2025年第1四半期にPCの出荷台数が急増した。PCベンダー各社が米国の関税発表に備え、米国向け出荷を加速させたためだ。今後はWindows移行計画にとっての逆風も考えられるという。その影響とは。
調査会社Canalysの最新の市場データによると、2025年第1四半期(2025年1~3月)において、PCの出荷台数が急増した。この背景には、PCベンダー各社が米国の関税発表に備え、米国向け出荷を前倒しで加速させた動きがある。
今後は、MicrosoftのクライアントOS「Windows 10」から「Windows 11」の移行を終えていない企業にとって逆風になることも予測されるという。調査会社のデータを基に、米国の関税がPCベンダーの生産拠点や出荷に与える影響を含めて、PC市場の動向を考える。
Canalysのデータによれば、2025年第1四半期のデスクトップPC、ノートPC、ワークステーションの総出荷台数は6270万台で、前年同期比9.4%増となった。中でもモバイルワークステーションを含むノートPCの出荷台数は、前年比10%増の4940万台に達した。デスクトップPCは8%増の1330万台となった。
Canalysを傘下に持つ米Informa TechTargetの調査部門Omdiaでリサーチディレクターを務めるイシャン・ダット氏は、2025年第1四半期において、LenovoとHPが米国向け出荷をそれぞれ約20%と約13%増加させたと指摘する。「この予防的な戦略により、PCベンダーおよび流通を担う企業はコスト上昇前に在庫を積み増し、エンドユーザーの需要が安定している中でも、出荷台数を押し上げる結果となった」とダット氏は述べる。
Canalysは、主要PCベンダーがドナルド・トランプ前大統領の第1期時代からサプライチェーンの多様化を進めてきたことに言及し、今後も中国からベトナム、タイ、インドへの移行が継続すると予測している。
Canalysによれば、2025年末までに、米国向け出荷を中国以外へ完全に移す大手PCベンダーが大半を占める見込みであり、これによりサプライチェーンの回復力を強化し、関税の影響を緩和しようとしている。
HPのCEOであるエンリケ・ロレス氏は、2025年2月の業績報告の電話会議で、「2025年末までに、米国で販売する当社製品の90%は中国国外で製造される予定だ」と述べた。
Dell Technologiesの2025年度第4四半期(2024年11~2025年1月)および通期の業績説明会で、最高執行責任者(COO)であるジェフ・クラーク氏は、米国政府が中国に対して課す関税が同社にどう影響するかという質問に対して次のように述べている。「当社は、業界をリードするグローバルで多様かつ柔軟なサプライチェーンを構築しており、それにより貿易規制や関税の影響を最小限に抑えている」
「Dell Technologiesは、デジタルサプライチェーン、具体的にはデジタルツイン(現実の物体や物理現象をデータで再現したもの)を活用し、AI技術によるモデリングであらゆるシナリオを検討し、ネットワーク最適化を迅速に進められるようにしている」とクラーク氏は語っている。回避できない関税についてはコスト要因として扱い、価格調整が必要になる可能性も示唆した。
Lenovoの2024/25年度第3四半期決算(2024年10~12月)の説明会では、会長兼CEOであるヤン・ユアンチン氏は、米国の関税はLenovoにとって不利ではなく、むしろ有利だと述べている。
「当社は非常に強力で独自のビジネスモデルを構築しており、『ODM+モデル』と呼んでいる。自社生産と外部委託の両方を行っており、グローバルな製造体制を有している」。ヤン氏によれば、Lenovoはアルゼンチン、ブラジル、インド、日本、ハンガリー、ドイツ、メキシコ、米国に30カ所の製造拠点を持ち、サウジアラビアにも新工場を建設中であるという。「競合他社と比較して、当社は多様なシナリオに柔軟かつ強靭(きょうじん)に対応できる」(ヤン氏)
Lenovoは、予期しない事態が発生した際にも、顧客の注文を拠点間で柔軟に振り分けることができるという。Lenovoのサプライチェーンの強靭性は、サプライチェーン全体を自社で保有していることにある。同社はまた、地理的多様化プログラムを導入し、中国や台湾以外の地域から資材を調達できるよう体制を整えている。
Lenovoは2023年に発表した文書の中で、ODM+モデルについて、「グローバル/ローカルモデルの一環として、現地での製造は輸送距離を大幅に短縮し、より効率的かつ持続可能な物流を実現する」と説明している。
主要な製造国が関税の対象となっている一方で、Canalysのシニアアナリストであるベン・イェ氏は、「ベトナム、タイ、インドの関税率は中国に比べて依然として競争力がある」と述べる。「これらの国は交渉に前向きであり、関税が将来的に軽減または撤廃される可能性もある。一方で中国は報復関税で対抗している。結果として、製造移転計画は依然として進行中であり、今後の詳細が明らかになるまでは大きな変化はないだろう」と付け加えた。
Canalysはまた、特に中小企業にとって、「Windows 10」からの移行に向けた取り組みが遅れるリスクを警告している。2025年10月のサポート終了が迫る中、関税によるコスト上昇が障壁となる可能性がある。
CanalysがPC販売業者を対象に実施した調査では、14%が「中小企業顧客がWindows 10のサポート終了を認識していない」と回答し、さらに21%が「認識していてもアップグレードの計画はない」と答えた。
「このような状況にある顧客にとって、計画が遅れていることは、PC更新時により高いコストを負担する可能性が高いことを意味する」とダット氏は指摘する。
Canalysは、関税の影響は一般消費者の需要にも大きく波及する可能性があると見ている。価格が上昇したPCの購入は、他の生活費が値上がりする中で優先順位を下げられる可能性があるからだ。
(翻訳・編集協力:編集プロダクション雨輝)
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