IFRSを会計×業務×ITで理解する【第10回】
IFRSの初度適用:IFRS移行まで残された時間は少ない
IFRSに対応したITシステムを構築するための情報をお届けする。今回はIFRSの導入に当たり慎重な準備とスケジュール設定が必要となる「IFRSの初度適用」を解説する。
これからIFRSの適用を目指す日本企業に影響が大きいと考えられる会計基準のポイントと業務プロセスへの影響、ITシステムの対応方法を解説する連載の最終回。今回はIFRSの導入に当たり慎重な準備とスケジュール設定が必要となる「IFRSの初度適用」を取り上げる。なお、以下の文中における見解は特定の組織を代表するものではなく、筆者の私見である。
本連載は下記の構成にてお送りする。該当パートを適宜参照されたい。
IFRSのトピックス概要と日本基準との差異を解説する。
会計基準に対応するための業務サイドへの影響と対応方法を解説する。
- Part3:ITへのインパクトと対応(本稿)
会計基準によるITサイドへの影響と対応方法を解説する。
最終回の今回は、
- IFRSの初度適用(IFRS第1号)
を取り上げる。
IFRSの初度適用における対応事項
IFRSの初度適用における主なシステム上の検討事項は以下の通りである。業務上の検討事項についてはPart2も併せて参照されたい。
| 業務上の検討事項 | 検討内容(※がシステム上の検討事項) |
|---|---|
| 1. 適用対象範囲の検討 | ・連結の範囲の検討 ・適用対象とするIFRS基準の検討 ・従前の基準とIFRS基準との差異把握と対応方針の検討(グループ各社別) ・グループ各社の会計データ作成環境の確認※ ・親会社とのデータ連携方法の検討※ |
| 2. 移行日に向けた必要情報の精査と準備 | ・必要な決算情報の精査 ・必要な財務諸表様式の精査 ・注記の範囲と様式の検討 ・作業工数見積もりと全体スケジュール定義 ・必要データの精査とデータソースの特定※ ・システム化マスタースケジュールの検討※ |
| 3. 推進体制の定義 | ・プロジェクト体制定義 ・スキルセット検討 |
1. 適用対象範囲の検討
IFRS対応のシステム化でポイントになるのは「連結決算に必要なグループ各社の決算データをいかに効率良く収集・集計するか」という点である。収集・集計作業がボトルネックとなり全体のスケジュールに影響が出やすいのは従来の連結会計業務と同様だが、決算データ確定後の開示文書作成の工数がIFRS対応においてはより多く見込まれる。スムーズな決算の確定を行うために、このプロセスの合理化を進めておきたい。
データ収集・集計に関して効率的な対応を行うため、IFRSの初度適用に当たっては対象となるグループ会社の範囲の検討をまず行う。この範囲が確定することで、親会社に集まる子会社の決算データの総ボリュームを基に作業工数をある程度見積もることができる。
グループ各社の会計データ作成環境の確認
グループ会社の範囲を確定したら、各社で利用している会計データ作成環境を確認し、親会社の会計システムとの整合を検証する。
親会社と同一の会計システムを利用、または全社で統合された会計システムを利用している場合は、データ収集は比較的効率的に実現可能だ。ただしOSやバージョンの違いによってはデータの互換性の問題が生じるため、これらについては実態調査を行う。
会計システムを利用するが親会社と異なる(市販の会計パッケージソフトを利用しているなど)場合、受け渡すデータの形式や親会社の会計システムとのデータの互換性を確認する。会計システムはパッケージソフトで運用しているケースが多いが、自社開発のシステムを採用している場合には開発時期・導入範囲などを確認する。
親会社とのデータ連携方法の検討
データ作成環境を確認したら、各社の決算データを親会社の会計システムに取り込むための連携方法について検討を行う。データ形式については、CSV・XMLなどの汎用的なデータ形式を介して受け渡しが可能かどうか、データ出力・変換業務をデータ出力側(子会社側)で対応するか、親会社側で行うかの方針を検討する。
親会社側で想定したフォーマットに合わせて子会社側でデータを用意できれば親会社側での収集・集計の負荷を下げることができるが、子会社側での要員やデータ作成環境の制約により一律に対処できないこともあるので注意したい。なお全社で統合された会計システムを利用している場合は、データ形式の互換性は取りやすくなる。
連結パッケージ(またはリポーティングパッケージ)と呼ばれる収集データの場合、多くは親会社が定義したスプレッドシートに子会社側が決算データや補足データを入力して送信する形式を取る。この場合はデータ整合性検証(バリデーション)のための確認(貸借一致や合計と明細の一致など)をあらかじめ行う必要がある。また子会社側でシートを改変されないようにファイル保護対応なども必要になる。
連携方式については、収集データのメールでの受け渡し、EDIやXMLでのインタフェース設計などの検討を行う。メールで受け渡しをすれば簡易な運用が可能だが、収集データの履歴を「ファイル名」や「送受信メールのタイムスタンプ」などで判断するしかないため慎重な運用が求められる。
入力データの検証については、上述の入力段階での整合性検証に加え、親会社の会計システム側での取り込み前後において検証機能を実装しておきたい。
2. 移行日に向けた必要情報の精査と準備
IFRSの初度適用に当たっては財政状態計算書については3年分、その他の決算書類については2年分が必要になるが、これらを作成するための元データの特定が大切だ。
必要データの精査とデータソースの特定
IFRSで作成する開始財政状態計算書について1つ注意すべき点がある。比較対象期間における「利益剰余金の期首残高」はIFRSに基づいて作成するが、この金額データはその前の会計期間(比較対象期間の前会計期間)で、IFRSベースで集計された損益を反映した金額となる。つまり、さかのぼると比較対象期間の前会計期間における「包括利益計算書」の金額も、IFRSに基づいて集計する必要が出てくることだ。
「比較対象期間の前会計期間」における包括利益計算書自体はIFRSの初度適用における開示対象とはならないが、データの収集・集計はIFRSベースで作成できる環境を準備しておきたい。
親会社および子会社のデータについて、上記のデータソースを確実に収集できるかどうかをあらかじめ検証する必要がある。例えば収益などの考え方の違いによっては、販売システムなどの個別業務システムへの改修が必要なケースもある。システムに改修を加えない場合、作成されるデータをどのように組み替えるか(全て組み替え対象とするか期ずれ対応のみとするかなど)を検討したい。
システム化マスタースケジュールの検討
IFRSの初度適用に当たってのシステム化マスタースケジュールの例を以下に示す。これは仮にIFRS対応と合わせてシステム化も進めるという前提のもので、スケジュール面の制約はより厳しくなる。
報告期間の末日から実質3年さかのぼった時点でIFRSに対応できる決算データ(特に損益データ)が収集できる環境を整備するためには、遅くとも2013年からの対応が必要となろう。会計システムの場合、内部統制評価の制約などから決算途中や年度末間際でのシステム変更を行いにくいという固有の事情があるため、対応にかけられる時間はカレンダー上のスケジュールより相当に短くなってしまう。現業とのバランスを踏まえ、現実的なスケジュールを作成しよう。
IFRSの基準自体が常に変化していく(ムービングターゲット)であることを踏まえると、早い段階でのシステム刷新や改修はその後の手戻りや、必要以上にシステム化することで結果的に高コストとなるリスクをはらんでいる。このような事態を回避するために、システム化のタイミングを実務が定着するまで延期するのは1つの現実解となり得るだろう。
以下に示すのは、初度適用に当たって全面システム化は行わず、実務の定着を待って段階的にシステム化を図った場合のマスタースケジュールの例である。
ここでは移行日に向けた実務の定着を優先し、プレ運用(ドライラン)の結果をフィードバックしてシステム化の検討材料としていく。プレ運用期間を含めて運用期間を長く取ることで業務の経験値を蓄積し、最初のIFRS報告期間において必要十分なシステム化が実現できるように継続的に検討する。
以上、IFRSの初度適用におけるシステムの対応方針について解説した。強制適用判断のタイミングによるが、残された時間は少なく、IFRSの適用はカウントダウンの段階に入っている。直前になって慌てないよう、早めの検討着手とスケジュールの想定を行っておきたい。
当連載では、IFRSのITへの影響について多くの個別テーマを解説した。今後出現する新しいIFRSの基準や既存の基準の改訂を合わせ、これからもIFRSは変わり続ける。それを受けてIT対応の方向性も随時見直していく必要があり、IT部門の重要性はますます高まるばかりだ。財務報告をはじめとする経営情報のタイムリーな開示に貢献できるよう、これからも強い競争力を持つIT部門の確立に向けて全力で取り組んでいただきたい。
原 幹 (はら かん)
株式会社クレタ・アソシエイツ 代表取締役
公認会計士・公認情報システム監査人(CISA)
井上斉藤英和監査法人(現あずさ監査法人)にて会計監査や連結会計業務のコンサルティングに従事。ITコンサルティング会社を経て、2007年に会計/ITコンサルティング会社のクレタ・アソシエイツを設立。「経営に貢献するITとは?」というテーマをそのキャリアの中で一貫して追求し、公認会計士としての専門的知識および会計/IT領域の豊富な経験を生かし、多くの業務改善プロジェクトに従事する。共著「会計士さんの書いた情シスのためのIFRS」をはじめ、翻訳書やメディア連載実績多数。
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