IT変革力【第6回】
「枯れた」IT技術の持つ大きなリスク
枯れた IT技術の維持か、最新技術の取り入れかとういう選択は「ユーザー企業は神様なのか」という本質の理解が大切です。そのために、枯れた技術を維持するとどのような問題があるのかを理解しなくてはいけないようです。さて、その問題とは……。
自己を変え、企業を変革するための「ITマネジャーのための変革力養成」講座の第6回。枯れたIT技術の維持か、最新技術の取り入れか、とういう選択は「ユーザー企業は神様なのか」の本質の理解が大切です。それには、現在のITベンダーの動向と社会的責任を理解し、枯れた技術を維持することによる問題点は何かを知ることです。そして、今後、どのように技術の乗り換えを行っていったらよいのかを考えていきましょう。
最近、IT企画部門の関係者からよく質問されるのは「枯れたIT技術の維持か、最新技術の取り入れか?」という選択についてです。 これは一時期騒がれた大型汎用機か、オープン・システムか、という議論を超えた「ユーザー企業は神様」なのかという「事の本質の理解」が大切だと考えられます。
大型汎用機(レガシーシステム)を例にとって考える
大型汎用機(レガシーシステム)対オープン・システムかという議論は非常に分かりやすいので、まずここから始めたいと思います。
すでに多くの企業が基幹系システムをオープン・システムに移行していますが、まだ多くの金融機関や政府関係など一部の企業はいまだに大型汎用機(レガシーシステム)に固執しています。無論、これらの企業も長期的な移行計画を立ててはいるようですが、どこまで本気なのか、いまだ明確ではありません。それでは一体、いつまでユーザー企業は、新しい技術への移行を先送りし、古い枯れた 技術を使い続けることができるのでしょうか。
特に、これまで大型汎用機(レガシーシステム)でなければ稼動が不可能と言われていた国内線の予約システムを、全日空が2012年稼動目標でユニシスのオープン・システムに移行させると発表した点が隠れた波紋を呼んでいます(全日空の"予約~発券~搭乗"の国内線予約サービスを処理する基幹系システム「able-D」)。こうなればバンキング・システムや政府の大型システムもオープン・システムのカバー範囲に入ったという議論が自然に出てくる訳ですね。
ITベンダーの動向理解
大型汎用機(レガシーシステム)に関する2010年頃までの筆者の理解は以下の通りです。(あくまでも筆者の理解の範囲であり、各ITベンダーはそこまで明言していないのでご注意ください。)
NECはオープン・システム移行の推奨と古い大型汎用機(レガシーシステム)システムをオープン・システムの上でエミュレータを活用して稼動させるという方向、日立はIBM等からOEM供給を受けて自社OSを搭載して販売するという見方が強く 、富士通は既存顧客が古いシステムを抱える限り次世代版を供給する方向(ただし、延命が目的のため技術革新のスピードはとても遅い)。ユニシスはNECと同じく古い大型汎用機(レガシーシステム)システムをオープン・システムの上でエミュレータを活用して稼動させるという方向と考えられます。
各社ともそれ程大きな相違はなく、世界的に大型汎用機で唯一稼いでいるIBMを除いて、レガシーシステムに対しては延命策を打ち出しながらオープン・システムへの移行を積極的に促す方向ですね。
ユーザー企業は神様なのか
昔から筆者がいつもおもしろいと思っている点は、「ユーザー企業は神様だから、どの技術のシステムを選ぶかは、ユーザー企業の自由だ!」と考えている企業がとても多い点です。
ユーザー企業が神様というのは本当でしょうか。
ある基本技術の市場が拡大し、その基本技術を前提とした市場が拡大する限り「ユーザー企業は神様」であり続けることができます。
しかし、根本的な技術革新が進行し、その基本技術がもはや見捨てられ始めている時には、ITベンダーは古い技術による古いタイプの製品をいつ見捨てるかという点が営業戦略の重要な柱になります。この時「ユーザー企業は神様」ではありません。
ITベンダーの社会的責任とは
それでは逆に、ITベンダーにとってもっとも大切な社会的責任とは一体、何でしょうか。 それは「倒産しないこと」であると考えられます。企業が倒産すれば売掛金を抱えている会社は連鎖倒産を引き起こすかもしれません。またお金を貸している銀行にも不良債権が発生します。同時にサービスを提供しているユーザー企業も突然、サービスを打ち切られるリスクが発生します。同時に社員をリストラし、路頭に迷わせるような結果となります。
そうなればITベンダーにとって「古い技術に固執し、古いタイプの製品を作り続ける」という事は実はあまり優先順位が高くないということになります。
ITベンダーの株主の視点から言えば「古い技術に対する十分な顧客層がいて初めて投資の意味がある」訳ですね。したがって古い技術の商品が死に筋と分かれば、適当な時期に撤退を考えるのが経営の常識です。
枯れた技術の永遠の支援は可能か
それではITベンダーが永遠に古い技術をサポートし続けたと仮定しましょう。
周りには貴社一社だけが古いITシステムを使用しています。その場合にどんな問題が起こるのでしょうか。
第一に古い枯れた技術に対する新規投資はほとんど止まります。これまで貴重な情報交換の手段として機能していたITベンダー主催のユーザー会も自然に解散するでしょう。またこれまで周囲にいた(例えば大型汎用機のCOBOLプログラマーなどの)サポート要員の数がどんどん減り、保守運用要員が調達できなくなります。そして同時に(テープ装置などの)周辺メーカーの一部が撤退を始めます。その結果、コストがしだいに高止まりし、同時にITシステムが止まっても誰も面倒を見てくれないというリスクが発生します。
これはオープン・システムにも当てはまります。
枯れた技術の持つ宮大工問題
さらに大きな問題は老朽化したアプリケーション・システムにあります。
大型汎用機であれオープン・システムであれ、老朽化したアプリケーション・システムを20年も30年も使い続けることに問題はないのでしょうか。
2005年度にでき上がった電子政府構築計画の中、裏でささやかれた一つが「宮大工問題」です。「ITシステムがあまりに古すぎて、ドキュメントも古く、まとまっていないため、再構築するのに釘一本、瓦一つがなかなか把握できない。まるで宮大工のような仕事だ!」
技術の伝承がなされていないため、誰も再構築ができません。
枯れたIT技術の持つリスク回避を考えよう
遺伝子工学の中に「赤の女王仮説」と呼ばれるものがあります。「生物はつねに変化していかないと自然淘汰されてしまう。そのためにややこしい有性生殖が発達した。」と言う仮説です。
IT技術にも同様のことが言えます。何もリスクの高い最先端の技術を無闇に追いかける必要はありませんが、一定のスピードでIT技術の乗り換えを行わないと、「何もしないというリスク」を回避することができなくなるでしょう。
(野村総合研究所 社会ITマネジメントコンサルティング部 上席研究員 山崎秀夫)
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