エンタープライズのためのOpenStack検討ガイド【第2回】
OpenStackは企業ITで有りか無しか AWS、VMwareとの違い
OpenStackが企業ITの進化にどのように寄与するかを考える。「VMware vSphere」のような仮想化基盤や「Amazon Web Services」(AWS)のような非オープンソースクラウドとの違いは? 両者との使い分け、共存の可能性も探る。
連載第1回「“オープン”以上の価値がある、OpenStackが企業で歓迎される理由」では、OpenStackがなぜ注目されているのか、最新の動向や他技術との比較を交えて解説した。今回は、OpenStackが企業ITの進化にどのように寄与するのかについて考えたい。仮想化基盤や非オープンソースクラウドとの違い、使い分けについても触れる。
連載インデックス
OpenStackはどのようにビジネスへ貢献できるか
とにかくアジリティ(俊敏性)
第1回の繰り返しになるが、OpenStackとは「データセンターの全てを自動化しようと企てているプロジェクトと、その成果物であるソフトウェア」だ。ITの構成要素であるハードウェア/ソフトウェアを、欲しいときにすぐに手に入れられる、使わなくなったら即解放するという仕組みである。従来、このプロセスの最大のボトルネックは人間のコミュニケーションと手作業だった。それを自動化し、ビジネスの要求するスピードに追従できることがOpenStackの価値だ。日本では一般的ではない言葉かもしれないが「アジリティ(俊敏性)」と表現されることが多い。
例えば、以下のような要求があるとする。
- 1CPU、4Gバイトメモリのサーバが欲しい、OSは“XX Linux”のバージョン7
- サーバ起動後にソフトウェアを8種類ほどインストールしたいので、スクリプトを起動時に動的指定したい
- 100Gバイトの外付けディスク領域を作り、先ほど設定したサーバに接続したい
- ネットワークは用途別に3系統作り、先ほど設定したサーバに接続したい
- 同じような案件で再利用できるように、上記作業をまとめて実行するテンプレートが欲しい
このような作業は従来、それぞれ専門のエンジニアが、打ち合わせから設計、実装まで何日も、何週間も時間をかけてやってきた。それがOpenStackを使えば、GUIはもちろんのこと、APIを通じ自動的に実行できるようになる。大きさにもよるが、数秒から数十秒でリソースが得られるのだ。そしてその手順がプログラム化されていれば繰り返し活用できる。極端な話だが、作業手順書をなくしてもいい。なぜなら作業がプログラムで表現されているからだ。
よって、それぞれのエキスパートは、作業時間と工数ではなく、このような“仕組みと結果”を提供する役割へとシフトしていく。
やや過激だが、別の表現をしたい。ITのプロ達が何週間もかけてリソースを準備している期間は、ビジネスサイドからは、残念ながら無駄な時間に見えている。ビジネスの足を引っ張っていると見られているかもしれない。その時間を可能な限り短くしよう、提供する結果と価値に集中しよう、ということである。
なお、このような話をすると、「わが社のITはそれほどダイナミックではない」という反論をいただくことがある。確かに現時点ではそうかもしれない。だが、今後も果たしてそうだろうか。現在、ITを取り巻くビジネス環境は大きく変化し、またモバイル化、データ分析の本格化、機械学習、IoT(モノのインターネット)などITの活用法が大きく変わりつつある。そして、日本には2020年にオリンピックがやってくる。日本社会の先進性を披露する絶好の機会であり、ITがそれを支えるのは間違いない。
知見なき技術者に設計はできない。今、準備することは無駄ではないはずだ。
実際どのように使われているか
OpenStack Fonudationによる最新の調査では
では、ユーザーはOpenStackに何を期待し、どう使っているのか、その声に耳を傾けてみよう。2014年11月に開催された「OpenStack Summit」に合わせて行われた調査結果(OpenStack User Survey Insights: November 2014)から特徴的なものを幾つか紹介したい。
ビジネス上の期待(Business Drivers)
OpenStackにビジネスで期待することを尋ねた設問では、上位から“Ability to innovation”(革新の機会)、“Open technology”(オープンな技術)“Cost savings”(コスト削減)“Avoiding vendor lock-in”(脱ベンダーロックイン)と続く。“Time to market”(時短)も30%以上のユーザーの期待である。「オープンな技術で、ベンダーロックインを避け、コストも下げたい」というのは、OpenStackに限らずオープンソース全体にいえることだろう。よってOpenStackならではの期待は、「イノベーションの力を得たい」「商用リリースまでの時間を短縮したい」が相当するといえるのではないだろうか。イノベーションが指すものはさまざまであるが、筆者の私見では、この文脈で「どのようなイノベーションを?」と問えば、「時短。これまでとは違うレベルで」という答えが多く返ってくるのではと思う。
導入段階(Deployment Stage)
導入目的に関しては、“Production”(商用)が46%、“Dev/QA”(開発、品質管理用)が27%、“Proof of Concept”(コンセプト実証)が27%という結果になった。コンセプト実証の比率が半年前から7%減り、商用が13%伸びていることから、着実に企業へ浸透してきていると考えられる。なお、現時点で商用環境にはアジリティを求めないが、開発環境は「作っては壊す」という特性からアジリティを必要とするケースがある。よって、開発、品質管理環境での導入は、商用をゴールにしないユーザーでも進むのではと筆者は考えている。
導入タイプ(Deployment Type)
導入方法に関しては、商用段階の“On-Premise Private Cloud”(オンプレミス型プライベートクラウド)が45%、“Hosted Private Cloud”(ホスティング型プライベートクラウド)が25%、“Public Cloud”(パブリッククラウド)が19%である。テクノロジーを手に入れたい、自らコントロールしたいという先進ユーザーがプライベートクラウドに導入していることが分かる。コンセプト実証段階のユーザーが目立って多いことから、短期的にはオンプレミス型プライベートクラウドでの活用がさらに増えるだろう。また、商用での導入順位は4番目であるが、“Hybrid Cloud”(ハイブリッドクラウド)のコンセプト実証段階ユーザーがホスティング型プライベートクラウドやパブリッククラウドよりも多く、今後のホットなテーマになりそうな予感がある。
他の技術といかに組み合わせるか
過渡期の組み合わせ、最適化された組み合わせ
将来性十分なOpenStackではあるが、一気に導入が進み、企業ITを全て集約する存在になるのだろうか。残念ながら、まだこの段階にはない。現在は過渡期であり、従来技術および他クラウド基盤と組み合わせ、使い分ける期間を経て、それぞれの企業に合った技術で標準化が進むのではないだろうか。筆者は、複数のOpenStackを組み合わせて標準化、最適化する前に、他技術との組み合わせを志向するユーザーが多いと見ている。
では、代表的な技術との組み合わせを考えてみよう。パブリッククラウドの雄である「Amazon Web Services」(AWS)と、仮想化技術のリーダーである「VMware vSphere」を例に挙げる。
AWSとの組み合わせ
よくOpenStackは「AWS互換」と表現されることがある。筆者はこの表現に違和感がある。確かにOpenStackは「AWSのような仕組みをオープンソースで実現したい」というモチベーションから生まれた。APIも一部互換性がある。しかし、機能、アーキテクチャの差異を考えると、AWS上で作ったアプリケーションをそのままOpenStackで動かせるケースはまれだろう。しかも、AWSは自らのペースで矢継ぎ早にサービスを追加している。互換を目指しても、どこかで必ずギャップが生じる。よって、厳密な互換性は期待しない方がいい。
では、どのように組み合わせればいいのだろうか。2つアイデアがある。1つはPaaS(Platform as a Service)層をかぶせること。もう1つは全く別のシステムとして機能分担することだ。
PaaS層の具体例としては「Cloud Foundry」や、にわかに注目されている「Docker」がある。どちらもAWSとOpenStackの両方で動かすことができる。AWSとOpenStackそれぞれの個性は薄くなってしまうが、これらPaaS技術を「最大公約数」として標準化することができる。アプリケーション開発の標準化は生産性に大きく影響するため、検討すべき方法だろう。
もう1つは、AWSとOpenStackを全く別のものとして共存させる方式だ。この場合、ポータルや認証、監視などをできる限り標準化し、システム間連係は都度アプリケーション層で検討、実装する。米Hewlett Packard(HP)や日立製作所といった運用管理ツールベンダーが統合管理ツールを提供している。しかし、この方式で長期的に共存していても、アプリケーションの作り方はバラバラのままであり、標準化が進まず理想的ではない。そのため、過渡期において技術の選定リスクを避けるには現実的な戦略といえる。
VMwareとの組み合わせ
さて、VMwareはどうだろう。読者の多くがVMwareで仮想化した基盤を有していると想像するが、実はOpenStackとVMwareは両立し得る。VMwareの実績あるサーバ仮想化技術を、OpenStackの管理下に置くことができるのだ。VMwareの実績、OpenStackの先進性とオープンさ、その良いとこ取りをする構成である。米VMware自身も自社製品としてOpenStackを提供すると発表しており、この組み合わせは一定の支持を得ると筆者は見ている。事例も増えており、米Intel、楽天などがOpenStackとVMwareとの組み合わせで運用している。
第2回は、OpenStackがいかにビジネスに貢献できるか、また、他の技術と組み合わせ、どのように導入が進んでいくかを考察した。次回以降はより具体的に、OpenStackで注目されている新技術、設計・実装のポイント、事例を紹介していく予定である。
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エンタープライズのためのOpenStack検討ガイド
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