ERP NOW!【第4回】
実例で見る、SAP導入の落とし穴
企業で広く使われる「SAP ERP」。SAPで業務効率化を達成した企業が多くある中、効果が得られない企業もある。失敗の原因は何なのか? 導入経験豊富なアクセンチュアのコンサルタントが説明する。
代表的なERPパッケージ「SAP」
世界で使われる代表的なERPパッケージである「SAP」。シェア、導入実績数共にナンバー1である。特に中堅以上の規模の企業においては圧倒的なシェア、実績を誇っている。その一方で、SAP導入については必ずしもポジティブな意見ばかりではないことも事実である。
SAP(ECC=ERP Central Component)という製品自体は素晴らしい製品である。ただ、SAPの特徴を把握せず、やみくもに導入しようとすると、ユーザー、IT部門、経営陣の全てにネガティブな影響を与えることにもなりかねない。SAP導入に難航していたり、導入後に効果が出ていないという話も聞く。導入中、導入後になってアクセンチュアにERPの相談に来る顧客もいる。きちんと導入すれば素晴らしい効果を挙げられるにもかかわらず、導入前の検討が足りなかったり、導入方法に問題があることによって、期待されるSAPの効果が得られないのは、誠に残念なことである。
以下は実際に見られた問題の例だ。
実例1:導入前
ERP導入による目的を持たないまま、システム刷新の道具としてSAPを選択。既存システムの置き換えとしてSAPを導入することにしたが、既存の業務プロセスを踏襲することにしたため、それを実現するために過剰なアドオンを作ることになり、システム構築費用が膨大になるだけではなく、保守費用も膨らんでしまった。
実例2:導入前
ユーザーを巻き込まずにIT部門だけでSAP導入を推進。業務プロセスの改革を担うメンバーがプロジェクトに参画していなかったため、想定していた業務プロセスがユーザーに受け入れられず、システムはお蔵入り。システム導入費の無駄遣いになったばかりか、IT部門とユーザー部門の間に埋め難い溝ができてしまった。
両例とも問題は導入中、導入後に発覚したが、その根本原因はプロジェクトの成り立ちにあると思われる。一言で言えば、SAP導入プロジェクトは単純なシステム導入プロジェクトとして扱ってはならない。BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)を必要とする、業務プロセス改革プロジェクトであるべきなのだ。
これはプロジェクトの関係者がIT担当者だけでは不十分であることも示唆している。今や情報システムはITだけのものではない。ユーザー、IT、マネジメント(経営陣)を巻き込んだプロジェクトにすることが、ERP導入を成功させる第一歩である。SAP導入の効果はビジネスプロセス改革が成し遂げられて初めて実現するのである。
ちなみに、実例1までとはいかないまでも、要件定義終了時に再見積もりを行い、その際に算出されたシステム構築費に対して、効果を十分に説明できなかったことで、導入計画自体が頓挫するケースも見られる。業務の標準化、経営指標の統一などSAPで大きな効果を挙げるためには、繰り返しになるが、業務プロセス改革が必須となるのである。
ERPが乱立し業務を標準化できない
実例3:導入前
国内の業務プロセスを踏襲して海外子会社にSAPを導入したが、海外(特に新興国)の業務プロセスとして過大だったため、その後の世界展開が難航してしまった。結果として日本のシステムと海外のシステムを統合できなかった。
実例4:導入前
地域ごとや業務ごとにSAPを最適化したことで複数のインスタンスが乱立。せっかく各拠点にSAPが入っていても、地域間の業務の標準化や情報の集約ができない。乱立しているシステムごとにアップグレードを行う必要がある。
これらはまさに今、多くの企業で起きている問題である。グローバルオペレーションを目指そうと思ったものの、本丸の日本の業務プロセスが複雑すぎて足かせになってしまっているようなケースといえる。SAP導入の際にグローバル展開まで見据えて日本の業務プロセスを検討していれば起きなかった問題だ。
改善策としては、世界で共通のグローバルオペレーションモデル(GOM)を定義し、各国の業務プロセスをそれに寄せると同時に、グローバルオペレーションモデルに合致したシステムを展開することが挙げられる。ただし、この方法は非常に難易度が高く、単なるシステム構築業者ではなく、各国で業務プロセス改革を成し遂げることができる真のグローバルプレーヤーによる協力が必要となるであろう。
何よりも、何のためにグローバルオペレーションモデルを実現するのかを明確にする必要がある。グローバルで統一した経営指標を持ち、グローバルで統一した業務プロセスを持つメリットとコストを冷静に分析することが重要だ。SAP導入が手段ではなく、目的となってしまってはその効果を実現することは難しい。
また、システムを1インスタンス化することによって何を実現したいかを明確に定義することが必須である。さらに実例3にあるように各国の業務プロセスを改革することが必要だろう。
実例5:導入中
業務プロセスを改革する必要性は理解していたが、「使い慣れた画面と違うので使いづらい」という現場の声に押されて、アドオンで画面を作り込んでしまう。1つ作ったことがきっかけになり、さまざまな部署から「使い慣れた画面」を要求され、結果として膨大なアドオン画面になってしまった。
SAP導入プロジェクトに限らず、プロジェクト進行中の変更管理は非常に重要な業務である。変更管理がうまくいかないと、開発・テスト工数の増大のみならず、導入後の保守・運用費のアップなど大きな影響が出る。パッケージの導入においては、変更管理の失敗はカスタム開発以上に大きな影響を及ぼす。
これまで説明したSAP導入の際に陥りがちな問題を大きく分類してみよう。
導入前の問題
- 関係者にSAP導入の意義をうまく説明できない
- SAP導入プロジェクトを十分な体制で推進できない
- SAP導入の意義を十分に検討しないままプロジェクトを推進してしまう
- SAP導入の仕方が分からない
- 既に国内にはSAPが導入されているが、海外展開をどのように行うのか不明
- 既存システムとのすみ分けの検討が難航している
導入中の問題(例)
- QCD(Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:納期)のどれか、もしくはその全てを満たすことができない
導入後の問題(例)
- システム導入はできたものの、想定以上に保守・運用コストがかさむ
- システム導入はできたものの、期待された効果が出ない
SAPのTips解説記事を開始
上記のようなSAPの導入にかかわる問題を解決する「SAP Tips」連載を、筆者が統括する組織で執筆し、この専門メディア「ERP&IFRS」で近く開始する。Tipsを執筆するのはITツールとしてのSAPのほか、業務プロセス変革のきっかけとなるSAPにも詳しいエキスパートだ。ご期待いただきたい。
米澤創一(よねざわそういち)
アクセンチュア株式会社 テクノロジー コンサルティング本部 SAPビジネスインテグレーション グループ統括 エグゼクティブ・パートナー
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