新型コロナウイルス感染症の流行を受け、「VR」「AR」技術を活用する動きが広がっている。その応用先の一つが教育やトレーニングだ。VR/AR技術はどのように役立つのか。
「VR」(仮想現実)、「AR」(拡張現実)、MR(複合現実)などの「XR」(Extended Reality)技術は長年「次世代技術」だと声高に宣伝されてきた。これまで盛んに投資されてきたものの、それは“絵に描いた餅”だった。
ところが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)を受け、このところXR技術の導入機運が盛り上がっている。Web会議、リモートコラボレーション、ワークフロー効率化、ITコストの削減が突然必要になり、これらが企業におけるXR技術導入の追い風となっている。
XR技術の中でも、特に実用化や導入が進んでいるのがVR/AR技術だ。パンデミック下におけるVR/AR技術の用途と、今後の業界動向を専門家が解説する。
VR技術が最も大きい影響を与える分野の一つが教育やトレーニングだ。理由としてスピードが挙げられる。
没入型学習技術の開発を手掛けるSTRIVR LabsのCEO兼共同創業者、デレク・ベルチ氏によると、VR機器の導入により小売業者Walmartは従業員のトレーニングにかかる時間を8時間から15分に減らした。新しい機器を導入する際、VR技術によって機器の到着前にトレーニングを実施できる体制も整えた。
VR技術を使えば、従業員や講師がどこかに出向く必要がなくなるだけでなく、現場担当者への安全対策トレーニングのために、稼働中のラインを止める必要もなくなる。「没入型環境はミスや繰り返しを許容する。VR空間の中では、自由に失敗できる」とベルチ氏は説明する。
危機的状況への対処に関するトレーニングでもVR技術は役立つ。通信事業者Verizon CommunicationsはVR技術を利用して約2万2000人の従業員を対象に、武装強盗に押し入られた場合どう対処すべきかのトレーニングを実施している。「VRトレーニングによって、従業員はリスクを軽減し、緊迫した局面で適切な意思決定をする体験ができる」(ベルチ氏)
没入型技術を取り扱うVeative Labsは、電力、石油、ガス会社に対し、従業員が危険にさらされることなく学習できる安全な仮想トレーニング環境を提供している。「われわれは従業員のパフォーマンスを評価、比較して、特定の業務に就く準備を整えたかどうかを判断できる」と、同社CEOのアンカー・アガーワルは述べる。
VR/AR技術を使わなければ不可能なトレーニングもある。医療従事者は遺体を用いて人体解剖を学ぶ。これは内科医、歯科医、外科医の教育に必須の演習だ。残念なことに遺体の献体は常に多いとは言えないが、需要がなくなることはない。医療VRベンダーAugmented Intelligence(MAI)の「BodyMap」は、VR技術を使った人体解剖を実現する製品の一つだ。VR技術を利用することで、医師は実際に人体を解剖することなく解剖を学ぶことができ、献体不足も発生しない。
VRトレーニングはコストを抑えられるが「もっと大きなメリットがある」と、Veative Labsの最高製品責任者デーブ・ドラン氏は語る。テキストを読むのと比べて、VR技術で何かを体験する方が、より効率的かつ効果的に学べることだ。気が散らず、人目も気にしないで済むVRトレーニングは、学習への集中に加え、理解を促進する。
Lenovoのシニア製品マーケティングマネジャーを務めるマットニー・ベック氏は、こうした評価を裏付ける数字を示す。ベック氏が複数の事例を調べたところ、総じてVRトレーニングの方がより学習効果が高く、進度も速かった。一部のサンプルではVRトレーニング利用時の学習継続率が75%だったのに対し、従来の講義方式ではわずか5%にとどまった。従来のやり方で学習した場合と比べて、VRトレーニングを使った場合は、学習時間が30〜40%長く、ミスも30〜40%少なかったという。
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