IT利用の柔軟性と効率性を高める上で欠かせない仮想化技術。Windowsに標準搭載されたハイパーバイザー「Hyper-V」の基本的な仕組みとメリットを解説する。
デスクトップ仮想化とは、ユーザーが別の場所からリモートで接続するための、仮想化されたデスクトップ環境を提供する手法だ。デスクトップ仮想化を実現する仕組みは、仮想化ソフトウェアの種類や導入方法などを含めて多岐にわたるため、IT管理者にはそれぞれの仕組みを正しく理解しておくことが求められる。
押さえておくべき仮想化ソフトウェアの一つが、Microsoftのハイパーバイザー「Hyper-V」だ。Hyper-Vは一般的にはサーバ仮想化に使われるハイパーバイザーだが、MicrosoftのクライアントOS「Windows 11」でも利用できる。仮想化技術の基本を踏まえながら、Windows 11で利用できるHyper-Vの仕組みやメリットを解説する。
仮想化技術にはさまざまな種類がある。例えば、VDI(仮想デスクトップインフラ)はデータセンターのサーバで仮想マシン(VM)を立ち上げ、そこで稼働するデスクトップ環境をエンドユーザーに提供する方式だ。一方、DaaS(Desktop as a Service)などクラウドサービスとして提供される仮想デスクトップは、仮想デスクトップをマネージドサービスとして提供するサブスクリプション型の利用形態となっている。どれを選択するかは、自社の業務要件を基準にして判断すべきだ。
以下は、代表的なビジネス要件と、それに対応する仮想化技術の例だ。
ビジネス要件 | 仮想化の種類 |
---|---|
デスクトップの提供 | VDIまたはDaaS(Desktop as a Service) |
アプリケーションの利用 | アプリケーション仮想化 |
費用対効果の重視 | リモートデスクトップサービス(RDS)またはセッションベースの仮想化 |
オフライン環境での使用 | クライアントハイパーバイザー |
Hyper-Vは一般的にはサーバ仮想化に使われるハイパーバイザーだが、Windows 11のPro、Enterprise、Educationの各エディションでも利用可能だ。Windows 11搭載のHyper-Vを使うことで、エンドユーザーは自身のPCでVMの作成および実行ができる。
VMは、あたかも別のPCが実機内で動作しているようなもので、それぞれ独立したOSや設定を持つ。Hyper-Vは、各VMを独立したコンピュータのように機能させるハイパーバイザーだ。VM同士はCPUやメモリ、ストレージ、ネットワークといったシステムリソースを共有しながらも、相互に干渉せずに動作する。
Hyper-Vは「タイプ1ハイパーバイザー」に分類される。タイプ1ハイパーバイザーは、OS上ではなくハードウェア上で直接動作する、いわゆるベアメタル型の仮想化ソフトウェアだ。これに対して、ホストOS上で動作するのが「タイプ2ハイパーバイザー」だ。
Hyper-Vは環境の分離やリソース管理、セキュリティを含めてVMを効率よく動かせるように設計されている。Hyper-Vの構成要素には以下が含まれる。
ハイパーバイザー | ハードウェアリソースを直接管理し、VMの実行を制御する。 |
---|---|
ルートパーティション(親VM) | Windowsが動作する管理用VM。ハードウェアへのアクセスを制御し、仮想化サービスを提供。 |
子パーティション(ゲストVM) | 隔離された仮想環境。ハードウェアリソースへはルートパーティションを介してアクセスする。 |
仮想化サービスプロバイダー(VSP) | ルートパーティション内で動作し、子パーティションにハードウェアリソースを提供する。 |
仮想化サービスクライアント(VSC) | ゲストVM内で動作し、VSPに対してリソースを要求する。 |
VMBus | ルートパーティションとゲストVM間の高速通信チャネル。VSPとVSC間のやりとりにも利用される。 |
仮想スイッチ | VM同士や外部ネットワークとの通信を管理する。 |
仮想ハードディスク(VHD/VHDX) | VMに割り当てる仮想ディスク。動的拡張やスナップショットに対応。 |
Hyper-Vでは、仮想環境を効率的に運用、管理するための基本機能が幾つか用意されている。ここでは、その代表的な機能を紹介する。
異なるOSを個別にインストールおよび実行できる、独立した仮想環境。
VMの作成および管理をするためのグラフィカルインタフェース(GUI)。1台の物理マシン上で複数のVMを作成、構成、管理できる。WindowsやLinuxなど、さまざまなOSがゲストVMでサポートされている。
Hyper-V の管理機能として、Microsoftのコマンドラインツール「PowerShell」による自動化やスクリプトの実行も可能。CPU使用率、メモリ使用量、稼働時間といった指標を監視できるツールも用意されており、VMの健全性とパフォーマンスの把握に役立つ。
VM間や物理ネットワークとの接続を制御する、Hyper-Vに組み込まれたソフトウェア定義ネットワーク(SDN)コンポーネント。Hyper-Vでは、用途に応じて次の3種類の仮想スイッチを使い分けることができる。
VMのある時点の状態をスナップショットとして保存し、必要に応じてその状態に復元できる機能。ソフトウェアの構成変更や更新プログラムのテスト前に状態を保存し、問題発生時には安全にロールバックできる。
Hyper-Vは、VMの使用状況に応じて割り当てるRAM(メインメモリ)の容量を自動的に調整する。これによりメモリリソースが最適化され、システム全体の効率が向上する。
VMを別のシステムに非同期で複製し、フェイルオーバーや災害時の迅速な復旧を支援する。
Hyper-Vでは、仮想マシンのストレージとしてVHDX形式の仮想ハードディスクを利用できる。VHDXは最大64TBまでの容量に対応しており、大規模なデータを扱う仮想マシンでも柔軟に運用可能。電源障害などによるファイル破損を防ぐ設計がされており、安全性にも優れている。
ホストマシンのローカルリソースをVMで利用可能にする機能。Hyper-VはRDP(リモートデスクトッププロトコル)を通じてVMに接続し、ホストとVM間のクリップボード共有、ファイル転送、画面のスケーリングなどをシームレスに実行できる。音声のリダイレクトや高解像度ディスプレイの利用にも対応している。
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