VMware製品の変更が波紋を広げる中、Red Hatが乗り換え先として同社の製品をアピールし始めた。新たに巻き起こる“ハイパーバイザー戦争”の現状とは。
IT業界では、かつての出来事が新たな形で繰り返されることがある。VMware製品のポートフォリオやライセンス体系の変更に不満を抱くユーザー企業がある中、Red Hatが乗り換えの受け皿となり得るサーバ仮想化製品を打ち出したことで、過去に勃発した“ハイパーバイザー戦争”が再燃している。
VMware製品からの乗り換えを促したいRed Hatは2025年1月、コンテナ管理ツール群「Red Hat OpenShift」(以下、OpenShift)から仮想マシン(VM)の運用管理機能を切り出し、サーバ仮想化製品として「Red Hat OpenShift Virtualization Engine」(以下、OpenShift Virtualization Engine)の提供を開始した。コンテナオーケストレーター「Kubernetes」ベースのプラットフォームとなるOpenShiftを仮想マシン専用にしたものであり、より低価格で導入できる。例えば、Red Hatの販売パートナーであるCDWだと、CPUが2ソケット、最大128コアのOpenShift Virtualization Engineのサブスクリプションが、1年当たり1903.99ドル(約27万円)。これに対し、「Red Hat OpenShift Container Platform」のサブスクリプションは、最も基本的ものが1〜2ソケットで1年当たり1万3765.99ドル(約197万円)になっている。
VMwareを買収したBroadcomが2024年1月にVMware製品の永続ライセンスの新規販売を終了すると、サーバ仮想化製品「VMware vSphere」(以下、vSphere)のユーザー企業の間に動揺が広がった。Broadcomに対する訴訟にまで発展したケースもある。Red Hatの新たな価格戦略は、こうしたユーザー企業には魅力的に映るだろう。Broadcomのユーザーフォーラムへの投稿によると、vSphereは、最も基本的な標準サブスクリプションでさえ、今は1コア当たり年間50ドルで、最低16コアの購入が必要だ。
Broadcomは、VMwareとパブリッククラウドベンダーとの提携を大幅に見直し、プライベートクラウド重視に舵を切った。これを受けて、Red Hatや、Amazon Web Services(AWS)などのクラウドベンダーが、方針転換に不満のあるVMwareのユーザー企業を公然とターゲットにし始めた。
そうしたRed Hatの戦略が功を奏した例がある。同社は2025年5月に開催したイベント「Red Hat Summit」で、ドバイの大手金融機関Emirates NBDが仮想マシン9000台をOpenShift Virtualization Engineへ移行中だと紹介した。このプレゼンテーションでは、Emirates NBDでクラウドコンピューティングの責任者を務めるニコラス・グリム氏が登壇し、この移行のきっかけが、過去1年ほどで起きた仮想化市場における混乱だったことを示唆した。
グリム氏は仮想化基盤のリプレースが始まったのは1年以上前のことだったと説明。その上で、「求めていたのは、コンテナと仮想マシン双方の運用を効率化するための統合プラットフォームだった」ことと、「移行を考えるようになった要因の一つは、既存の仮想化技術に関連するコストの上昇だった」ことを明かした。
Emirates NBDは8年前からRed Hatの顧客だ。コンテナ運用にOpenShiftを利用している他、グリム氏の推定によると、同社ではアプリケーションの約70%が商用Linuxディストリビューション「Red Hat Enterprise Linux」(RHEL)で稼働している。
Red Hat Summitで開かれたOpenShift Virtualization Engineのロードマップセッションでは、vSphereと関わりの深いユーザー企業がOpenShift Virtualization Engineに移行する場合に直面する可能性のある課題が明らかになった。
Red Hatは、構成管理ツール「Red Hat Ansible Automation Platform」との統合や、クラスタ管理機能を提供する「Red Hat Advanced Cluster Management」(ACM)でOpenShift Virtualization Engineとの連携を強化し、複数の仮想マシンクラスタをスケーラブルに管理できるようにすることや、ライブマイグレーション(稼働中の仮想マシンの移行)のスケーラビリティ強化に取り組んでいる。
2025年5月には、OpenShift Virtualization Engineをコンテナを中心とするクラウド製品のレベルまで引き上げるべく、さらなる取り組みを公開した。プレビュー版ではあるが、「Microsoft Azure」「Google Cloud」「Oracle Cloud Infrastructure」でOpenShift Virtualization Engineを利用可能にした他、「IBM Cloud」での一般提供と、「Oracle Database」の稼働に向けた初期検証などを開始した。2024年末には、AWSにおけるOpenShift Virtualization Engine利用を含めた戦略的提携も発表している。
Red Hat Summitのセッションでは、Red Hatのエンジニアリングのリーダーたちがロードマップにある主要機能を紹介した。vSphereの「Storage vMotion」(稼働中の仮想マシンを別のストレージボリュームにライブマイグレーションする機能)に相当するものや、クラスタや名前空間をまたいだ仮想マシンのマイグレーション(地理的に離れた環境で高可用性を実現する機能)、変更ブロックトラッキング(CBT)などのデータバックアップの基本機能などが紹介された。
とはいえRed Hatは、ほんの少し前まではメモリのオーバーサブスクリプション(仮想マシンに割り当てるメモリの合計が、物理メモリの容量を超える構成)や、レイヤー2のネットワーク仮想化など、vSphereでは以前から当たり前になっている機能をOpenShift Virtualization(OpenShift Virtualization Engineの旧称)に追加する段階にとどまっていた。
2024年まで、OpenShift VirtualizationがVMwareのハイパーバイザー「ESXi」などの仮想化製品群と競合することは想定されていなかった。VMware製品は20年以上かけて本格的なインフラ製品群へと発展した。一方のOpenShift VirtualizationはOpenShiftにおいてオープンソースプロジェクト「KubeVirt」を基盤に開発された仮想化機能で、2020年に提供開始になったものだ。その当初は、コンテナ化が難しいレガシーアプリケーションを取り込み、OpenShiftで最新化(モダナイゼーション)をための手段として位置付けられていた。
次回は、VMware製品からの移行が現実的な選択肢なのかどうかについてさらに深堀りする。
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