「AIとクラウド」に投資する企業に待ち受ける“がっかりな現実”投資熱が過熱した先の落とし穴

さまざまな企業が、AI技術やクラウドサービスに投資を急いでいる。しかし、一方でそうした新技術の活用に積極的な企業が陥りやすい問題がある。どのような問題か。

2025年04月25日 05時00分 公開
[Siti ChenTechTarget]

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 さまざまな企業が人工知能(AI)技術をはじめとする新技術を、先を争うように導入している。調査会社Gartnerによれば、2024年にオーストラリアの企業がパブリッククラウドサービスに投じるコストは233億豪ドル以上になる見込みだ。これは2023年と比べて19.7%増に当たる。

 大規模言語モデル(LLM)などのAIモデルを正確かつ確実に活用するには、確固たるデータ戦略が不可欠だ。学習に使われるデータはクリーンでなければならず、1つの場所で安全に保管されなければならない。クラウドサービスはこうした条件に合致する可能性が高い。そこで、企業各社はクラウドサービスの導入を急いでいるが、こうした企業が現在ある「落とし穴」にはまっている。どのような問題が起きているのか。

AIとクラウドに投資する企業がはまる「落とし穴」とは

 AI活用を背景に、企業がクラウドサービスの導入を急いでいる。競合に先んじてAIを効果的に活用するためには、ITインフラのモダナイゼーションが不可欠だからだ。

 オーストラリアの大手銀行であるCommonwealth Bank of Australia(CBA)は詐欺の検出にAI技術を活用している。National Australia Bank(NAB)は、顧客に合わせた担当者やサービスをマッチングさせる取り組みにAI技術を利用している。

 こうした取り組みによって企業が成長することは望ましいことだ。しかし、Armアーキテクチャのプロセッサや「GPU」(グラフィックス処理装置)を利用するなど、AI関連で利用するクラウドサービスの幅が広がるにつれて、企業のシステム環境はますます複雑になっている。

 これにより、厄介なパラドックスが生まれている。各企業はクラウドサービスに多くの資金を投じ、自社の開発者にプレッシャーをかけて、クラウドサービスの導入や統合を急がせている。だがその一方で、予算全体を見渡す広い視点を失っている。企業がエビデンスに基づく戦略的な計画に基づかずにITのモダナイゼーションに取り組んだ場合、たちまちコストがかさみ、「技術的負債」(先送り作業)が蓄積してしまう。

 コンサルティング会社McKinsey & Companyが2020年に公開したレポート「Tech debt: Reclaiming tech equity」によれば、企業の69%が、本来は新規プロジェクトに割く予定だった予算の10%以上を、技術的負債への対処に流用していた。

 こうした状況がジレンマを生んでいる。企業が先を急いで新技術に投資する一方で、開発部門は、最新技術の恩恵を受けるどころか、膨らんだ予算の削減に時間を費やしている。その結果、リソースが浪費され、イノベーション(革新)や成長が阻害されている。

コンテナリソースの83%が待機状態

 ログ管理ツールベンダーDatadogが2023年5月から2024年4月にかけて収集したデータによれば、コンテナ環境の83%の支出が、アイドル(待機)状態のリソースに関するものだった。コンテナ関連のコストの大部分は、使われないリソースに利用されている可能性がある。

 コンテナリソースに無駄が生じる主な原因は、新しいアプリケーションのリソース要件を正確に予測して適正なサイズを特定して割り当てることが、開発部門にとって困難になっている点にある。アプリケーションの性質や利用状況に合わせてリソースを変える必要が生じることもある。

 データ転送コストも課題だ。同じクラウドサービス内であっても、異なるアベイラビリティーゾーン(リージョンを構成するデータセンター群)にデータを転送する際のトラフィック(ネットワークを流れるデータ)にはコストがかかる。

 アプリケーションの機能を複数のアベイラビリティーゾーンに分散させる構成は、可用性や障害時の復旧性能を確保するために有効だが、クラウドサービスに関するコストを削減するために見直すべきポイントでもある。アプリケーション要件に問題がなければ、関連するリソースを単一のアベイラビリティーゾーンに配置することでコストの削減につながる可能性がある

 ただし、この解決策が取れるのは、クラウドコストに関するデータにエンジニアが直接アクセスできる場合に限られる。クラウドコスト管理ツールをエンジニアが活用できれば、より好都合だろう。クラウドコストを増大させている原因を各部門が把握して、最適化に取り組めるようになる。

 従来、企業において事業コストを管理するのは財務部門の役割であり、開発部門は主にアプリケーションのパフォーマンスに目を向けていた。ところが、大半の企業でクラウドコストが高騰している昨今、エンジニアがアプリケーションのパフォーマンスからコスト、利用状況まで目を光らせ、企業が十分な情報に基づいた意思決定を可能にすることが、ますます重要になってきている。

 エンジニア、さらには企業全体で各アプリケーションのパフォーマンスや用途とコストを比較して、費用対効果を分析できるようになることが望ましい。そうすれば、情報に基づいた意思決定が可能になる。費用対効果を長期的に追跡できるようになればコスト削減のためによりインサイト(洞察)を得られるようになるだろう。

 可視化の利点を、オーストラリアで人気のスポーツ、水泳に例えて説明しよう。水泳用のゴーグルを付けて競技に参加するか、付けないで参加するかを選べる場合、前者を選ぶのが常識だろう。視界が良くなればパフォーマンスも向上するからだ。

 クラウドコストの最適化についても同じことが言える。クラウドサービスのコストをはっきり見渡せる手段があれば、意思決定は容易になる。オーストラリアの企業は無駄なコストを削減しながら、本来の目的のためにリソースを活用して、生産性を最大化できるように可視化を徹底しなければならない。その上でクラウドサービスとAIの導入競争に参入することが求められる。

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