IT変革力【第27回】
なぜ社員は社内ブログやSNSの流行を受け入れるのか?
近頃、企業で浸透し始めた社内ブログや社内SNSは、社員同士のコミュニケーションに変化をもたらしています。では一体、どのような点がこれまでの情報共有の形と違っているのでしょうか。そして、今後この社内ブログや社内SNSはどのように活用していけばよいのでしょうか。
今、静かに社内ブログや社内SNSが企業内に浸透を始めています。2006年中は、筆者も社内ブログや社内SNS導入支援の仕事で追いかけ回されていました。では一体、社内ブログや社内SNSはこれまでの知識、情報共有のアプローチと何が異なるのでしょうか。単に、活用する仕組みがグループウェアなどから置き換えられただけでしょうか。上手な活用方法をしている一部の先進企業では、すごい事が起こっていると感じています。
社内ブログや社内SNS活用の体系化
社内ブログや社内SNSを活用する企業のアプローチは千差万別ですが、いくつかに体系化もできます。
(1)社内のホームページ作成の効率化目的
(2)経営者のメッセージの浸透目的
(3)社員の社交倶楽部としての「コモンズ」の創造
社内のホームページ作成の効率化目的
このアプローチはものすごく分かりやすく、簡単だと考えられます。これまでホームページを作成して情報発信をするには、社員はHTMLと呼ばれる特別のプログラム言語を習得する必要があり、情報発信に時間がかかっていました。ここに何の特別な知識もいらない社内ブログを活用すると、生産性が飛躍的に向上します。実際に試してみると分かるのですが、ブログを活用した場合と従来型のホームページを準備して通達などを発信する場合では、時間的なスピード、仕事に必要な担当者の拘束時間など、生産性が全く異なります。
ただし、文章はこれまでの硬い公式な書き方なので中身(コンテンツ)は、従来からの知識、情報発信の時代と変わりません。単に活用するツール(道具)が変更されただけであり、企業文化を変えるといった効果はほとんどありません。
経営者のメッセージ浸透目的
このアプローチは多くの企業で採用されています。多くの場合、書き手が社員に語りかけるトーンになっており、社員の感情を刺激する要素があります。この手法は、経営者がなかなか訪問できない地方の支店や、社員が直行直帰のワークスタイルを採用している営業部門に対しては有効だと考えられます。
しかし、まだ縦型のコミュニケーションが中心であり、経営者や会社との縦の関係が中心という欠点が残ります。
社員同士の横のコミュニケーション目的
規模の小さな企業で社内ブログを導入したり、比較的規模の大きな企業で社内SNSを導入して社員同士の横のコミュニケーションを強化する試みが始まっています。
この場合の最も重要な点は、「社員同士の感情の共有を醸成する手段として、社内ブログや社内SNSの活用は非常に効果がある」という認識でしょう。従来、ナレッジマネジメントの実施にあたって最も困難だと言われてきたのは、社員間の「信頼関係の醸成」でした。「信頼関係」ができていないために、社員の無意識の中に眠る「知識や情報が必要な人に必要なタイミングで伝承されない」という問題が起こっていました。社内ブログや社内SNSはこの問題を解決します。実際に行ってみると面白いのですが、情報も人脈も豊富な本社の社員と異なり、効率化経営が行き過ぎた現場の社員は「孤立、孤独、接触飢餓、情報飢餓」の状態に陥っているケースが少なくありません。従って、社内ブログや社内SNSにより、他のオフィスで働く社員の自己物語や悩み、仕事上の苦労や疑問を知ることで社員の間に「共鳴、共感」の感情がわき上がってきます。また、日記を書くことにより、プロフェッショナルとしての自覚を支える「自分探し(アイデンティティの見直し)」が進みます。これがオフィスを越えた社員間の支え合いに有効であり、お互いに明日の仕事の活力や動機付けが出てきます。筆者はこれを、ネット居酒屋効果と呼んでいます。企業によってはこれを「ミクシィ効果」と呼んでいるところもあります。
これはWeb2.0で主張されている大衆表現や社交に相当するものだと考えられます。社内に穏やかな「コモンズ(村の入会地)」が出現したわけですね。こうなれば、次第に企業文化も変わります。簡単に書いていますが、これは試みが成功した場合の理想型の話です。でも実際に、いくつかの会社では、これに近い状態が出現しているのも事実です。
ビッグブラザー問題を回避せよ!
さて、社内ブログや社内SNSを運用する場合、絶対に避けなければならない点は、ビッグブラザー問題の回避です。ビッグブラザー問題というのは、英国の作家ジョージ・オーウェルが小説「1984」の中で述べた未来の情報監視社会のことです。社内ブログや社内SNSをいつもビッグブラザーが見てチェックしているとなると、社員は「物言えば唇寒し、秋の風」と感じ、ネットであれ、対面であれ何も発言しなくなります。例えば城 繁幸氏の著書「内側から見た富士通『成果主義』の崩壊 」の中に、同社の人事部が社内のフリー掲示板を何時もチェックし、人事部に批判的な社員をピックアップしてブラックリストに載せていると言う記述があります。筆者はこれが事実かどうかは知る由もありませんが、もし事実とすれば典型的なビッグブラザー問題ということになるでしょう
社内ブログや社内SNSの流行を社員が素直に受け入れられるように、企業は穏やかな社会環境である「コモンズ」を整備することが求められます。知識や情報は感情に基づいた信頼関係があって初めて継承されるものだと思うからです。
社内ブログや社内SNSの上で「会社は社員の味方だったんだ!」という自然な発言を引き出しましょう。ただし、そこまでいくには経営者の自覚の上に、社員の納得感の獲得とお金も時間もかかり、そして大変な苦労がありますが。
(野村総合研究所 社会ITマネジメントコンサルティング部 上席研究員 山崎秀夫)
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