターに集約されることで、仮に端末が紛失や盗難に遭ってもさほど重大問題ではなくなり、またUSBデバイスの利用制限もできるので、セキュリティレベルを格段に向上させることができるのである。ちなみに、日本はサーバ仮想化では欧米に一歩遅れたものの、セキュリティ目的のデスクトップ仮想化導入率では現在世界最先端レベルにあるという。
第2に、管理の効率化とTCO削減。クライアントPCはオンサイトの修理や頻繁なリプレース作業、OSパッチ・アプリケーションのアップデート管理、人事異動に伴う配布と回収、環境設定作業などの手間とコストが掛かり、管理者は日々忙殺されている。
デスクトップ仮想化ならオンサイトのサポートは不要だ。管理者主導でデスクトップの標準化が進められ使い捨ても自由。アプリケーションとパッチの集中管理や万一端末に故障が発生した際もスナップショットで現状復帰が容易である。突然の人事異動があっても、クリック操作だけでデスクトップ環境の配布と回収が実施できるので管理者負担を大幅に軽減できる。
Windows 7で期待されるデスクトップ仮想化の普及
第3が、サービスレベルの向上。クライアントPCの可用性とデータ保護には限界がある。PCの故障による修理・交換の間の業務停止、遅延は避けられず、全社員に予備のPCを用意しておくことも現実的には難しい。
サーバの可用性とデータの一括保護の恩恵を受けるデスクトップ仮想化ならば、冗長化によるSPOF(単一障害点)を排除し、最低限の予備のPCがあれば故障の際も端末を交換するだけで業務を再開できる気軽さがある。柔軟なリソース管理とプロビジョニング(万一の場合の準備と供給)が可能になる。
第4に、規模の柔軟性。仮想化は規模の大きさで効率が評価される。デスクトップ仮想化は多数の端末をわずかな人数で管理することを可能にする一方で、端末が数十台程度の中小企業でも運用管理の負担が軽減できる懐の深さが特長だ。
また、部門単位で開始し、全社規模にまで拡大するというスケールアウトが自由であり、柔軟な運用管理基盤を作れることも大きなメリットといえる。
第5は、Windows 7での展開。Windows 7に換装するに当たり、ハードウェアやアプリケーションのスペックを見直している企業も多いだろう。PCの多くに手を加えなければならずコストや時間もかかる。しかしデスクトップ仮想化を利用すると、古いマシンでも最新のWindows 7を利用することができ、Windows XPまでしか対応していない古いアプリケーションも引き続き利用できる。
数千台のPCに最新のパターンファイルを一斉適用
第6が、変化への迅速かつ柔軟な対応。OS・アプリケーション・ユーザープロファイルを独立して管理し、必要に応じて組み合わせてオンデマンドで利用できるデスクトップ仮想化は、変化に対して極めて迅速かつ普遍的に応じられる手段となる。緊急に新たなウイルス/ワーム検出用のパターンファイルの適用が必要になった場合、統合管理が可能な企業向けのウイルス対策製品を利用していない限り、数千台ものPCを一斉にメンテナンスすることはほぼ不可能に近かった。しかし、デスクトップ仮想化なら1人の管理者が管理コンソールを使って全PCに対し、ネットワーク負荷を掛けずほぼ同時にパターンファイルを適用させることができる。
また、新しいシステムをカットオーバーする際にも、すぐに新しいアプリケーションを追加し、適切なポリシーに従って利用させることができる。大量の人事異動が発生してもリモートで異動者の環境を回収し、すぐさま新しい担当者用の環境を追加して配布することもできる。
そして第7は、リターンの果実。デスクトップ仮想化に取り組むにはある程度の初期投資が必要だ。予算の少ない小規模な企業は初期投資がネックとなるが、それさえクリアできれば端末は少ないため比較的取り組みやすいだろう。問題は大規模企業である。端末の規模が大きいため導入のハードルは極めて高くなる。しかし、取り組んだ結果のリターンも大きい。このリターンとは、根本的なセキュリティ対策や、災害対策、パンデミック対策などの事業継続性強化、モバイル運用や在宅勤務の基盤作り、オフショア、アウトソーシングへの対応、集中管理による効率化、環境負荷低減などさまざまなメリットを得られる可能性がある。
シトリックス・システムズ・ジャパンのマーケティング本部でプロダクトマーケティングの担当部長を務める竹内裕治氏は、「これからのクライアントPCの環境は、仮想デスクトップをパートナー各社がサービスとして提供するDaaS(Desktop as a Service)やクラウドサービスのコアテクノロジーと深く結び付いていく」という見方を示す。
現在、ベンダー各社は本腰を入れてデスクトップ仮想化に取り組み始めており、今後さまざまな技術やサービスが生まれてくると思われる。自社のクライアントの管理実態を今のうちに分析して、デスクトップ仮想化の導入に備えることも必要かもしれない。
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