国内市場動向から読み解く仮想化
【導入効果】コスト削減以外の仮想化導入メリットを見いだすには?
サーバ、ストレージだけでなくデスクトップ領域まで仮想化の取り組みは広がっている。しかしそこで留意しなくてはならないのが仮想化そのもののクオリティだ。それがコスト削減以外の仮想化導入メリットだといえる。
2008年が日本の「仮想化元年」
IT専門調査会社IDC Japan(以下、IDC)は、2009年4月に「国内仮想化ソフトウェア市場規模予測」を発表した。それによると、一般にハイパーバイザーと呼ばれる製品のうち有償の仮想化ソフトウェア関連市場規模は2008年において前年比54.2%増の156億円となった。IDCでは2008年から2013年の年間平均成長率を26.1%とし、2013年には498億円に達するとしている。
IDCのソフトウェア&セキュリティマーケット アナリストの入谷光浩氏は次のように述べる。
「仮想化ソフトウェア市場は、サーバ統合など短期的なコスト削減策の1つであると同時に、仮想化を標準基盤としていくことで運用管理の効率化や可用性の向上を図るという活用のフェーズにシフトしつつあります。仮想化ソリューションを提供する国内ベンダーは、短期的なコスト削減策だけではなく、中長期的な仮想化メリットを提案していくことを求められるようになってきています。仮想化技術で構築したITインフラをより効率的に運用管理していくためにはどうすればいいのか。こうした問題は、今多くのユーザーが直面している課題なのです」
またこの調査では、仮想化ソフトウェア市場に含まれるものとして「アプリケーション/ユーザーセッションバーチャライゼーション」という分野を挙げている。これはシンクライアントを含めたクライアント仮想化関連ソフトウェア市場を指している。この市場について、IDCは2008年において前年比13.2%増の141億円の市場規模とした。そして同分野の2008年から2013年の年間平均成長率は10.8%で、2013年の市場規模を236億円と見込んでいる。
IDCでは、有償のハイパーバイザー市場とクライント仮想化関連ソフトウェア市場を合わせた国内仮想化ソフトウェア市場は2008年で298億円、2013年の予測では734億円の規模に達すると見ている。
入谷氏によると、おおむね国内のソフトウェア市場は好景気においても数%の平均成長率を示すのが大半であると話す。これに対して、景気低迷期でも10%以上の成長率が見込まれる仮想化ソフトウェアの市場は、まさに今後の動向が楽しみな市場であるという。
「ただし、市場としてはまだ未成熟。ハイパーバイザー関連市場についてはまだ激烈な競争が始まっているというよりも、各ベンダーとも市場を成長させようという姿勢が強い。今回の調査でいえば有償のハイパーバイザーが調査対象なので、VMware製品の勢いが結果に色濃く反映しているといっていいでしょう」
仮想化ソフトウェア市場におけるハイパーバイザー関連市場ではVMwareが圧倒的な強さを示しているが、この状況について入谷氏は次のように話す。
「市場規模の推移を見ると、2008年が日本の『仮想化元年』ということになるでしょう。VMwareはOEM供給を開始し、国内の大手ITベンダーが販売、サービス体制を整えてユーザーにソリューション提供を始めたことが現在の勢いを形成しているといっていい。大手企業が大規模導入をする際は多くの場合、有償でもVMware製品が使われる。製品に対する信頼感がユーザー、ベンダー双方とも高いわけです。短期的にはこの状況は続くでしょう。ただし、中長期的にはいろいろな変化が出てくるのではないでしょうか」
その変化というのは仮想化ソフトウェアとしては無償で提供されている、Microsoft、Citrix Systems、Oracleなどの製品が巻き起こすものだという。
「これらの製品は、仮想化のすそ野を広げていく役割を持っています。まずITインフラを仮想化基盤によって刷新した大手、中堅企業やこれから低コストで仮想化に取り組む中小企業に受け入れられていく可能性は非常に高いと思います」(入谷氏)
そうなれば、ハイパーバイザー関連市場にも大きな変動が起こる可能性は高いとみていいだろう。仮想化環境での運用管理製品など関連ソフトウェアの市場が広がると同時に、無償の仮想化製品に関連したソリューションが数多く出現することになるからだ。
クライアント環境をどうしたいのかが問われる
ところで、仮想化関連ソリューションを提供するベンダーはさかんに「デスクトップの仮想化を」というメッセージをユーザーに投げかけ、具体的な製品、サービスを市場に投入している。デスクトップの仮想化はVDI(Virtual Desktop Infrastructure)と呼ばれる。仮想インフラで稼働しているバーチャルマシンにデスクトップ環境を構築し、ユーザーはリモートでクライアントデバイスに接続してバーチャルマシン内のデスクトップを活用するというソリューションだ。
入谷氏はこのことについて次のように話す。
「VMware製品で自社のインフラを仮想化したユーザーの中には、デスクトップ仮想化に注目している人が少なからずいるようです。まずサーバ統合で仮想化に取り組んで、その後大きな問題もなく稼働しているというユーザーは、仮想化そのものに対する抵抗感がかなり薄まってくるのだと思います。サーバ統合などに活用した技術をさらに拡大して活用したいというプランが出てくるのだと思います」
一方、クライアント仮想化市場についての調査を担当している、IDCのPC携帯端末&クライアントソリューション シニアマーケットアナリストの渋谷寛氏は次のように話す。
「クライアント仮想化市場というのは、IDCではシンクライアント端末、クライアント仮想化ソフトウェア、それに関連するサービス、ソリューション、ホスティングを含みます。IDCでは、シンクライアントについて『専用端末』と『シンクライアント化端末』という分類をしており、シンクライアント化端末というのは、PCにUSBメモリキーを差し、その中のOSからブートしサーバに接続する方法となります。専用端末をベースにシステムを構築する形態をシンクライアントソリューション、シンクライアント化端末をベースにシステムを構築する形態をシンクライアント化ソリューションと定義しています。最近各ベンダーがサービスとして打ち出しているDaaS(Desktop as a Service)もクライアント仮想化市場に入ります。クライアント仮想化市場という枠組みにおいては、デスクトップの仮想化も実現手段の1つというわけです」
渋谷氏は、サーバの仮想化がうまくいったからデスクトップの仮想化へ、という発想のみでソリューションを構築していくのは無理があると話す。
「クライアント仮想化は、昨今の仮想化ソフトウェアの発展とは別の道筋で進化してきており、ソリューションの種類はどんどん広がってきています。シンクライアントも第3世代というべき段階に入り、非常に使い勝手がよくなっています。またブレードPCを活用したソリューションなどもあります。仮想化ありきではなく、まずクライアント環境をどうしたいのかをユーザー企業自身が考えなくてはならない」
クライアントを仮想化する目的は主として3つだ。TCOの削減、運用管理の効率化、セキュリティ強化である。IT部門の担当者がエンドユーザーに対して個別にクライアント端末の面倒を見なくてはならないという非効率的な運用を廃し、端末に掛かる諸経費を圧縮、セキュリティも強固なものにするというのが目標になるが、3つすべてを満たすソリューションはなかなか見当たらないというのが現状だろう。
「セキュリティを高いレベルに保とうとすれば、当然費用は高くなりますし、逆のこともいえる。そうした条件の中で、何を目指すのかを見極めなくてはならない。しかし多くのユーザー企業がクライアントにかかわるコストを把握できていないという現状があります。クライアント環境のコンサルテーションを強化すべきだと思います」(渋谷氏)
サーバ仮想化の成功体験にこだわるな
デスクトップの仮想化、ひいてはクライアントの仮想化の問題について専門家の意見を聞くだけでも、ユーザー企業が抱える問題が透けて見えてくる。サーバ仮想化での成功体験だけでクライアントの仮想化に取り組むのは、やはり危険だといえるだろう。入谷氏は次のように語る。
「サーバの仮想化については、具体的に『5台のサーバを1台にまとめます』『コストはこうなります』といった形で経営側に説明がしやすかったし、認められることも多かったと思います。これに比べてクライアント仮想化は分かりやすい効果の説明がしづらい。ある目標を定めて、自社に適したクライアント環境を構築する必要性を説得するしかないのです」
渋谷氏が説明してくれたように、数多くあるクライアント仮想化の手段の中からデスクトップ仮想化の方法を選んだとしても、サーバ仮想化の延長線上の発想ではなく、コスト管理を徹底した上での提案が必要になる。協力する側のベンダーもそうした事情を踏まえた提案が求められるようになるだろう。
入谷氏が話すように、非常に分かりやすい説明で厳しい経済環境を乗り切る手段として重宝がられている仮想化ソリューションだが、今後はより厳しい効果目標が経営側から出てくる可能性がある。そこで問題となってくるのは、仮想化のクオリティともいうべきものだろう。
「部門ごとにサーバを設置している企業などで、ITインフラを統合せずにそのままサイロごとに仮想化をしているケースなどは『もっと効率化できないのか』という圧力が強まってくるのではないでしょうか。さらなる効率化を進めるには共通のプラットフォームを構築する必要が出てきます。関連会社なども巻き込んだ共通のIT基盤を構築し、仮想化でサーバやストレージを集約していくわけです。そうした取り組みがプライベートクラウド構築の足掛かりになり、ビジネスチャンスを生み出すきっかけともなる。こうした取り組みがクオリティの高い仮想化の利用だといえるでしょう」
仮想化関連の市場は今後も高い成長力を維持していくとみられるが、ユーザーが仮想化のメリットを最大限獲得していくには大きな決断が必要となってくるともいえる。
「日本企業は、サーバ仮想化においても非常に慎重に進めてきた。欧米なら3カ月ほどで構築してしまうものを1年ぐらいかける。その分失敗も少ないが欧米が10台を1台にまとめてしまうところを半分くらいの割合でしか統合していないケースが多いと聞きます。プラットフォームを共通化する取り組みなど、今後はCIOやその役割を担うリーダーの指導力が問われてくると思います」と渋谷氏も話す。
ビジネスの現場では「今日の成功が明日はもう役に立たない時代になった」といわれる。仮想化においても過去の成功体験を否定するような発想が求められつつあるのかもしれない。
<アナリスト紹介>
渋谷 寛
IDC Japan PC、携帯端末&クライアントソリューション シニアマーケットアナリスト
日本IBM、Lenovo Japanを経て2008年より現職。リサーチ部門のPCグループで、PC、シンクライアント、クライアント仮想化の市場調査、分析、予測を行っている。IDC入社以前は、日本IBMの開発部門でソフトウェア開発、検証、テスト、製品保証、その後PC事業部でテクニカルサポート、Lenovo Japan営業部門においてプリセールスSEとして大手通信・メディア系顧客を担当。BOND大学大学院MBA(経営学修士課程)修了
入谷光浩
IDC Japan ソフトウェア&セキュリティ マーケットアナリスト
IDC Japanソフトウェア&セキュリティグループで、インフラストラクチャソフトウェアの担当アナリストとして市場の分析・予測を行う。IDC入社以前はシンクタンクで官公庁の調査研究事業に従事した後、国内大手調査会社にてソフトウェアを中心にIT市場の調査を担当。メディアへの執筆や講演・セミナーでも多くの実績を持つ。その後、外資系電機・電子メーカーにおいて国内の新規事業企画・開発を担当し、2007年から現職。
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