ロキ・ジョーゲンソンのネットワーク論
ネットワークの自動化に必要なのは
ネットワーク管理システムは20世紀の段階にとどまったままであり、いまだに人間の存在が欠かせない。だが、人間はボトルネックの一部になっている。
人は誰でもきれいなグラフが好きだ。外から見えない世界をすっきりとした形で見せてくれるからだ。しかしネットワーク管理および将来のネットワーク自動化という観点から見れば、グラフは未熟と頑迷の象徴だと言える。確かに、視覚化というのは強力な手法ではある。この点については、人間活動のさまざまな分野で視覚化が与えるインパクトを考えれば、ほとんど疑問の余地はない。実際、ビデオゲーム業界は巨大であり、経済においても重要な役割を果たしていることは、否定できない事実だ。
しかしネットワーク管理に関して言えば、グラフの氾濫が意味することは1つである。すなわち、ネットワーク管理システム(NMS)は20世紀の段階にとどまったままであり、自己修復、自律性、自動適応、アプリケーション指向といったネットワーク能力への要求に応えていないということだ。なぜだろうか。
グラフ――そして数々の驚嘆すべき視覚化手法――は、人間が理解するためのものである。ネットワーク管理システムがグラフやチャートを出力するのは、人間がそれを見て、解釈、分析し、行動を起こせるようにするためである。そして今日のネットワーク分野では、それは大いに理にかなったことである。そこには人間の存在が欠かせないからである。事実、ITスタッフの人件費とIT資本支出の比率は18:1だと言われている。とても多数の人間がいるわけだ。だから当然、多数のグラフが出力され、人々がネットワークの状態を把握することを可能にし、ネットワークの挙動に関する直感を働かせるのを手助けし、グラフが示す問題に対する解決策を見つけ出すのをサポートしているのである。
しかし人間はボトルネックの一部である
ネットワークの複雑性が急速に増大する一方で、アプリケーション融合へのニーズが拡大し、OSI参照モデルで表されるさまざまな機能の間の境界線があいまいになり、ビジネスプロセスがネットワークに大きく依存するという状況に人間が対応するのが非常に難しくなっているのが実情だ。さらに困ったことに、特に北米ではITスキルを持った人材が需要に比べて相対的に減少傾向にある。
総合的に判断すれば、ネットワークは自動化を受け入れられる程度まで成熟化しつつある。最近まで、ネットワーク生態系のあらゆるレベルに人間が介在するのが一般的だった。考えてみれば、ネットワークは実にサイバネティックな存在である。ちなみに、そこではエンドユーザーがアプリケーションパフォーマンスの監視役を果たし、アラームはユーザーがサポートセンターにかける電話に相当する。そして診断システムとしての役割を果たすサポートスタッフは、エンドユーザーから具体的な情報を要求し、それを関連付けることにより、問題を解決するために取るべきアクションを決定するのである。ネットワークに障害が起きていると判断された場合には、サポートスタッフはトラブルチケットをネットワーク技術者に発行する。それを受けた技術者は管理メカニズムとしての役割を果たし、必要に応じて修正あるいはプロビジョニングを行う。
多くの企業が痛感しているように、これは非常にコストの掛かるネットワーク運用方法である。人間は高価なリソースであり(当然そうあるべきだが)、彼らを非効率的な方法で働かせると生産性が低下し、ビジネスにも影響を及ぶ。
調査会社ガートナーのIT成熟度モデルのフレームワークの中では、ネットワークは技術的に特に先を進んでいるわけではない。IPネットワークの歴史が示しているように、それにはしかるべき理由がある。しかし最近の技術進歩により、ネットワークを自動化する可能性がかつてなく高まってきた。
しかし自動化を行うには、ネットワークの挙動と問題に関する具体的事実を検出・特定し、アクションに関連するパラメータを決定する必要がある。この要件は、ネットワークの詳細なデータを取得し、修正/プロビジョニング作業を自動的に開始できるようにするための高度なネットワーク分析とインテリジェンスが必要であることを意味する。今のところ、そういった詳細なデータを取得するのは不可能ではないにせよ、困難だ。また、機械によるアクションを起動するのに必要なインタフェース(IETF NetConf標準など)も一般に出回っていない。
このため、グラフの利用は、機械のインテリジェンスがほとんど、あるいはまったく存在しないことを示すサインである場合が多い。
つまり、ネットワークの状態に関するデータは、人間が理解できるように機械的に整理した上で提示されるのだ。賢い技術者がネットワークで起きていることを推測し、アクションを取れるようにするためである。実用的なネットワークインテリジェンスは、きれいな図表を大量に作成することなく、いつ、どこで、何を、どのように修正すればいいのかを技術者に伝えられなければならないのだ。
かつてある賢人が言ったように、「教養のある人は、手を用いなくても指図することができる」のである。
自律システムの場合もしかりである。自律システムは図表に反応しない。アクションを起こすための詳細な(XMLなどで表された)データが必要なのである。確かに、どのような「インテリジェント」システムを運用していようとも、グラフをはじめとする各種の視覚化ツールを利用するケースが必ず出てくるだろう。当然、こういったケースには今後も人間しか対処できない。しかしこれらは、インテリジェントなネットワークシステムによって実行されるアクションを人間のスーパーバイザーが確認する必要がある場合や、エキスパートシステムの能力を超えた予想外の事態が発生したときや、担当者(つまり人間)がほかの人にネットワークの状況を説明しなければならないときなどに限定されるべきだ。
あなたの会社のネットワークは、将来の自動化に向けた準備ができているだろうか。その条件は、NMSがグラフを作成するだけでなく、それ以上の価値を提供できることである。
本稿筆者のロキ・ジョーゲンソン博士はアパレントネットワークスのチーフサイエンティストで、18年以上にわたりコンピュータ、物理学、数学、科学の視覚化、シミュレーションなどの分野で活躍してきた。クイーンズ大学とマギル大学で計算物理学を専攻。哲学、グラフィックス、教育技術、統計力学、論理学、数論など広範な分野で著作がある。また同氏は、サイモンフレーザー大学で数学の非常勤教授を務めるとともに、同大学でCenter for Experimental and Constructive Mathematics(CECM)を共同設立した。民間部門のパートナーおよび政府機関との緊密な連携の下、ハイパフォーマンスコンピューティングやデジタルパブリッシングなどに関する多数の学術プロジェクトで研究を指導した経験もある。アパレントネットワークスでは、ジョーゲンソン氏はハイパフォーマンス、ワイヤレス、VoIP、アプリケーションパフォーマンスなどに関連したネットワーク研究の責任者を務める。これらの研究の多くは、学術機関やBCネット、テキサスA&M、CANARIE、Internet2などの最先端研究組織との共同で進められている。
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