ERP利用でIT統制上のリスクも
サポート切れ業務アプリ、「取りあえず使用」の問題は
「取りあえず」という意識で使い続けてしまうこともあるサポート切れのソフトウェア。しかし、セキュリティや業務効率の低下のリスクがある。加えて考えたいのはIT統制に対する問題だ。
いつか来るサポート期間の終了
業務システムの構築にパッケージ製品を用いている企業は多いが、パッケージ製品はリリースから時を経るにつれて、プログラムがバージョンアップし、古いバージョンの製品については順次サポート期間が終了していく。
販売系のソフトウェアや会計系のソフトウェアなど主要な業務に使用するERPについては、ユーザー企業がサポート切れ前に延長の対応を行い、継続してソフトウェアベンダーのサポートが受けられるようにすることが多い。だが、情報系のシステムや、会計ソフトの中でも連結ソリューションなど完結したシステムにおいては、サポートが切れたままの状態で使用し続けている企業がまれにある。
サポート期間が切れているソフトウェアの使用には、さまざまなリスクがある。これはパッケージソフトウェアのみの問題ではなく、ソフトウェアを自社開発している場合でも同様だ。万一、サポート期間が切れているソフトウェアを使用する場合には、内在するリスクを判断した上で使用することが必要となるだろう。
サポートが切れる可能性があるソフトウェアは何か?
ユーザー企業が注意をする必要があるのは、基本的にはあらゆるソフトウェアだ。サーバとして使用しているOSやデータベース、ミドルウェア、アプリケーション、クライアントPCに搭載されているOS、Officeソフトウェア、セキュリティソフトウェアなどについてサポート期限を確認する必要がある。
また、ソフトウェアを自社開発している場合についてもサポート期限を考慮することが求められる。一般にソフトウェアを自社開発する場合には開発言語を用いる。開発言語にもさまざまな種類があるが、「Microsoft Visual Basic」など開発言語自体が統合開発環境のソフトウェアとして提供されているケースがある。この場合、統合開発環境のサポートが期限を迎えると、その開発言語を用いて開発されたソフトウェアに言語が原因で不具合が生じたり、当該ソフトウェアが稼働するOSのバージョンが変わった場合などのサポートが受けられなくなることが考えられる。自社開発のソフトウェアでもパッケージソフトウェアと同様の問題が発生することがあるのだ。
ソフトウェアの保守期限はいつ?
ソフトウェアベンダーが提供するソフトウェアの保守サポートとは一体何なのか。筆者は、(1)ソフトウェアの利用や運用に関する質問対応と、(2)プログラムの改修対応が主要なポイントではないかと考えている。
(1)としては、ユーザーがアプリケーションの利用方法について疑問を持った場合の質問対応や、システム運用する際のサポート対応などが挙げられる。(2)は定期的なプログラムのアップデート(パッチ)の提供である。これには例えば会計や税務といった制度変更に対応するためのプログラム変更の他、ソフトウェアが稼働しているOSや利用しているデータベースのバージョンアップ対応のためのプログラム変更が含まれる。
ここでソフトウェアのサポート期限の例を示そう。
| ソフトウェア名 | バージョン | サポート期限 |
|---|---|---|
| Microsoft Office | 2003 | 2014年4月8日 |
| Microsoft Windows | XP | 2014年4月8日 |
| Microsoft Visual Basic | 6.0 | 2008年4月8日 |
| Windows Server | 2003/2003 R2 | 2015年7月14日 |
| Microsoft SQL Server | 2000 | 2013年4月9日 |
| Microsoft Dynamics AX | 3.0 | 2012年1月10日 |
| HULFT-HUB | Ver.1 | 2012年03月31日 |
| FileMaker | 8.5/8 | 2010年9月最終営業日 |
| IBM AIX | 5.3 | 2012年4月30日 |
| IBM WebSphere Application Server | V6.1 | 2012年9月30日 |
| Oracle Hyperion Enterprise | 6.5.1.1 | 2013年4月 |
| 図表(各社のWebサイトから筆者が調査。延長サポートがある場合はその期間も含む。2012年4月現在) | ||
会計パッケージなどの業務アプリケーションについては、ベンダーがサポート期限を公開していない場合もある。実際のサポート期限についてはベンダーに問い合わせて、自ら調査することが必要になる。
保守期限を過ぎたソフトウェアを利用し続けるリスク
サポート期限を迎えたソフトウェアの利用にはリスクがあると考えられるが、具体的には次のような問題が想定される。
(1)業務上の不具合への対応
例えば制度変更でソフトウェアの変更が求められる場合、サポート期限を過ぎていればベンダーの対応を期待することはできない。従ってそのソフトウェアを使わずにデータを収集、集計するなどして業務上の対応を行う必要がある。だが、手作業が介在するため業務上のエラーが生じるリスクは高まる。
また、制度変更が十分には周知されていないような場合、担当者が気付かないまま旧制度で処理してしまう危険もある。本来は制度変更に気付くべきであるが、万一見逃した場合、ソフトウェアのサポートを受けていれば対応できていたはずの部分が、対応できなくなってしまうのだ。
(2)ソフトウェアの機能向上
一般的に多くのユーザーがソフトウェアを使用することで、そのソフトウェアの改善すべき点が明らかになり、サポート対応などで機能改善が行われる。つまりサポート期間中の修正プログラムの適用で、ソフトウェアが利用しやすくなるなどの効果が期待できるのだ。しかし、サポートが切れたソフトウェアでは、当然ながらこのような効果は期待できない。
(3)ソフトウェアの不具合への対応
特定の作業下でソフトウェアが異常終了するような不具合があっても、サポート期間中に修正されることが多い。そのためシステム構成に変更がなければ、サポート期間が切れても大きな不具合が起きずに使い続けられるケースが考えられる。システム環境の変化が少ないサーバアプリケーションなどでそういえるだろう。しかし、クライアントアプリケーションではユーザーごとにクライアントの環境が異なり、サポート切れ以降でもさまざまな不具合が新たに見つかる可能性が高い。
仮にサポート期限を経過した後に不具合が発見された場合、ベンダー側に対応する義務はない。ユーザー側では他の方法による対応を検討しなければならないだろう。
(4)周辺ソフトウェアのバージョンアップへの対応
OSなど基本ソフトウェアのバージョンアップは、サポート切れソフトウェアの問題をより深刻にする。基本的にはサポート期限を迎えたソフトウェアを最新のOS環境で動かすことは難しいと判断すべきである。そのため、サポート期限を経過したソフトウェアを使用する場合には、同様にサポート期限が過ぎたOSを用いなければならなくなり、セキュリティ対策などで一層のリスク増大につながる。
このような問題に直面した場合、上場企業であればERPや会計ソフトウェアの不具合による決算処理の遅れや、情報開示の遅延などIT統制上のリスクにつながることも考えられる。適時に開示できないことにより証券取引所から監理銘柄に指定され、投資者から悪い意味で注目を集める事態になることが想定される。不具合がソフトウェアのサポート切れに起因する場合には、それを放置していた担当者の責任は免れないだろう。また当該部門を所管している取締役(例えばCFOや経理担当役員)については、サポート期限が切れたことを知りながらそのソフトウェアを使用している場合には、善管注意義務違反に問われる可能性もあることに留意すべきである。
「取りあえず使用」のリスク
ソフトウェアがサポート期限を迎えたとしても、「取りあえず」として使用し続けることは可能である。しかし、それがさまざまなリスクを内包していることを忘れてはならない。仮に何かの事象が発生した場合の外部からの支援は基本的に期待できないのである。
またそれによって生じた損害の責任は当然問われることになる。ユーザーの利便性を損なうリスクもある。このような理由を考えると、サポート切れのソフトウェアを使い続けるという選択肢が有効であるとはいえないだろう。
それでも、どうしてもサポート切れとなったソフトウェアを使用し続ける必要がある場合には、合理的な理由を明確にし、不具合が生じた場合の対応策を明確にしておくことが必要になる。
実際にサポート期限を迎えているソフトウェアが社内に存在していないかどうか、定期的に棚卸しをすることによって適切な対応が求められる。心当たりがある場合には、対応を検討する必要があるだろう。
中原國尋(なかはら くにひろ)
代表取締役 公認会計士/システム監査技術者
青山学院大学大学院 会計プロフェッション研究科 客員教授
中央大学大学院商学研究科博士前期課程修了。大手監査法人を経て、株式会社レキシコムを設立し、現在に至る。経営者や管理者をはじめとした情報利用者に価値のある情報をいかに提供するのかに焦点を当てながら、公認会計士としての専門知識や経験を生かし、業務改善コンサルティングや内部統制報告制度対応支援、会計制度への対応を含めた情報システムのサポート業務などを中心に展開している。IFRS、内部統制、情報システムなどをキーワードに、講演・執筆活動の実績多数。日本公認会計士協会IT委員会専門委員。
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