事例に学ぶ効果と課題
「AWS+OpenStack」で“ちょうどいいハイブリッドクラウド”は構築可能か
パブリッククラウドとプライベートクラウドには、それぞれメリット・デメリットがある。その間を取るものとして、ハイブリッドクラウドに注目が集まっている。AWSとOpenStackを用いたハイブリッド環境の構築事例を紹介する。
「パブリッククラウド」という言葉を耳にすると、IT部門の大半は瞬時にコスト削減を連想する。米Amazon Web Services(AWS)、米Google、米Microsoftをはじめとした多くのITベンダーがクラウドサービスを提供している。クラウドにアプリケーションを移行すると、確かに企業の支出を抑えることができる。だが、クラウドサービスベンダーを選定する際に、コストに対する評価が決め手になるとは限らない。
ソーシャルCRMの統合管理ソフトウェアを提供する米Lithium Technologies(以下、Lithium)は、2014年末に顧客向けアプリケーションをパブリッククラウドへ移行する作業を開始した。Lithium Technologiesでクラウド担当エンジニアを務めるジャスティン・フランクス氏によると、同社では、Google、Microsoft、米RackspaceなどのITベンダーを幅広く検討したという。しかしながら、最終的には、最も使い慣れたITベンダーのクラウドサービスを採用するに至った。
「当社にはAWSに習熟したエンジニアが数人いた。そのため、まずはAWSを使うのが自然な流れだった」(フランクス氏)
そうした背景がAWSを採用する後押しとなって、パブリッククラウドの導入を容易にしたわけだが、実際には多少の調整作業が必要となっていた。アプリケーションのレジリエンス(回復力、弾力性)に関する課題に取り組まなければならなかった。具体的には、必要に応じてインスタンス数が増減するクラウド環境に、アプリケーション側が確実に対応するための措置だ。回復力と弾力性を検証するテストを実施し、Lithiumが顧客と取り交わしているサービスレベル契約(SLA)および関連する全てのセキュリティ要件をサービスが満たしているかどうかを確認した。
新たなアプリケーションをAWSへ移行することは容易だった。つまり、クラウドインフラを活用するために、一からアプリケーションを開発したためだ。フランクス氏は次のように述べる。「従来の環境で実行していたレガシーアプリケーションをパブリッククラウドで動作させるには、ソースコードを書き直す必要がある。アプリケーションの回復力を向上し、米HashiCorpの『Consul』や米Chefの『Chef』といったテクノロジーに対応させなければならない。レガシーアプリケーションには、多少の追加作業が必要になる場合がある」
パブリッククラウドへの移行プロジェクトを軌道に乗せるに当たって、開発者はコスト面あまり気にしている様子はなかった、とフランクス氏は指摘する。クラウドでのアプリケーションの運用が始まった現在、IT部門では自社開発ツールとサードパーティー製ツールを用いてAWSのコストを最適化する作業を進めている。
「AWSのコスト監視ツールを使用しても、自分たちが使っている仮想マシンに関して納得できるレベルの分析は行われなかった。当社の場合、AWSのコスト監視ツールが十分とは思えなかった」(フランクス氏)
Lithiumでは、ベンダーロックインも懸念していた。そのため、単一ベンダーのテクノロジーに依存することを警戒している。十分な時間があれば、大抵のクラウドサービスにアプリケーションを移行できる、とLithiumのIT部門は考えている。
「AWSに問題があれば、他のクラウドベンダーのサービスを用いてアプリケーションを準備する必要があるかもしれない」とフランクス氏は語る。
ハイブリッドクラウドのスイートスポットを探す
アプリケーションの回復性、コストの最適化という課題はあったが、パブリッククラウドへの移行は“業務の効率化”という恩恵をもたらした。その結果、新たなシステムの開発期間を数週間から数分にまで短縮することができた。フランクス氏はインフラコストの大幅な削減にも期待を寄せている。
その一方で「規模の経済に関わっている場合、パブリッククラウドはもろ刃の剣になる」(同氏)と警告した。
「AWSで運用するサーバの台数が増加すると、1台当たりのコストが高くなる。データセンター内に自前でクラウド環境を構築する際の総保有コスト(TCO)を上回る可能性がある。プライベートクラウドの構築・運用によって“損益分岐点”が明確になった」(フランクス氏)
その分岐点に達したとき、Lithiumではハイブリッドクラウドを構築する決断を下した。「OpenStack」を利用してプライベートクラウドを自社構築し、AWSをはじめとする幅広いパブリッククラウドと併用した。AWSへの依存度を減らし、一部のアプリケーションとサービスをプライベートクラウドに移すことで、大幅なコスト削減につながることを期待している。
LithiumはOpenStackを本番環境で運用し、アプリケーションとサービスのワークロードを管理している。
「ハイブリッドクラウドは従来のデータセンターの役割を果たせるのではないかと考えている。それに加えて、仮想化と俊敏性という側面も兼ね備えている」とフランクス氏は語る。
だが、OpenStackを本番環境に導入する作業は、AWSにアプリケーションを移行したり、新たに開発したりするほど容易ではなかった。Lithiumの開発者は、AWSには熟知していたが、OpenStackには精通していなかった。そこで助けが必要となった。
「OpenStackでも、その他の新技術と同じことがいえる。テスト段階が終わるまで待ちたいが、競争上の優位性を考えると早く導入したい。そう考えるのは当然だろう。そこで当社では典型的な方法を採用した」(フランクス氏)
Lithiumはまず、社内リソースを使ってOpenStackの研究開発を進めた。その目的は、本番環境での運用を自社だけで行うべきか、他社の力を借りるべきかを判断することだった。最終的に同社では後者を選択し、OpenStackの専門家と他社の協力を求めた。
「特に本番環境で運用するつもりならば、OpenStackには手を付けないことが賢明だ。OpenStackは幅広い機能群で構成されている。当社では、OpenStackを開発環境で利用する企業と定期的に連絡を取り合っている。だが、それに対応してくれるのはごく少数だ」(フランクス氏)
OpenStackの専門家を雇用する予定はあるのかという質問に対し、フランクス氏は直接のコメントを控えたが、Lithiumでは常に人材を探しているとした。
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