デジタルの方が正しい? コーヒーマシン開発が「デジタルツイン」で変わった理由老舗メーカーの「デジタルツイン」活用事例【後編】

現実世界のものを仮想的に再現する「デジタルツイン」を導入したコーヒーマシンメーカーのGruppo Cimbaliは、製品開発を大幅に改善した。具体的にどのような成果を得たのか。

2022年03月14日 05時00分 公開
[David EssexTechTarget]

関連キーワード

CAD | データ | IoT(Internet of Things)


 イタリアのコーヒーマシンメーカーGruppo Cimbaliは、現実の物体や物理現象をデータによってモデル化する「デジタルツイン」をコーヒーマシンの開発に導入した。これに当たって同社は、Altair Engineeringのシミュレーションソフトウェア「Altair Activate」を活用した。Gruppo Cimbaliがこのツールを活用した背景は中編「コーヒーの抽出過程を『デジタルツイン』で再現するために足りなかったもの」で紹介した通りだ。導入過程で直面した問題や、創出した成果を本稿で紹介する。

デジタルツインで「試してみたいシミュレーション」が可能に

 デジタルツインのシミュレーションを構築するため、Gruppo CimbaliはAltair Engineeringのエンジニアと緊密に連携した。Altair Engineeringはエンジニアリングの専門知識はあっても、コーヒーマシンの専門知識は持ち合わせていない。Altair Engineeringのビジネス開発マネジャー、クリスチャン・ケーラー氏は、デジタルツインを構築するために両社が強調して作業する必要があったと話す。

 Gruppo Cimbaliがデジタルツインの活用に関して強く関心を持っていたのは、シミュレーションによるデータ収集だ。特にエネルギー効率や、コーヒーマシンが作動可能な温度などの条件を知りたいと考えていた。

 ケーラー氏は「Gruppo Cimbaliの取り組みは本当に画期的だ」と評価する。デジタルツインを活用することで、仮に部品Aを部品Bに変更した場合、同社は顧客にどのような影響が生じるのかを評価できる。顧客がコーヒーを飲むまでにかかる時間もシミュレーションできるので、顧客体験全体に直結する取り組みになる。

 「デジタルツインの導入前は、試したくても試せないさまざまなシミュレーションがあった」と、Gruppo CimbaliのCPO(最高製品責任者)兼CTO(技術最高責任者)のマウリツィオ・トゥルシーニ氏は話す。模型を基にして試作品を作り、それを評価してコーヒーマシンの最適化に取り組むといった試行錯誤を繰り返していたという。デジタルツインによって仮想的に模型を作れば、より多くの設計をシミュレーションできるようになる。「デジタルツインを使えば、最適な設計にたどり着ける」とトゥルシーニ氏は説明する。結果的に、同社はコーヒーマシン「Faema」シリーズの開発期間を30~40%削減できた。

デジタルツイン導入における課題

 デジタルツイン導入における最大の課題は社内文化の変革だったと、トゥルシーニ氏は説明する。物理的な試作品に慣れたエンジニアに、デジタルツインを信頼してもらう必要があった。デジタルツインの活用についてエンジニアに納得してもらうため、同氏は物理的な試作品とデジタルツインの両方を使ったテストを実施した。「デジタルツインが正しい方法であり、新製品を市場投入するまでの時間短縮になることを実証した」と同氏は話す。

 Gruppo Cimbaliは、デジタルツインをまずはオンプレミス(自社運用のインフラ)で活用している。トゥルシーニ氏は、2022年末までにはデジタルツインをクラウドサービスでも運用したいと話す。クラウドサービスを使えば、外出先のエンジニアは現場の物理マシンとクラウドサービスにあるデータを比較し、分析することが可能だ。さらに同社の顧客にサービスとしてデジタルツインを提供することも検討している。それによってIoT(モノのインターネット)接続による新サービスの提供につなげる。

 デジタルツインの導入を総括して、トゥルシーニ氏は成功だったと考えている。「デジタルツインはエンジニアが良い仕事をするのを助けてくれる。必要なのはエンジニアの代用ではなく、エンジニアの仕事を改善するものだ」と同氏は強調する。

TechTarget発 先取りITトレンド

米国TechTargetの豊富な記事の中から、最新技術解説や注目分野の製品比較、海外企業のIT製品導入事例などを厳選してお届けします。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

隴�スー騾ケツ€郢晏ク厥。郢ァ�、郢晏現�ス郢晢スシ郢昜サ」�ス

プレミアムコンテンツ アイティメディア株式会社

VPNが「もはや時代遅れ」であるこれだけの理由

VPN(仮想プライベートネットワーク)は、セキュリティの観点から見ると、もはや「安全なツール」とは言い切れない。VPNが抱えるリスクと、その代替として注目されるリモートアクセス技術について解説する。

製品資料 アルテリア・ネットワークス株式会社

VPNの3つの課題を一掃する、次世代インターネットVPNサービスの実力

インターネットVPNサービスの市場規模は増加傾向にあるが、パフォーマンスやセキュリティなどの課題が顕在化している。VPNの利用状況などのデータを基にこれらの課題を考察し、次世代インターネットVPNサービスの利点と可能性を探る。

製品資料 株式会社インターネットイニシアティブ

自治体がMicrosoft 365を利用する際に検討したい、専用回線の導入という選択肢

企業だけではなく自治体でもクラウド活用が進んでいる昨今。中でも業務利用が多いMicrosoft 365には、Microsoft Teamsなど高速かつ安定した回線を必要とするサービスがある。それらを快適に利用するにはどうすればよいのか。

製品資料 パロアルトネットワークス株式会社

従来のSD-WANでは運用負荷が問題、アプリのパフォーマンスをどう高める?

分散環境におけるアプリケーションのパフォーマンスを高めることは多くの企業で課題となっているが、従来のSD-WANによるアプリケーションの識別/回線振り分けは、運用負荷の高さが課題だった。これを解決する、次世代のアプローチとは?

市場調査・トレンド ゼットスケーラー株式会社

ファイアウォールとVPN中心のセキュリティアプローチは危険? 4つの理由を解説

代表的なセキュリティツールとして活用されてきたファイアウォールとVPNだが、今では、サイバー攻撃の被害を拡大させる要因となってしまった。その4つの理由を解説するとともに、現状のセキュリティ課題を一掃する方法を解説する。

郢晏生ホヲ郢敖€郢晢スシ郢ァ�ウ郢晢スウ郢晢ソスホヲ郢晢ソスPR

From Informa TechTarget

お知らせ
米国TechTarget Inc.とInforma Techデジタル事業が業務提携したことが発表されました。TechTargetジャパンは従来どおり、アイティメディア(株)が運営を継続します。これからも日本企業のIT選定に役立つ情報を提供してまいります。

デジタルの方が正しい? コーヒーマシン開発が「デジタルツイン」で変わった理由:老舗メーカーの「デジタルツイン」活用事例【後編】 - TechTargetジャパン ネットワーク 隴�スー騾ケツ€髫ェ蛟�スコ�ス

TechTarget郢ァ�ク郢晢ス」郢昜サ」ホヲ 隴�スー騾ケツ€髫ェ蛟�スコ�ス

ITmedia マーケティング新着記事

news046.png

「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年4月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。

news026.png

「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年4月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...

news130.jpg

Cookieを超える「マルチリターゲティング」 広告効果に及ぼす影響は?
Cookieレスの課題解決の鍵となる「マルチリターゲティング」を題材に、AI技術によるROI向...