IT変革力【第30回】
隠れた360度人事評価方式崩壊の弊害
日本の企業では、近年、米国に続いて成果主義や可視化政策を取り入れ始め、若手社員の育成を目指してきました。はたして、成果主義はちゃんと企業で機能しているのでしょうか。
日本企業は人事において、成果主義や可視化政策を取り入れることにより、少人数で高度な仕事を多くこなせるプロフェッショナル型社員の育成に取り組んできました。しかしここに来て、いくつかの弊害が目立ってきています。特に筆者が気にしているのは、優秀な若手社員が余計なことをしなくなった、中堅マネージャーが若手社員に余計なことをさせなくなった点です。これには、成果主義と目標管理制度の2つの組み合わせが深く関わっています。
成果主義人事を徹底させない日本企業の問題点
米国流の成果主義人事は通常、期初に中堅マネージャーと課員との間で当期の仕事の目標を、質と量の両面で合意します。課員はその目標に対してコミットし、期末に両者で成果の検証を行うというスタイルで実施されます。これは、一種の目標管理と考えられます。会社によっては全社員の個人的な人事評価をグループウェアやイントラネット上に掲示し、社員の納得感を得るという可視化政策を行っています。
また、マネージャーの評価だけではなく、周囲の他の社員の評価も加えた360度人事評価を行っている会社もあります。確かにここまで徹底すると、成果主義人事は多くの社員の納得感を伴って実施されることになります。その結果、会社全体が活性化します。
しかし、多くの会社では人事考課の可視化や360度人事評価までの徹底はなされておらず、成果主義人事が中途半端に行われているような気がします。そうなると、日本的な企業経営の根幹に触れるような問題点が出てくる場合があります。一方、多くの社員のモチベーションを破壊する事例も目立ち始めています。
消えた伝統ある隠れた360度人事評価
それでは、成果主義人事を徹底して行わず、中途半端に行う場合の問題点を考えてみましょう。昔の伝統企業における優れたマネージャーは、有能な若手社員を見つけると組合の委員を任せたり、運動会の世話役を任せたりして、直接の仕事以外に多くの役割を任せていました。それにより、若手社員の対人能力を引き上げるとともに、マネージャー以外のいろいろな人から見た評価がなされていました。そこで、今で言うところのネットワーキング能力やコーディネーション能力、対人折衝能力などが養われました。そして、マネージャーの耳にはいろいろな人々から、若手社員の評判が自然に入ってきました。
筆者はこれを、隠れた360度人事評価制度と呼んでいます。
この点は、ITシステムに関わる技術系社員の能力育成にも非常に効果的でした。システムエンジニアを志望する技術系社員はともすれば、機器類などのメカニックの魅力やソフトウェアの動作などの魅力に取り付かれ、オタク的な社員に育ちやすいのも事実です。しかし、アプリケーションソフトウェアの開発業務では、現場のユーザーなど、価値観も業務内容も全く異なった人々との対人折衝力も要求されます。また、社員以上にオタク的な協力会社の社員の人間が多いのも事実であり、その人たちにも気持ちよく仕事をしてもらわなければなりません。
レガシーシステムが開発されていた一昔前には、ちょっとセンスのあるマネージャーならば、例えIT系の社員であろうとも隠れた360度人事評価方式で社員の育成を計っていました。
ところが、中途半端に成果主義人事制度が導入されると、とんでもないことが起こり始めました。「これは目標管理にない」とか「成果主義に関係ない」といった理由で、社員を育てていたいろいろな行事への参加が切り捨てられ始めました。そして、宴会の幹事も組合の委員も誰もやらなくなり、マネージャーもそれらの大切なことを若手社員に求めなくなりました。
中途半端な成果主義人事が作る中途半端なプロフェッショナル社員
その結果、一部の専門的な興味に対しては詳しいが、対人折衝能力などに欠けた、ちょっと偏ったIT系の社員が目立ち始めています。
また、ITのプロフェッショナルと呼ばれる若手社員は、概して他人に興味を持たない傾向が強くなってきているように感じます。筆者はこの点をとても危惧しています。
では、どうすればよいのでしょうか。1つの案は、成果主義人事の割合を全体の8割程度に留め、残りの2割は成果主義の枠を外して対処する方法です。もっともこれは、人事部の了解を取り付けなければなりませんが。
成果主義を実施するならば、イントラネット上に個人の評価まで可視化するぐらい徹底するか、さもなければ従来型の隠れた360度人事評価方式を部分的に復活すべきと思います。
(野村総合研究所 社会ITマネジメントコンサルティング部 上席研究員 山崎秀夫)
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