IT変革力【第23回】
電子政府のIT推進に足りないのは足腰の強さ
政府の号令下に進められている電子政府推進計画は標準的な方法論の導入の仕方に問題があり、必ずしも順調ではありません。電子政府推進計画を実施するにあたり、政府組織に欠けている能力と対策とは、一体何なのでしょうか。
思うようにいかない電子政府推進計画
2003年7月に開始された電子政府構築計画は、その1つにIT化に対応した政府の業務改革を掲げています。そして2006年8月、政府IT戦略本部におけるIT新改革戦略の下2010年を目指した電子政府推進計画へと衣替えをし、現在に至っています(詳細はここをクリック)。
申請・届出等のオンライン利用率(電子申請)50%を目指す、業務システム最適化の着実な実施による行政運営の簡素化、合理化、効率化を図るなどが目標になっています。
しかし、電子政府推進計画は必ずしも順調ではありません。すでに外務省では電子申請の利用率が大幅に改善する見込みがないことを理由に、2006年9月末をもってパスポート電子申請の申請受付を停止すると発表しています。
また、人事院が担当している人事給与府省共通ITシステムに関しても必ずしもうまくいっていないようであり、IT業界誌や大手有名新聞などマスコミで実施遅れがささやかれています。
せっかく、民間からCIO補佐官を多数採用し、EA、PMBOK、EVM、BSC、DFD、ER図、UMLなど米国からの最新の方法論を全面導入して、政府肝いりで実施している電子政府推進計画です。本件は与党自民党の後押しも並々ならぬものがあります。順調でないように見えるのは一体、何が原因なのでしょうか。
筆者は、これらの米国から持ってきた標準的な方法論の導入の仕方に問題があると考えています。一言で言えば電子政府の構築にあたりEVMなど、あまりに高度で活用が難しい方法論が政府内で推奨されすぎています。
実質的に終身雇用制度が維持され、政府の職員がジェネラリストとして養成されている雇用慣行の中で、あまりに専門的すぎるITの高度な方法論を導入しても職員は消化不良になっているのではないでしょうか。
そうなれば結局、実行場面では外部のIT専門家に全面的に頼るしかありません。一方、外部のIT専門家は政府の計算規則など、ビジネスプロセスの改革の障害となる業務手続規則に精通しているわけではありません。
たまたまIT担当の仕事を2年程度担当して他部門に異動になる職員、ITのプロではないため高度な方法論など分からない政府職員と業務手続規則に精通していない民間IT専門家が、電子政府を推進しているお寒い状況が現実に近いと考えられます。
たまたまIT関連部署に数年間異動してきた政府職員をITのプロフェッショナルに仕立て上げる魔法でもあるならともかく、ITベンダーに勤務する一般の中堅システム・エンジニアの方々ですら、「ふーふー」言いながら勉強してやっとマスターしている高度な方法論を政府職員に押し付けるのは酷な話だと思われます。
電子政府推進計画を実施するには
それではこういう状況の中で一体、どんな手を打つべきなのでしょうか? 電子政府推進計画を実施するにあたり政府組織に欠けているのはやはり高度なIT知識なのでしょうか? 筆者は、現在の政府組織に欠けている能力は、高度なIT方法論を駆使する「頭脳的な能力」などではなく、基本を基本として確実に実施する「足腰の強さ」であると考えています。
業務・システムの仕様をしっかりまとめているか。ユーザーとなる関連府省との間で必要な情報を必要なタイミングで共有する「コミュニュケーション計画」が明確にされ、実施されているか。プロジェクト・マネジメントが御用聞きではなく主体的に実施され、モニタリングされているか。ユーザー組織が参加して十分な検証・テスト計画が立てられ、実施されているか、などの高度な方法論以前の「調達の常識の視点」が明らかに足りないように思えます。
筆者は、現在の政府組織の現状から見て、EA(業務・システム最適化計画)など、米国流の標準方法論の活用に関しても基礎的な文書類がしっかり整っていればそれで十分であると考えています。
日本の古いことわざでは、相手によって価値がないことにお金を使うことを「猫に小判」と言います。電子申請でも利用者の国民は「このサービスには価値がない、ピカピカ輝いていても使いづらい」と思えば、一見優れたサービスでも活用などしません。これはITシステムの開発や運用の高度な方法論に関しても同じことが言えます。
電子政府のIT推進のためには、くれぐれも「頭脳」ではなく「足腰」を鍛えましょう。
(野村総合研究所 社会ITマネジメントコンサルティング部 上席研究員 山崎秀夫)
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