現実世界のものを仮想的に再現する「デジタルツイン」を導入したコーヒーマシンメーカーのGruppo Cimbaliは、製品開発を大幅に改善した。具体的にどのような成果を得たのか。
イタリアのコーヒーマシンメーカーGruppo Cimbaliは、現実の物体や物理現象をデータによってモデル化する「デジタルツイン」をコーヒーマシンの開発に導入した。これに当たって同社は、Altair Engineeringのシミュレーションソフトウェア「Altair Activate」を活用した。Gruppo Cimbaliがこのツールを活用した背景は中編「コーヒーの抽出過程を『デジタルツイン』で再現するために足りなかったもの」で紹介した通りだ。導入過程で直面した問題や、創出した成果を本稿で紹介する。
デジタルツインのシミュレーションを構築するため、Gruppo CimbaliはAltair Engineeringのエンジニアと緊密に連携した。Altair Engineeringはエンジニアリングの専門知識はあっても、コーヒーマシンの専門知識は持ち合わせていない。Altair Engineeringのビジネス開発マネジャー、クリスチャン・ケーラー氏は、デジタルツインを構築するために両社が強調して作業する必要があったと話す。
Gruppo Cimbaliがデジタルツインの活用に関して強く関心を持っていたのは、シミュレーションによるデータ収集だ。特にエネルギー効率や、コーヒーマシンが作動可能な温度などの条件を知りたいと考えていた。
ケーラー氏は「Gruppo Cimbaliの取り組みは本当に画期的だ」と評価する。デジタルツインを活用することで、仮に部品Aを部品Bに変更した場合、同社は顧客にどのような影響が生じるのかを評価できる。顧客がコーヒーを飲むまでにかかる時間もシミュレーションできるので、顧客体験全体に直結する取り組みになる。
「デジタルツインの導入前は、試したくても試せないさまざまなシミュレーションがあった」と、Gruppo CimbaliのCPO(最高製品責任者)兼CTO(技術最高責任者)のマウリツィオ・トゥルシーニ氏は話す。模型を基にして試作品を作り、それを評価してコーヒーマシンの最適化に取り組むといった試行錯誤を繰り返していたという。デジタルツインによって仮想的に模型を作れば、より多くの設計をシミュレーションできるようになる。「デジタルツインを使えば、最適な設計にたどり着ける」とトゥルシーニ氏は説明する。結果的に、同社はコーヒーマシン「Faema」シリーズの開発期間を30〜40%削減できた。
デジタルツイン導入における最大の課題は社内文化の変革だったと、トゥルシーニ氏は説明する。物理的な試作品に慣れたエンジニアに、デジタルツインを信頼してもらう必要があった。デジタルツインの活用についてエンジニアに納得してもらうため、同氏は物理的な試作品とデジタルツインの両方を使ったテストを実施した。「デジタルツインが正しい方法であり、新製品を市場投入するまでの時間短縮になることを実証した」と同氏は話す。
Gruppo Cimbaliは、デジタルツインをまずはオンプレミス(自社運用のインフラ)で活用している。トゥルシーニ氏は、2022年末までにはデジタルツインをクラウドサービスでも運用したいと話す。クラウドサービスを使えば、外出先のエンジニアは現場の物理マシンとクラウドサービスにあるデータを比較し、分析することが可能だ。さらに同社の顧客にサービスとしてデジタルツインを提供することも検討している。それによってIoT(モノのインターネット)接続による新サービスの提供につなげる。
デジタルツインの導入を総括して、トゥルシーニ氏は成功だったと考えている。「デジタルツインはエンジニアが良い仕事をするのを助けてくれる。必要なのはエンジニアの代用ではなく、エンジニアの仕事を改善するものだ」と同氏は強調する。
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