タブレットが「シンクライアント」になる“これだけの理由”シンクライアントとしてタブレットを使う【中編】

「iPad」「Galaxy Tab」といったタブレットを、セキュリティを備えた業務用のシンクライアントとして使うことは現実的な選択肢だ。仮想デスクトップ用のシンクライアントとしてタブレットが活躍できる根拠と使い方を解説する。

2025年07月08日 05時00分 公開
[Cliff SaranTechTarget]

 企業のIT部門にとって、セキュリティの確保と多様な働き方を両立させる端末管理は大きな課題だ。その解決策として、サーバの仮想デスクトップに接続し、端末本体にはデータを保存しない運用形態がある。この端末に利用できるのが、機能を最小限に絞り込み、ネットワーク経由でデスクトップに接続することに特化した「シンクライアント」だ。

 従来シンクライアントといえば専用端末が主流だったが、タブレットを使う選択肢が浮上している。本稿は、タブレットがなぜシンクライアントとして現実的な選択肢となり得るのかについて、その技術的な背景と、具体的な導入方法を解説する。

タブレットをシンクライアントにした4つの“進化”

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 タブレットは、その軽さと携帯性から、特定の条件下で効果的なシンクライアントになり得る。場所に縛られずに働くテレワーカー、現場を飛び回る作業員、頻繁に出張する営業担当者などにとっては、有用なツールだ。

 タブレットがシンクライアントとして広く受け入れられるようになった背景には、以下に示す、登場以来の目覚ましい進化がある。

進化1.飛躍的な処理能力の向上

 タブレットの性能は年々向上しており、特にAppleがその流れをけん引している。「MacBook」シリーズが採用しているSoC(統合型プロセッサ)「M4」を、2024年5月に販売開始した「iPad Pro」も採用したのはその象徴だ。M4は最大10コアのCPU(中央処理装置)、10コアのGPU(グラフィックス処理装置)、16コアの「Neural Engine」を内蔵する。Neural Engineは、機械学習などのAI(人工知能)技術関連の処理を実行する専用プロセッサだ。

 他のタブレットも、高性能なチップを搭載することによって処理能力を高めている。一例として、Samsung Electronicsの「Galaxy Tab S10 Ultra」と「Galaxy Tab S10+」は、半導体メーカーMediaTekのSoC「MediaTek Dimensity 9300+」を採用しており、CPUの最高動作周波数(クロック周波数)は最大3.4 GHzだ。

進化2.通信機能の高速化と安定化

 通信技術の進化に伴って、タブレットでの通信における速度と信頼性も向上した。「5G」(第5世代移動通信システム)の他、「IEEE 802.11ax」(Wi-Fi 6)や「Bluetooth 5.3」といった新しい規格に準拠した通信が可能な機種が次々に登場し、従来よりも高速で安定した通信とセキュリティの強化を実現している。

進化3.周辺機器との連携性の強化

 初期のタブレットは、キーボードやマウス、外部ディスプレイといった周辺機器との接続方法が限られていた。現在では、有線/無線を問わず多彩な接続が可能になり、仮想デスクトップの操作性が格段に向上した。タブレットに「Bluetooth」通信でキーボードとマウスを接続し、「HDMI」と「USB Type-C」間の変換アダプターを使って外部モニターをつなげば、生産性を高めることができる。

進化4.洗練されたユーザー体験

 高精細なディスプレイと滑らかなリフレッシュレートは、仮想デスクトップの細かな情報やデータを正確に表示し、快適な操作を可能にする。直感的なインタフェース、スタイラスペンでの操作、マルチタスクの実行といったPCに近い機能も、作業効率を引き上げる。バッテリー駆動時間はより長く、本体はより軽くなり、筐体設計の工夫によって画面占有率も高まっている。

具体的な利用方法

 これらの進化が組み合わさることで、シンクライアントとしてのタブレットの価値は飛躍的に高まった。すでに会社支給端末として、あるいはBYOD(私物端末の業務利用)の一環として、企業はタブレットを導入している。これらのタブレットに専用のクライアントアプリケーションをインストールすることで、シンクライアントとして利用できるようになる。アプリケーションが仮想デスクトップへの安全な接続を確立し、業務に必要なワークスペースを提供する。

 複数の仮想デスクトップベンダーが、自社サービスに最適化したクライアントアプリケーションを提供中だ。Microsoftは、遠隔デスクトップ操作機能「Remote Desktop」(リモートデスクトップ)に代わるアプリケーションとして「Windows App」(Windowsアプリ)を公開した。Windows Appは通信プロトコル「リモートデスクトッププロトコル」(RDP)を用いて、「Azure Virtual Desktop」や「Windows 365」など、同社が提供する仮想デスクトップサービスとの接続を実現する。Citrix Systemsが提供するデジタルワークスペース製品群「Citrix Workspace」は、仮想デスクトップや仮想アプリケーションだけではなく、SaaS(Software as a Service)型の業務ツールへのアクセスも可能にする。その他、Amazon Web Services(AWS)の「Amazon WorkSpaces」用クライアントや、デジタルワークスペースベンダーOmnissaのVDI(仮想デスクトップインフラ)製品「Omnissa Horizon」(旧「VMware Horizon」)クライアントなどが存在する。

 タブレットにクライアントアプリケーションをインストールしたら、次に接続先の仮想デスクトップと通信するための設定作業を実施する。IT管理者がコンピュータ名やIPアドレス、ゲートウェイ情報といった接続設定の定義ファイルを作成し、エンドユーザーはこれを用いて仮想デスクトップへの接続を試みる。場合によっては、初回接続時に企業のセキュリティ要件に基づいた認証情報の入力が必要だ。

 エンドユーザーが仮想デスクトップへのログインに成功すると、クライアントアプリケーションはエンドユーザーのタブレットと仮想デスクトップをつなぐ仲介役として機能する。エンドユーザーが仮想デスクトップにあるファイルを開こうとすると、その要求がサーバに送られる。要求を処理したサーバは結果をクライアントアプリケーションに送り返し、エンドユーザーのタブレットにファイルの内容を表示する。この一連のやりとりは瞬時に実行されるため、エンドユーザーは手元のタブレットで全ての作業が完結しているかのような体験を享受できるという仕組みだ。


 次回は、タブレットをシンクライアントとして使う場合の効果的な用例を紹介する。

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