業種別に切る! 中堅・中小企業のITソリューション【第1回】
攻めの中小製造業が「ハイブリッド生産管理システム」に積極投資する理由
中堅・中小企業も業種によってIT投資意向の変化は大きく異なる。大企業と同様に業種、業態に応じたアプローチが欠かせない。業種ごとに今、求められるIT活用とは何か? 具体的なソリューション像をあぶり出す。
大企業向けソリューションにおいては「製造業向け」「卸売/小売業向け」などといったように業種別に区分けがなされており、業種ごとに営業やSEのチームが編成されていることも少なくない。ところが中堅・中小企業向けになると、ソリューションの本質的な部分は同じであるにもかかわらず、「中堅・中小向け」という大きなくくりのみになってしまいがちだ。当然ながら中堅・中小企業においても大企業と同様にさまざまな業種が存在する。そして、ITへの取り組みも千差万別だ。
図1のグラフは年商500億円未満の中堅・中小企業に対し、「IT投資DI(ディフュージョンインデックス)」(今四半期以降のIT投資予算額が前四半期と比べてどれだけ増減するかを尋ね、「増える」と「減る」の差によって算出した「IT投資意欲指数」)を調査した結果を業種別にプロットしたものである。これを見ると、業種によってIT投資DIの変化はまったく異なっていることが分かる。つまり、このグラフは中堅・中小企業においても、業種別の特性を踏まえたITソリューション提供が重要であることを示している。
そこで本連載では「業種別に切る! 中堅・中小企業のITソリューション」と題して、業種別の業績状況やIT投資意向を踏まえながら、中堅・中小企業に本当に求められているITソリューションとは何かを探っていきたい。
連載第1回は製造業に焦点を当てる。以降、建設業、卸売/小売業、流通業といったように各回で1つの業種を取り上げ、その業種の特性やこれから有効と考えられるITソリューションを解説していく。
製造業は厳しいときにこそIT活用を考える
それでは本題に入ることにしよう。図2のグラフは、年商500億円未満の組立製造業と加工製造業の「IT投資DI」と「経常利益DI」(前回調査時点と今回調査時点を比較した場合の経常利益変化を尋ね、「増えた」と「減った」の差によって算出した「経常利益増減指数」)をプロットした結果である。つまり、組立製造業と加工製造業のそれぞれについて「企業の業績とIT投資意欲の推移を重ねたグラフ」ということになる。
グラフを見ると、組立製造業と加工製造業のいずれにおいてもIT投資DIと経常利益DIの増減動向はおおむね一致しており、多くの場合で経常利益DIの方がIT投資DIより高い値を示している。IT投資を行うには相応の原資が必要であることからも、経常利益DIの方がIT投資DIよりも折れ線グラフが上に位置するというのは、ごく自然な結果といえるだろう。しかし、よく見ると2009年2月と2009年11月はIT投資DIの方が経常利益DIよりも上に位置している。ほかと比べれば分かるように、これらは業績が厳しい(折れ線グラフが下降している)時期に相当する。つまり中堅・中小の製造業においては、業績が厳しい状況下でもIT投資が急激に落ち込むわけではないことが分かる。
なぜ、こうした動きになるのだろうか? それを理解するためには、日本の製造業における基本構造を踏まえておく必要がある。日本の製造業(特に組立製造業)は大企業を頂点とするピラミッド構造を成している。中堅・中小企業がさまざまな部品・部材を提供し、それらを集積して大企業が完成品を作り上げる。そのため、中堅・中小の業績は大企業の生産調整に大きく左右されることになる。また輸出型のビジネスが多いため、為替の変動も業績に影響を与える大きな要因の1つだ。
複数生産形態への対応と海外拠点展開がカギ
2008年秋の金融危機以降、大企業が大規模な生産調整を行ったことにより、中堅・中小企業への発注は大きく減少した。大企業からの発注が減るという事態は中堅・中小の製造業にはいかんともし難い。仕事そのものが減るのだから、原価率低減や納期短縮など効率改善という視点でのIT活用では効果がない。そこで中堅・中小の製造業が取り組んだのが「ハイブリッド生産」への対応だ。
中堅・中小の製造業では、決まった製品を継続的に供給する「繰返見込生産」と、個別に指定された製品を供給する「個別受注生産」のどちらか一方にのみ対応しているケースも少なくなかった。しかし、発注量が大きく減少する中で生き残るためには自社で対応できる生産形態を拡大し、受注できる商談の幅を広げるしかない。そうした背景もあって、生産管理システム投資の中でも繰返見込生産と個別受注生産の双方に対応した「ハイブリッド生産」を導入する取り組みが目立つようになった。これが、厳しい業績状況であるにもかかわらず、中堅・中小の製造業においてIT投資が大幅に下落しない理由の1つである。
ITソリューションを提供するベンダー側もこうしたニーズを踏まえ、ハイブリッド生産への対応に取り組んでいる。OSKが2010年3月に新たに投入した「生産革新 Raijin(雷神) SMILE BS」はその例だ。繰返見込生産に対応していた既存製品「生産革新 Fu-jin(風神) SMILE BS」に加えて、ハイブリッド生産に対応可能なラインアップを追加したという動きである。
厳しい状況下においても中堅・中小の製造業がIT活用に取り組む理由がもう1つある。それは「海外拠点への展開」だ。今後もしばらく継続するであろう円高や、少子高齢化によって縮小が予測される国内市場を背景に、製造業全体で海外に生産拠点を展開する動きが引き続き活発となっている。中堅・中小の製造業としても、発注元である大企業の求めによるものはもちろん、自社が生き残るための道として海外展開に取り組むケースも少なくない。
製造業の海外展開への取り組む意欲の高さは調査結果にも表れている。図3のグラフは、年商500億円未満の中堅・中小企業に対し「中国国内に展開中または展開予定のビジネス形態」を業種別に尋ねた結果である。
つまり、この設問に回答した企業は「中国へのビジネス展開を既に実施している、またはその予定がある」ということになる。業種別のサンプル数(グラフ縦軸に記載された業種名の横にある「n=*」の数字)を見ると、製造業はサービス業と並んでその数が多いことが分かる。つまり、それだけ中国へのビジネス展開に意欲的ということになる。さらに、実施あるいは予定をしているビジネス形態を見ると、「商材やサービスの販売/流通」「製造やサポートのアウトソーシング」といった項目の比率が高い。中国を製造拠点、かつ生産した商材の販売・流通の市場としてとらえている様子がうかがえる。
そこで必要になってくるのが、多言語、多通貨、為替レート、税率といった海外展開に固有の課題に柔軟に対応できる生産管理システムだ。システム本体だけでなく、ドキュメントやサポートにおいても多言語化されていることが重要なポイントとなる。こうした海外展開に向けた生産管理システムの導入、刷新もまた、中堅・中小の製造業において今後もニーズが見込めるトピックの1つだ。
このような生産管理システムの例が、東洋ビジネスエンジニアリングの「MCFrame」における海外展開向けラインアップである「MCFrame CS 多言語版」だ。多言語、多通貨への対応はもちろん、品目や取引先などの細かい単位で税率を設定できるなど、各海外拠点の商慣習や税制に合わせた運用が可能となっている。また、東洋ビジネスエンジニアリングやパートナー企業が中国、タイ、ベトナムといった各地に拠点を構えており、現地でのサポート体制にも配慮がなされている。現地にサポート拠点があるという点も、ITソリューションを提供する企業を選ぶ際には重要なポイントだといえる。
初期投資を抑える工夫が大切に
このように中堅・中小の製造業は、業績が厳しい中でも自社の生き残りを賭けたIT投資を求められる状況に置かれている。冒頭の図1のグラフでは経常利益DIは回復傾向にあるが、2010年後半の急激な円高進行によって再び業績が落ち込む可能性もある。
そうした中で検討すべきなのは、「初期投資を最小限に抑え、最短の期間で自社が生き残るためのIT活用策を講じる」ことである。初期投資を抑えるという点ではSaaS(Software as a Service)の活用が挙げられる。既に自社で生産管理システムを構築・運用している場合は、移行のためのコストとの兼ね合いで必ずしも最善の策とはいえないが、新規に生産管理システムの導入を検討しているのであれば有効な選択肢の1つだ。また、短期間で効果を得るには、導入に要する期間と手間を最小限にする必要がある。テンプレートを活用した導入サービスなどを検討するといいだろう。
例えば、中堅・中小向け生産管理システムで長年の実績を持つリード・レックスの「R-PiCS」。同製品は、多言語、多通貨への対応、Web対応による拠点展開の容易性、複数の生産形態への対応といった特徴を備える一方で、SaaS形態での提供も行われている。まずは投資を最小限に抑えてスタートしたい場合は、こうした「サービス形態」という選択肢があるかどうかをチェックしておくのも有効となる。
次回以降も各業種を順に取り上げる予定だ。本連載がそれぞれの業種における中堅・中小企業の個別事情にまで踏み込んだ実践的な解説となるよう、尽力していきたい。
岩上由高
ノークリサーチ シニアアナリスト
ソフトウェアベンダー数社でソフトウェア製品の企画、設計、開発、コンサルティング、トレーニングなどに携わった後、ノークリサーチに入社。シニアアナリストとしてITのさまざまな領域の調査・分析に従事し、その成果を記事執筆やコンサルティング活動を通じて積極的に発信している。
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