IT変革力【第3回】
電子政府構築計画のすごい衝撃を十分理解しよう!
米国の電子政府構築計画を参考にして始められたわが国の電子政府構築計画ですが、計画段階は山を越え、いよいよ設計・開発段階へと突入しました。民間では意外に知られていないのですが、電子政府構築計画はわが国のIT業界にすごい衝撃をもたらすことになると考えられています。さて、その中身とは……。
自己を変え、企業を変革するための「ITマネジャーのための変革力養成」講座の第3回。わが国の電子政府構築計画に基づく中央政府各府省のITシステムに関する「業務・システム最適化計画」が出そろった。これらには国際標準、業界標準の手法が多数採用されている。このことにはどういう意味があるのだろうか。政府のIT調達の指標が変わっていくことで、民間産業にはどのような影響があるのだろうか。ITマネジャーとして、計画の全体像を理解し、変革のチャンスを理解し、対策を考えるべきである。
まずシステム化計画が出そろった
2006年3月末、わが国の電子政府構築計画に基づく中央政府各府省のITシステムに関する「業務・システム最適化計画」が出そろいました。
「業務・システム最適化計画」が出そろったとは30いくつ存在するレガシーシステム(いわゆるメインフレーム=大型汎用機活用のITシステム)を含む計76分野(府省共通業務・システム21分野、個別府省業務・システム55分野)のITシステム再構築計画が構築されたことを意味します。分かりやすく言えばたくさんの「システム化計画」ができ上がった訳ですね。
国際標準、業界標準の手法の持つ意味
さてお国の「システム化計画」は、総務省ガイドラインに基づくEA(Enterprise Architecture)と呼ばれる標準的な方法論を活用しています。さらにEA(Enterprise Architecture)の中にはDFDやWFA, DMM、UML、BSCなどの国際標準、業界標準の手法が活用されています。図面の書き方や設計書の書き方、PMBOKのようなプロジェクト・マネジメントの手法までが標準的な手法として採用されました。
それではなぜ国際標準、業界標準の手法が多数採用されているのでしょうか。ここまで国際標準、業界標準の手法にこだわることに何の意味があるのでしょうか。
EAなどの国際標準、業界標準の手法を全面的に取り入れるということはオープン・システム化が従来からのハードウエアやソフトウエアの領域だけではなく、ドキュメント作成からコンサルティングのような方法論にまで広がったと言うことを意味します。
標準的なコンポーネントを組み合わせて製品を作り上げるアプローチを「モジュール型生産」と言います。このモジュール設計が徹底し始めたと言う点が電子政府構築計画の特徴な訳ですね。
「モジュール型生産」に対して従来からの日本メーカーの得意技は、「摺り合わせ型生産」と呼ばれるものでした。部品も独自、工法も独自なものを活用し、現場の職人技で素晴らしい品質を作り込むアプローチですね。ソフトウエア開発では、アプリケーションソフトの一品生産がこれに相当すると考えられます。
市場調達の徹底が狙い
これまで政府のITシステム調達は、仕様が不明確なうえ、一部の大手ベンダーに随意契約で丸投げしていました。その結果、ITシステムのドキュメント類などが特定ベンダーの独自の方法論に依存する形となり、お互いの関係が永遠に離れられない「一種の系列取引」ができ上がりました。その結果、年間のITシステム運用費用が約1000億円にもなった社会保険庁などコスト高のITシステムが多数でき上がりました。その上ITシステムの品質も悪く、納期も遅れがちという、どうにもならない状況が出現していました。
これは国のIT調達において極端な形で現れていますが、民間のIT調達においても大なり小なり事情は同じであると考えられます。
すでに公共事業においては図面の標準化がなされており、その結果、設計と施工の分離が可能となっています。それに比較してIT業界は官も民も非常に遅れており、まともな産業の体をなしていなかったと言えるでしょう。
さて オープン化すなわち「モジュール型生産」が徹底すると、ITサービスの徹底した市場調達が可能となります。
重要な点は、ITサービスの市場調達がITシステムのライフサイクル全体に渡って可能になるという点です。計画段階はA社、設計と開発段階はB社、運用委託はC社と言う市場を活用した分割発注が可能となる訳ですね。また設計と開発段階をいくつかのロットに小分けして分割発注することも可能となります。
現に電子政府関連のITシステムの発注は、標準的な方法論に基づいて市場調達が行われ始めています。これまでのように日立や富士通など大手のベンダーは自社独自の方法論を提案することができなくなり始めている訳ですね。このことはITサービスのコンサルタント企業にも当てはまります。「弊社はPMBOKでプロマネを行います。EVMでスケジュールを管理します。独自の方法論は活用しません」といううたい文句が、市場でまかり通り始めています。
これはすごいことですね。こうなれば確かにIT業界は一人前の産業へと成長します。
アウトソーシングの委託先などは定期的に見直される
最近、ITシステムの設計開発の手続きを定めた総務省ガイドラインは、単なる計画段階(EA)の段階から開発・運用段階を含むITシステムのライフサイクル全般へと拡大されました。EVMやITILなど開発・運用段階での標準的な手法が今後注目されることになるでしょう。
そうなれば、IT システムの運用に関しても1年から数年単位で委託先を見直し、市場調達することが可能となります。現に会計検査院の基幹システムなどは運用段階でも毎年、発注業者を競争環境下で決定しています。この官の試みが成功すれば、確実に民間企業へも大きな影響があると考えられます。電子政府構築プロジェクトが成功すれば民間企業でも開発・調達にさらなる競争環境の導入が始まり、アウトソーシングの委託先などは定期的に見直されることになると考えられます。
そしてこのようなオープン化の徹底による市場環境が整い始めたうえに、最近では内部統制の新たなる波が上陸し始めています。これはある意味で一連のオープン化の流れの中にあります。
電子政府構築計画の凄い衝撃を十分理解して対策を考えましょう!!
(野村総合研究所 社会ITマネジメントコンサルティング部 上席研究員 山崎秀夫)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
新着ホワイトペーパー PR
-
技術文書・技術解説
[Jamf Japan 合同会社] MDMだけでモバイルセキュリティは十分? 不足する対策を16項目でチェック -
事例
[Wrike Japan 株式会社] 世界的な家電メーカーが実践する「クリエイティブプロセス効率化」の方法とは? -
事例
[Wrike Japan 株式会社] 世界的テクノロジー企業に学ぶ、プロセス標準化とプロジェクト納品自動化の秘訣 -
事例
[Wrike Japan 株式会社] ソニー・ピクチャーズ テレビジョンに学ぶ、次世代サービスデリバリーのヒント -
事例
[Wrike Japan 株式会社] ソミック石川に学ぶ、ICT浸透後に直面した「工数管理」の課題と解決策
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「Copilot」はなぜ放置される? “議事録要約止まり”を脱する処方箋
-
2
脱VMwareの前提が崩れる BroadcomのVDDK公開停止で確認すべき点
-
3
なぜOpenAIやAnthropicのAIは「脱走」したのか 情シスが迫られるエージェント統制
-
4
Oracle巨大ITプロジェクトはなぜつまずいたのか 8年で導入1割、追加で170億ドル
-
5
「Microsoft一択」で本当にいいのか 知らぬ間にライセンス費用が膨らむ真相
-
6
ANAが専用回線から移行した「NaaS」の全貌 ネットワーク準備が数カ月から数週間に
-
7
「プログラマー不要論」にThe Linux Foundationが示した答え
-
8
Microsoft製品でここまで自動化できる 情シスがやめられる手作業10選
-
9
「高すぎるGPU」を捨てAI推論をCPUへ Armが示す電力とコストの現実解
-
10
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
マンガで解説:「ゼロトラスト」「SASE」の必要性とメリット
-
2
5回聞くだけじゃ足りない? トヨタ式「なぜなぜ分析」の正しい実践方法
-
3
インシデント対応工数を約3割削減、東京ガスの事例に学ぶ監視体制刷新のコツ
-
4
AIエージェントで多様な日常業務を効率化するための入門ガイド
-
5
JR西日本ITソリューションズが「監視業務の属人化」を解消した方法とは?
-
6
国税庁の次世代基幹システム「KSK2」稼働開始に向けて、対応すべき変更点とは?
-
7
5分で分かる「セキュア大容量ファイル転送サービス」の機能とメリット
-
8
ドラマで分かる、標的型攻撃メールの被害を受ける企業と回避できる企業の分岐点
-
9
「脱Excel」か「Excel快適化」か? 現場にやさしい業務改善の進め方
-
10
少額減価償却資産が40万円未満へ拡大、令和8年度税制改正で押さえるべき変更点
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー