部長のためのBI活用講座【第1回】
営業部長、SFAデータを本当に使えていますか?
営業部長と営業現場のリーダーたちとの会話を例に、企業内にたまり続けるデータを活用するためのBIの価値を解説する。
始めに──本連載の趣旨
企業の現場の人々にとって、ITの中で最もなじみがないのが今回の連載テーマ「BI(Business Intelligence)」かもしれない。
ERPやSFAであれば、「業務システム」「営業支援システム」といったように、社内の比較的多くの人がイメージできるだろう。しかしこれがBIになった途端に、「BIって何だろう」「何のために必要なのだろう」と思う方が多いと思う。また、実際に社内にBIが導入されている場合でも、「BIを自分が使っているという認識がない」というケースも多いことだろう。さらに「BIは自分たちに関係のない世界」と思っている現場の人も多いかもしれない。
本連載では「部長のためのBI活用講座」と題して、具体的な事例を交えながら、できる限り分かりやすくBIを紹介していきたいと思う。
なぜBIは難しくとらえられるのか
なぜ、BIは難しくとらえられているのだろうか。まずはそのネーミングに理由がある。Business Intelligenceを直訳すると「ビジネスの知性」となり、ますます意味不明になる。
一般的にBIとは「データを基に事実を可視化して、適切な意思決定や具体的なアクションを行うことにより、ビジネスに価値(売り上げ、生産性、企業価値)をもたらすこと」と定義される。つまり、BIはデータを基に事実を可視化するための道具であり、使われ方は業種や使う人の企業内での役割によって異なるため、一言で説明が難しいのかもしれない。
そして、BIが難しくとらえられている最大の理由は、上記の定義を自分の業務に照らし合わせて具体的にイメージできないことにほかならない。
たまり続けるデータをどうやって活用するか
企業内には非常に多くのデジタルデータが収集/保管され続けてる。これは企業内のさまざまな業務でシステム化が進んだためである。
例えば、小売業の店舗現場で既にPOSレジが常識になったように、営業現場でもSFAやCRM(顧客管理システム)が導入され始め、業務の中でより多くのデータがシステムに入力されるようになってきた。また、データを保管するハードウェアが非常に安価になってきたことも、長期にわたってデータが保管されるようになった大きな理由である。さらに、最近では内部統制強化のために、取引の原始(明細)データやシステムへのアクセス記録なども、企業として長期間の保管が必要となってきている。
これらのデータをただの「ゴミ」とするか、あるいは重要な「資産」とするのかは、そのデータをどうやって活用するかに懸かっている。
ある経営会議での社長と営業部長の会話
≪社長:≫先月の会議で目標達成は大丈夫だと言っていたじゃないか。
≪営業部長:≫ええ、各営業チームのリーダーが口をそろえて「今月こそは目標達成できそうです」と言っていたので、絶対に目標達成できるはずでした。
≪社長:≫今月は大丈夫かね?
≪営業部長:≫今月こそは絶対に大丈夫です。
≪社長:≫その根拠は?
≪営業部長:≫今月こそは、各営業チームリーダーは大丈夫だと……。
≪社長:≫それでは先月と同じじゃないのか? せっかく本年度、SFAを導入したというのに何をしているんだ!
≪営業部長:≫今回導入したSFAは、高価ではありましたが効果は十分に出ています。
≪社長:≫駄じゃれはいい! で、具体的にどのような効果が出ているんだ?
≪営業部長:≫営業担当者の行動や見込み案件がすべて入力されており、誰がどの案件を持っているのかがすぐに分かります。
≪社長:≫それでは、来月の見込み案件の件数と金額はどのくらいだ?
≪営業部長:≫私は使っていないので……。でも各営業チームのリーダーは大丈夫だと……。
≪社長:≫……。
誇張して表現したので、このような会話がそのまま繰り広げられている企業はないと思う。しかしこの会話は、データ活用ができていない企業の典型的な例といえる。社長におしかりを受けた営業部長。この後の営業会議での展開は予想できるだろう。
経営会議後の営業会議での会話
≪営業部長:≫今回の経営会議で、社長から営業成績について相当厳しい意見をいただいた。で、今月こそは大丈夫だろうな? それと高価なSFAを導入したからには、今後の売り上げも期待して大丈夫だな?
≪リーダーA:≫うちのチームは全員がんばっているので、今月こそ大丈夫です。でも、営業活動が忙しいため、SFAに入力している時間がありません。それより部長、これまで入力したデータを見ていただいたことはありますか? うちのメンバーは「データを誰も活用しないのであれば、入力するだけ無駄だ」と言っています。
≪リーダーB:≫私のチームは今月は現状で目標の1.3倍程度の確度の高い見込み案件を持っています。これまでの実績では1.2倍程度あれば達成できていますので、今月もほぼ確実だと思います。
≪営業部長:≫では来月以降の見込みはどうだ?
≪リーダーB:≫現状では、先3カ月の見込み案件数が目標達成に対して約60%しかない状況です。そのため、来月からキャンペーンを実施すべく、現場には既に達成を見込んでいる今月の追い込みよりもキャンペーンのための準備をさせています。そこで残りの40%の見込み案件を立ち上げる予定です。現状では厳しいですが、達成の可能性は十分にあります。
≪営業部長:≫どうやってその状況を把握しているんだ?
≪リーダーB:≫この画面を見てください。メンバーがSFAに入力したデータから、このような情報を簡単に見ることができるようになっています。ただ、誤ったデータが入力されていたり、入力しないでいると間違った情報が表示されるので、メンバーにはできるだけ正しい情報を、必ず入力するように指示しています。
営業部長は果たしてどちらの言い分を信じるだろうか。
「ゴミか資産か」はSFAに入力されたデータの使い方次第
もちろん目標を達成したのは、リーダーBの率いる営業チームだった。それはなぜだろうか。リーダーBはSFAに入力されたデータを基に事実を正確に把握できていた。そして、その事実に基づいた施策(キャンペーン)を立案し、具体的なアクション(今月の追い込みよりもキャンペーンの準備を優先する)を指示している。これは、現状把握が確実にできていなければ下せない判断であることは、言うまでもない。
SFAは営業のプロセスを可視化し、営業効率を上げる支援はしてくれるが、目標を達成してくれるわけではない。冒頭でBIを「データを基に事実を可視化して、適切な意思決定や具体的なアクションを行うことにより、ビジネスに価値(売り上げ、生産性、企業価値)をもたらすこと」と定義したが、入力されたデータをどのように利用するかによって、価値を生むか、無駄にするのかが決まってしまうのである。
つまり、SFAは入力されたデータを利用することによって、初めて価値が生まれるのだ。誤解を招かないように補足すると、データを利用するためには「間違いのないデータが漏れなく」入力されていなければ意味がない。リーダーAの営業チームのメンバーは、入力そのものに対して価値を見いだすことができなかったため、入力をやめてしまっている。データを利用しないリーダー、データを入力しないチームメンバーでは、SFAを導入しても効果は見込めないだろう。
「営業支援システムの導入を失敗してしまった」という話をよく聞くが、そういった経験を持つ企業は、入力したデータを本当に現場が生かしていただろうか。
翌月の経営会議
≪営業部長:≫今月は、リーダーBの営業チームは目標を達成できましたが、残念ながらリーダーAの営業チームは散々な成績でした。ただし来月は、SFAのデータからは確実に目標達成が見込めています。それは――。
どうやら営業部長はリーダーBのやり方を部内に浸透させ、データによって可視化された事実に基づいた力強い発言をすることができたようだ。
次回はBIツール導入での失敗事例を通して、現場で使えるBIツールの選び方・使い方を紹介する。せっかく導入したBIツールを「猫に小判」にせず、「鬼に金棒」にするためにはどうすればいいのだろうか。
<筆者紹介>
小島 薫
ウイングアーク テクノロジーズ株式会社
事業統括本部 Dr.Sum事業部 事業部長
石川県出身 1959年生まれ。製造業でのシステム構築、経営企画などに従事した後に、独立系パッケージベンダーに入社。汎用機からオープンシステムまでの基幹系データベースを中心に、データウェアハウス(DWH)、XML関連のサポート、プリセールス、コンサルティング、マーケティングを経験。2005年にウイングアーク テクノロジーズに入社し、技術本部長を経て、現在Dr.Sum事業部長。
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