TSMCによるIntelの製造事業立て直しができるのかどうかに関しては、さまざまな意見が出ている。実現すれば業界中に波及すると考えられるその影響を検討する。
業績不振に陥っている半導体ベンダーIntelの工場を、トップクラスの半導体受託製造(ファウンドリー)の工場に変身させるには、何年もの時間と莫大(ばくだい)な投資が必要だ。ファウンドリー世界最大手Taiwan Semiconductor Manufacturing(TSMC)の力を借りても、それは変わらないのか。TSMCが関わるとなれば、地政学的にも、業界中にも少なからぬ影響が波及するはずだ。TSMCによるIntel再建の可能性と影響を検討してみよう。
アナリストは、Intelが民間投資家や米国政府から資金的な支援を受けても、同社のファウンドリー事業を担う子会社Intel Foundryの立て直しを、TSMCがIntelよりうまく成功させることができるのかについて懐疑的だ。外国企業に米国の半導体ベンダーの経営を委ねることにも反対の声がある。
「非常に微妙な状況であり、TSMCがIntelを買収すれば一件落着で誰もが幸せになるという単純な話ではない」。調査会社Informa Tech(Omdiaの名称で事業展開)の半導体リサーチ担当チーフアナリストを務めるクレイグ・スタイス氏はそう語る。
TSMCは2025年2月に、「米政府高官の要請を受け、Intelの製造事業の経営権取得を検討している」と報じられた。だが、外国企業がIntelの製造工場(業界用語で「ファブ」と呼ばれる)の経営権を握ることを、米国のドナルド・トランプ大統領が認めるかどうかは不明であり、Intelの半導体設計事業は独立を維持する見通しだ。
アナリストは、TSMCの傘下に入ったとしても、Intel Foundryの変革は加速しないだろうとみている。誰がIntelの工場を運営しようと、数百億ドルの投資と5年以上の時間が必要になることに変わりはない。
TSMCがファウンドリー市場でトップのシェアを維持できているのは、半導体設計企業の仕様に適応できる最先端の設備を擁しているからだと、アナリストは説明する。Intelは何十年も自社半導体の製造に特化してきたが、既存工場と新工場で同様の機器が必要になる。こうした機器を装備するのは、複雑で時間のかかるプロセスだ。
TSMCは、Intel Foundryの設備刷新に必要な資金を確保できると考えられる。だがその結果は、Intel再建の目標に逆行することになる。ジョー・バイデン前政権が最初に設定した目標は、経済および国家安全保障のために、米国の半導体製造業を復活させることにある。TSMCがIntel工場を傘下に置けば、米国の重要資産が外国企業の管理に委ねられてしまう。これについて「とんでもないことだ」と、Omdiaの半導体リサーチ担当シニアディレクター、マイケル・ヤン氏は指摘する。
トランプ政権はTSMCと、「国家安全保障上の懸念を満たし、米半導体産業を内側から成長させる取引を構築する可能性がある」と主張するアナリストもいる。例えば、政権はNVIDIA、Advanced Micro Devices(AMD)、Qualcomm Technologiesなどの半導体ベンダーに対し、税制優遇措置や輸入関税を通じて、一定の国内生産比率を約束するよう圧力をかける可能性があると、Signal65のプレジデント兼ゼネラルマネジャーを務めるライアン・シュラウト氏は語る。同社は半導体業界にコンサルティングサービスを提供している。
国内生産による米半導体産業の構築を支援することで、TSMCも恩恵を受けると、シュラウト氏は指摘する。中国が台湾侵略を断行した場合、米国が避難できる場所になるからだ。中国は台湾を自国の領土の一部と見なしており、必要であれば武力を行使し、いずれは台湾を支配すると明言している。
「TSMCは、米国経済と米国政治にさらに深く組み込まれれば、台湾自体が困難な状況に見舞われた場合、米国の自社施設で生産を継続できる可能性がある」(シュラウト氏)
TSMCはワシントン州に製造工場を持ち、アリゾナ州にも工場を建設中だ。
だが、Intel Foundryを犠牲にしてTSMCが米国事業を大きく拡大すれば、市場競争が弱まるだろうと、アナリストは見る。Intel、Samsung Electronics、TSMCの3社は現在、2ナノメートル(以下、nm)以下のプロセスで製造される最先端半導体の市場を支配している。製造プロセスを微細化すれば、半導体チップに搭載されるトランジスタ数が増加し、より高速で電力効率に優れ、高性能なプロセッサの製造が可能になる。「競争の存在は、誰にとっても望ましい」と、Omdiaのスタイス氏は語る。
IntelのCEOだったパット・ゲルシンガー氏は、長期的な再建計画を遂行していたが、2024年12月に取締役会が更迭した。進められていた大規模投資の回収速度が十分ではないと判断したからだ。ゲルシンガー氏が退任するまでの1年間に、Intelの株価は50%以上下落し、株式時価総額は過去30年間で最低となった。
多くのアナリストは、「Intelが1つの企業としてファウンドリー事業と半導体設計事業を維持していく」というゲルシンガー氏の計画を支持し、Intelは両事業によって、半導体業界での地位を取り戻せると主張している。だが、ゲルシンガー氏の退任後、Intelの暫定共同CEOのデビッド・ジンスナー氏は、12月に開催された投資家向けイベント「Barclays Annual Global Technology Conference」でのインタビューで、Intel Foundryを売却する可能性を否定しなかった。
Intel Foundryを売却すれば、投資家は短期的に利益を得るだろうが、Intelや米国の国家安全保障、半導体産業が犠牲になると、アナリストは述べている。
「ウォール街への対応で学んだことだが、正しいか間違っているかは関係ない。投資家が好まないことは起こらない。だからこそ、より長期的な観点からの政府や投資家の補助金や投資が必要なのだ」。調査会社Forrester Researchのアナリスト、アルビン・グエン氏はそう指摘する。
Omdiaのヤン氏も、Intel全体を存続させる手っ取り早い選択肢はないという意見だ。「3年から5年、さらには8年のスパンで見なければならない」
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