ビルの温室効果ガス削減の鍵は“あの技術”にあった各業界が取り組むサステナビリティ【第1回】

オフィスビルなどの商業ビルをエネルギー効率に優れた設計にし、温室効果ガスを削減するためには、ソフトウェアの活用が有効だ。ソフトウェアのどのような機能を使えばいいのか。

2022年08月01日 05時00分 公開
[SA MathiesonTechTarget]

 米国の非営利組織(NPO)で環境研究機関のWorld Resources Institute(WRI)によると、2016年の世界の温室効果ガス排出量は約500億トンCO2eq(CO2eqは二酸化炭素=CO2相当量)だ。そのうち商業ビルなど非住宅建築による排出量は6.6%(約33億トンCO2eq)を占める。これは空運、海運、セメント製造業界による温室効果ガス排出量の総計にほぼ相当する。

 一般的なオフィスビルや教育施設などにおいては、従業員が使用するコンピュータなどの機器によるエネルギー消費が全体の約40%を占める。英国の建築コンサルティング会社Buro Happoldで建築物理部門のアソシエイトディレクターを務めるジェイク・ウィリアムズ氏は、残りの60%に注目している。

「エネルギー効率に優れた建物」を実現する“あの技術”とは?

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 建物全体のエネルギー消費量を削減するには、冷暖房や照明、エレベーターなどの設備を建物の特性に応じて設計する必要がある。例えば建物を平たくすると自然光を取り入れるスペースを確保しやすくなり、建物の表面積を少なくすると暖房の使用を減らせる可能性がある。壁の厚い大聖堂などの建物は室温を保つ断熱によって冷暖房の使用を減らせる。ただしそのための建築素材を必要とする。

 ガラス窓が建物に占める割合もエネルギー消費量に影響する。窓が開閉可能であれば、冷涼な時期は冷房を使わず室内を涼しくできる。一方で寒冷期は暖房の熱を逃してしまう。このようにメリットとデメリットは常にトレードオフの関係にあり、プロジェクトで抱える課題はそれぞれ違うという。

 Buro Happoldは、英国の建築資源効率分析ソフトウェアベンダーIntegrated Environmental Solutions(IES)のソフトウェアを使用して、建物のエネルギー消費量を予測する。これにより、建設や改装の設計時からCO2排出量の抑制策を検討できるという。

 ウィリアムズ氏によれば、同社のソフトウェアは以下のような用途に活用できる。

  • ブラインドの開閉や照明の点灯など、建物内における行動調査
  • 気候変動により生じる、異常気温に対する建物の耐性テスト
  • 再生可能エネルギーの利用増加に伴い重要性が高まっている、電気料金のダイナミックプライシング(需要状況に応じて価格を変動させる手法)の導入

 例えばIESが提供しているのが、ビルパフォーマンス可視化サービス群「Virtual Environment」だ。ユーザー企業は同サービス群を用いて、建物のデジタルツイン(実世界に存在する人や機械を仮想世界に再現したもの)を作成できる。これにより、天候の変化や、建物の利用パターンに応じたパフォーマンスをシミュレートできる。日照や気流、エネルギー消費量など、ビル管理に関するさまざまな指標のパフォーマンスが分析の対象になる。

 Virtual Environmentの機能はそれだけではない。既存の建物の改修時には実際のエネルギー消費量のデータを用いて、ガラスの取り付けや冷暖房の設置、ソーラーパネルの追加など、設備を建物に取り付ける際のシミュレーションが可能だ。

 建築物が気候変動に与える影響は重要な社会課題として広く認識されるようになった。ウィリアムズ氏は、建築業界でも持続可能性(サステナビリティ)やネットゼロ(温室効果ガス排出量が実質的にゼロの状態)に向けたプロジェクトは重要度を増しているという。

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