ファイルスキャンとパケットスキャンを理解し、正しい選択を
読めば分かる! ゲートウェイアンチウイルス
パケットを監視し、各種ウイルス攻撃から企業ネットワークを保護するゲートウェイアンチウイルス。代表的な2つの形式はどう使い分ければよいのか、メリット/デメリットを紹介しながら解説する。
ゲートウェイアンチウイルスが企業に導入され始めて、約10年がたとうとしている。2000年5月に登場し、多くの企業で爆発的な感染被害を及ぼした「LOVE LETTER(※)」ウイルスにより、企業はゲートウェイアンチウイルスの導入を迫られた。
※ LOVE LETTERは、Outlookのアドレス帳を悪用し、本文に「私からのラブレターです。どうぞ読んでください。」と記載された電子メールを送り付けるウイルス。受信者は知人からのメールということもあり、つい開いてしまいたくなる仕掛けだった。
現在も、ウイルス脅威の侵入ルートはインターネットが主流である。改ざんされたWebサイト、脆弱性を持つ公開サーバ群、ボットネット、Gumblar(ガンブラー)のような複合脅威、ターゲット型攻撃、プロトコルの脆弱性など、危険は大きく、そして進化している。ゲートウェイアンチウイルスの重要性はますます高まるだろう。
ゲートウェイアンチウイルスの種類
一言でゲートウェイアンチウイルスと言っても、その形式は2つある。各社呼び名は異なるが、ここでは「ファイルスキャン」と「パケットスキャン」と呼ぶことにする。
ファイルを再構築することで、高い検知率を実現する「ファイルスキャン」
ネットワーク経由でファイルを送信する場合、ファイルを一度パケットという単位でバラバラにして送信することは周知の通りだ。ファイルスキャンは、そのバラバラになったパケットを組み立て、ファイルの形に復元してからスキャンをする。
復元したファイルが圧縮ファイルの場合には展開してから、多重に圧縮されているファイルの場合には多重に展開してからスキャンをする。ファイルが実行ファイルだった場合には、仮想空間でエミュレートして(ヒューリスティック手法)から、実行ファイルの挙動を見て検知する。このように徹底したスキャンを行うため、ファイルスキャンはパケットスキャンに比べてウイルスの検知率が高い。
一般的に利用されているゲートウェイアンチウイルスの形式は、このファイルスキャンである。UTM(統合脅威管理)では、ベンダーにより採用形式が分かれるが、ゲートウェイアンチウイルスの老舗であるトレンドマイクロ、シマンテック、およびマカフィーはファイルスキャンを採用している。
ファイルサイズの制限がなく高速処理が可能な「パケットスキャン」
パケットスキャンは、ファイルの復元はせずにパケットだけをスキャンする形式だ。圧縮ファイルの展開も、実行ファイルのエミュレーションを行わないため、検知率はファイルスキャンと比べ劣る。
マイクロソフトが発表した報告書(英文、PDF形式)によると、実際の環境(In the Wild)で発見された半数以上のマルウェアは、検知回避や自身を不明瞭(めいりょう)にすることを目的に圧縮されている。パケットスキャンでは圧縮ファイルに対して限定的なスキャンしか行えないため、ウイルスを素通りさせてしまう可能性が高まるという。
また、静的なシグネチャによるスキャンを回避するために自らを変異するポリモーフィックウイルスなどは、バケットスキャンで見つけることが難しい。数百万の形に変異するウイルスを発見するためには数百万のシグネチャが必要になるが、パケットスキャンでは巨大なシグネチャが足を引っ張り、パフォーマンスを低下させてしまう。
ファイルスキャンであれば、圧縮を展開してから実行ファイルをエミュレートした後に不正なコードを暴き出すため、1つのポリモーフィックウイルスは1つのシグネチャで対応可能だ。
では、パケットスキャンは存在意義がないのかというとそんなことはない。セキュリティレベルの低下と引き替えに得られるパケットスキャンのメリットは、パフォーマンスである。ファイルの復元とスキャンは負荷の高い処理なのに対し、パケットだけのスキャンは処理が軽く、ファイルスキャンよりもパフォーマンスが優れている。
もう1つのメリットは、スキャンをするファイルのサイズ制限がないことである。数Gバイトのファイルはもちろん、数Tバイトのファイルでも制限なくスキャンができる。ファイルスキャンは復元したファイルの置き場所が必要となる。その場所はメモリかディスクということになるが、どちらにせよ有限なスペースなのでファイルサイズに限界はある。
ただし、巨大なファイルをスキャンするメリットは少ない。感染を目的に作られるウイルスは、大きなファイルではダウンロードや送受信してもらえる機会が少ないため、1Mバイト以内のファイルサイズであることがほとんどだからだ。フォーティネットの調査では、97%のウイルスが1Mバイト未満であった。
| 1M | 2M | 3M | 4M | 5M | 6M | 7M | 8M | 9M | 10M | no limit | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| exploit | 99.83% | 99.95% | 99.97% | 99.97% | 99.98% | 99.98% | 99.99% | 100% | 100% | 100% | 100% |
| im-worm | 98.83% | 99.71% | 99.9% | 100% | 100% | 100% | 100% | 100% | 100% | 100% | 100% |
| mass-mailer | 99.62% | 99.87% | 100% | 100% | 100% | 100% | 100% | 100% | 100% | 100% | 100% |
| mobile | 99.44% | 99.78% | 99.88% | 99.9% | 99.93% | 99.95% | 99.97% | 99.98% | 99.99% | 99.99% | 100% |
| macro virus | 99.63% | 99.82% | 100% | 100% | 100% | 100% | 100% | 100% | 100% | 100% | 100% |
| phish | 100% | 100% | 100% | 100% | 100% | 100% | 100% | 100% | 100% | 100% | 100% |
| scripts | 98.25% | 99.64% | 99.88% | 99.92% | 100% | 100% | 100% | 100% | 100% | 100% | 100% |
| spyware | 95.08% | 97.97% | 98.88% | 99.47% | 99.76% | 99.83% | 99.89% | 99.91% | 99.94% | 99.95% | 100% |
| trojan | 97.02% | 99.24% | 99.62% | 99.8% | 99.98% | 99.93% | 99.95% | 99.97% | 99.98% | 99.98% | 100% |
| virus | 98.27% | 99.37% | 99.63% | 99.8% | 99.89% | 99.92% | 99.95% | 99.97% | 99.98% | 99.99% | 100% |
| worm | 99.02% | 99.65% | 99.74% | 99.86% | 99.89% | 99.92% | 99.94% | 99.94% | 99.95% | 99.96% | 100% |
※「%」はマルウェア率、「M」はファイルサイズ(Mバイト)
このデータを見てもらえば分かるが、100%に限りなく近いマルウェアは10Mバイト未満であることが分かる。ごく少数とはいえ、10Mバイト以上のマルウェアも存在するため、ファイルサイズに制限のないパケットスキャンの方が好ましいと思うかもしれない。
では、パケットスキャンであればすべてのファイルサイズのマルウェアを検知できるかといえば、そうはいかない。繰り返しになるが、パケットスキャンはファイルを組み立てずにパケットのみをスキャンする。よって、圧縮ファイルや実行ファイル、そしてポリモーフィック型のウイルスを検知できない可能性が高まる。フォーティネットのテストでは、比較的一般的な圧縮形式であるRARやbz2で圧縮されたEICARウイルスもパケットスキャンでは素通りさせてしまった。検知率を考えるなら、ファイルサイズの制限があってもファイルスキャンの方が高いといえるだろう。
ファイルスキャンとパケットスキャン、どちらの方式が良い? 使い分けは?
組み合わせのパターンを見ていきたい。
ファイルスキャンのみを使用
こちらは最も多い導入パターンで、パフォーマンスと検知率のバランスが良い。高い検知率を求めるならファイルスキャンが最良の選択肢となる。
パケットスキャンのみを使用
一般的なアンチウイルスであるファイルスキャンよりも簡易的なスキャンであり、セキュリティレベルが十分高くないことを認識した上でパフォーマンスを追求したい場合は有効な選択肢となる。
ファイルスキャンとパケットスキャンを併用
コストと運用負荷が許せば、セキュリティレベルが最も高い方法。
一般的には、ファイルスキャンのみがお勧めだが、とにかく高速性重視という場合にはパケットスキャン、セキュリティリスクを低くしたい場合は、ファイルスキャンとパケットスキャンの併用が好ましい。ベンダー選定の際は、個々のパフォーマンスのみでなく、どちらの形式かというのもセキュリティにかかわる重要な要件として検討事項に入れるとよいだろう。
菅原継顕(すがわら つぐのり)
フォーティネットジャパン シニアマーケティングマネージャー
セキュリティ業界に10年以上従事。2005年から、UTM製品「FortiGate」をはじめ幅広いセキュリティ製品を提供する外資系ベンダーでマーケティングを担当。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
急増する「AIはこう言ってる」マン 判断を狂わせる「AI忖度」を防ぐには?
-
2
取手市がVDIと決別した理由 更改費用「4倍超」を約1.7倍に圧縮
-
3
「データストレージの活用方法」に関するアンケート
-
4
自宅のWi-Fiが「遅い」「途切れる」本当の原因は? Dellが推奨する鉄則
-
5
本当に安いPCで十分か? “すぐ重くなる”を防ぐノートPC選びの絶対条件
-
6
Claudeの不可視透かしに批判殺到 著作権消失や誤判定に潜む企業リスク
-
7
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
8
221人調査で分かった「情シス最大のストレス」は?
-
9
LLMの「過学習」、正しく説明している文章はどれ?
-
10
レガシー基幹システムをSAPに統合 山善が突き止めた「標準化と個別最適」の境界線
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
年収2000万「クラウドセキュリティのプロ」になれる資格とは
-
2
セキュリティソフトをすり抜ける標的型攻撃メール、不審メールの見破り方とは?
-
3
Windows Updateの通信集中で回線が逼迫、ネットワーク刷新事例に学ぶ解決策
-
4
財務を戦略的組織へ進化させるAI活用術、4つの主要な障壁と解消方法
-
5
「NAS」「SAN」「DAS」は何が違う? いまさら聞けないストレージの基礎
-
6
“あのファイル転送”で暗躍するノーウェアランサム
-
7
標的型攻撃メールを見破るには? サンプル文面を例に傾向を解説
-
8
商用利用の安全性を確保し大量のコンテンツを高速で生成する、AI活用の秘訣
-
9
マンガで解説、1日で生成AI環境を構築できるワークショップの中身とは?
-
10
Dark AIが台頭する時代の新発想、「より高度なAIで対抗する」具体的方法とは?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー