IT変革力【第4回】
Web2.0を金儲けにしか見ない日本と欧米の文化差
インターネットの進化の方向を巡る議論であるWeb2.0は、約3年前に米国で始められました。わが国でも2005年10月頃から議論されてきました。しかし、米国と日本ではその議論の中身がまるで違うのです。なぜそのような違いがあるのかというと、日本においては、ある発想が欠落しているからなのです。さて、その欠落したものとは……。
自己を変え、企業を変革するための「ITマネジャーのための変革力養成」講座の第4回。わが国でもWeb2.0に関しては活発に議論が行われてきました。しかし、その多くは現世のご利益重視な議論ばかりで、米国で行われている議論とは対象的です。それは、思想の違いが背景にありました。それによる問題点は何なのでしょうか。まず、どのようにとらえればよいのでしょうか。ITマネジャーとして、わが国におけるWeb2.0に対する欠落した発想は何かを理解し、どのように方向性を明確にしていけばよいのかを考えていきましょう。
Web2.0というのは米国のテイム・オレイリーが初のインターネット不況の中、約3年前に米国で始めたインターネットの進化の方向を巡る議論です。米国西海岸で行われた2005年10月の第2回大会あたりから世界的に注目され始めています。
一方、わが国でも梅田望夫さんの「Web 進化論」がブームになって以来、2006年2月の初めごろからIT関連の雑誌だけでなく、多くのビジネス誌も巻き込んでWeb2.0の議論が盛り上がっています。
面白いのは、欧米と日本ではWeb2.0の議論の中身がまるで異なる点です。この違いをちょっと見てみましょう。
欧米のWeb2.0議論の要点
欧米ではWeb2.0を「インターネットに関するあるべき歴史の方向」として議論しています。そして議論においては哲学の視点をとても重視しています。
(1)通常、欧米の議論の視点は論理実証主義に基づく
欧米の識者がこの手の議論をする場合、通常は論理実証主義という方法論を使います。分かりやすく言えば、論理実証主義とは「具体的な変化の事象がここかしこに現れるのが先」で、その後に「ものの見方」が変わっていくというアプローチを取ります。
具体的な変化が先で、その後にWeb2.0のように「ものの見方」が変わる訳ですね。技術革新の方向性が一定の時には、この論理実証主義は非常に説得力があります。
(2)Web2.0の思想にはパラダイムシフトの要素がある
一方、今回のWeb2.0の議論は、発想の転換が先に起こっています。そして具体的な多くの事例は、まだ実際に現れていない段階な訳ですね。無論、幾つかの萌芽事例は現れていますが、大きく花開いた多数のWeb2.0の具体事例はまだ現れていません。
かつて欧米の物理学者兼科学史研究家のトーマス・クーンは、著書『科学革命の構造』(1962年)の中で、世の中で大きな技術革新が出現する時にはまず「時代の支配的な物の見方」がまず変化し、しかる後に「具体的に大きな変化」が現れるという「パラダイムシフト論」を主張しました。
それがITの進化を含む科学活動の一般的な特性だと言った訳ですね。欧米のWeb2.0議論には明らかにこの「パラダイムシフト論」に基づいていると考えられます。
さらにこの背景には「歴史とは一定の方向を持っているもの」というキリスト教の精神に基づく「歴史哲学」あると考えられます。
日本のWeb2.0議論は現世のご利益重視
欧米のWeb2.0議論と全く対称的なのが日本のWeb2.0議論です。2005年の10月ごろからわが国でもWeb2.0に関して活発な議論が行われてきました。しかし、その多くは「Web2.0で儲かるのか」とか「Web2.0は抽象論で具体性がない」といった議論ばかりでした。さらに分かりやすく言えば「商売繁盛」「学業成就」「家内安全」といった現実論が主体だった訳ですね。面白いのは理系文系を問わず学生の多くが2006年度の入社試験の面接で「Web2.0」をとうとうと述べたという話を筆者はたくさん聞いています。
この背景にはわが国社会に深く根付いている大乗仏教の思想があります。宇宙の根本原理を否定し「すべてを現象の世界(現世の世界という現実論)の出来事=空」と考える発想ですね。また大乗仏教と並んでわが国に強い影響を与えている中国思想も「現世のご利益」を重視したものです。
歴史の方向か現世のご利益か
無論、Web2.0は最終的には具体的なビジネスモデルやITモデルにどのように落とすかという現世の議論へと進むことが求められるのは事実です。しかし、その前に歴史の大きな方向性を明確にする必要があります。わが国の場合には「歴史の方向」という発想が見事に欠落しています。
思えば失われた15年と言われる90年代のわが国の経済停滞期には、「構造改革」という歴史の方向性は長い間ほとんど議論されませんでした。そして、その末期になって小泉政権ができてやっと「構造改革」は歴史の方向だという議論に発展した訳ですね。
Web2.0というわが国の社会変革を支えるITの世界でも、また同じ愚が繰り返されているのかと思うと残念でなりません。もう少し歴史の教訓に謙虚に学びましょう。
(野村総合研究所 社会ITマネジメントコンサルティング部 上席研究員 山崎秀夫)
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