売り上げが38%アップ
iPadで大口顧客を獲得できたこれだけの理由
米McKinley Equipmentは、効率的なワークフローを開発して顧客サービスを強化するために、実に60年分に上る紙の書類のデータ変換に取り組んだ。
米McKinley Equipmentは、荷物の積み降ろしドックと住宅用エレベータを提供している設備メーカーだ。2006年から2011年初めにかけて、同社はライバルに打ち勝つために顧客サービスを強化しようと、「ありとあらゆる手を尽くそうとしていた」と、同社CFOのケビン・ルーシン氏は語る。ルーシン氏はMcKinleyがここ10年で進めてきた、さまざまなテクノロジ導入の旗振り役を務めてきた人物だ。同氏は「われわれは問題解決に莫大な資金をつぎ込める大企業ではないので大変だ」と述懐する。
同社は2011年、米AppleのiPad、米Salesforce.comのクラウド型CRMアプリケーション「Salesforce CRM」、米ServiceMaxのフィールドサービスアプリケーション「ServiceMax」をセットで導入した。ServiceMaxは、Salesforce.comのForce.comプラットフォーム上に構築されたものだ。これらの組み合わせにより、製品のアフターサービスなどを担当するフィールドサービス技術者は、顧客データをいつでも有効活用できるようになったという。
同社の業界ではクラウドやモバイル技術はまだ広く使われていない。こうした中にあって、同社はこれらをどう活用してビジネス課題を解決したのか、ルーシン氏に話を聞いた。
顧客サービス向上のために、iPadから各種データを閲覧可能に
――McKinley Equipmentでは、どのような理由でフィールドサービス技術者向けにiPadを採用したのですか?
ルーシン氏 以前はあらゆる業務を何でも紙ベースで処理していました。しかし紙は紛失する恐れがあるし、ワークフロー上でも紙による処理に起因するボトルネックがたくさんあった。例えば顧客から「過去の取引記録を見たい」と問い合わせを受けると、臨時スタッフ1人を1カ月間雇って、膨大なファイルの中から顧客が探している取引記録を見つけ出さなければならなかった。
また、サービスの作業プロセスで具体的に何が行われているかを可視化できていなかった。例えば、処理中の作業のために新しい技術者を派遣する場合、その技術者は、それまでの技術者が何をしていたか分からなかった。この他、新しい部品を注文するのに数日かかってしまう可能性もあった。紙ベースの処理のために、フィールド技術者が作業内容について顧客と適切なコミュニケーションを取るのが難しい状況にあった。
さらに、McKinleyは業界の3大設備ディーラーの1つだが、サービス事業の拡大を全く怠っていた。設備販売が伸びれば、おのずとサービス事業も伸びるかのように思っていた。数年前、われわれはCRMシステムの導入を検討し始めたが、私は当社のサービス事業の問題にも取り組み、こうした非効率な状態を改善したいと考えていた。
――McKinleyはiPadをどのように使っていますか?
ルーシン氏 iPadとアプリのおかげで、われわれは顧客とのやりとりをスムーズに行うことができるようになった。顧客サービスの全ての段階で、「何が行われているか」を明確に伝えることができるからだ。1週間も音信不通になって顧客を怒らせるといったことが避けられるようになった。現場に着く前に、顧客が何を必要としているか分かることもある。サービス履歴を見ることができるためだ。
こうしたことの最大の意義は、われわれが一定品質のサービスを提供できることにある。かつては、例えば10人の担当者に対して、より良い顧客サービスを提供するよう教育することはできたが、そうしたサービスの提供を保証したり、サービスの実態を追跡したりする方法はなかった。今はサービス品質を守るために、担当者が従うべき一連の作業ステップがiPadからも閲覧できるServiceMax内のチェックリストに盛り込まれている。
初回訪問時に一度で問題を解決
――iPadとServiceMax、Salesforceの導入効果は?
ルーシン氏 フィールド技術者が初回訪問で問題を解決する割合がぐんぐん上昇している。これはフィールドサービス業務において極めて重要なことだ。システムを見ればメカニカルユニットを確認できるとともに、訪問前に必要になりそうな部品を判断してあらかじめ用意しておき、訪問時に一度で問題を解決できる。
また、技術者は現場にiPadを携帯しているため、部品注文が必要になっても、その場で作業チケットを更新し、どの部品を注文する必要があるかを顧客に示し、すぐにiPad上で部品注文の承認サインがもらえる。さらに、技術者がServiceMaxで部品交換要求を送信すると、これはオフィスに送られ、直ちに部品の発注が行われる。技術者は注文部品がいつ届くかをその場でチェックし、問題がいつ解決されるかを顧客に報告した上で、次の現場に赴く。
大したことではないように聞こえるかもしれない。しかし技術者が昔ながらの紙の発注書を持っていて、オフィスに戻ってから部品の注文をしなければならなかったら、どうなるだろう? 技術者が外回りを終えてオフィスに戻ってくると、事務スタッフはもう帰宅していて部品部門も帰っている。ことによると、部品の注文は翌日も処理されないかもしれない。例えば55人の技術者全員が一度に書類を置いていったら、翌日は膨大な処理量になってしまうからだ。その結果、部品注文が実際に行われるのは翌々日になり、届くのはその3日後になるかもしれない。われわれは現在、部品を1日か2日で確保できるようになっている。こうしたさまざまなデータをすぐに活用できることが、われわれの企業価値を高めている。
――McKinleyはiPadを支給しているのですか? それともBYOD(Bring Your Own Device)を実施しているのですか?
ルーシン氏 当社には55人のフィールド技術者がいるが、LTE対応の64GバイトiPadと、iPad用ケースメーカー、Otterboxの頑丈な保護ケースを支給した。驚いたことに、彼らはiPadをとても大事に扱っている。2011年に支給して以来、幸い1台も紛失しておらず、2台の画面が壊れただけだ。
従業員を縛りすぎないセキュリティポリシーを設定
――適切な使い方やデータセキュリティ、端末管理などを徹底するためにどのようなポリシーを定めていますか?
ルーシン氏 ルールはかなり自由なものだ。禁止事項は数えるほどしかない。しかし、私はいつもルールを説いて回っている。講習やトレーニングも行った。
フィールド技術者には、『これは会社のiPadだが、皆さんのiPadでもある』と伝えた。彼らはゲームをダウンロードしたり、Webを閲覧したり、写真を撮ったりすることもできる。業務利用に支障がない限り、やりたいことは何でもできる。われわれはデータプラン付きで支給しているが、通信量がその上限を超えた場合は、彼らが超過分の料金を自己負担することになっている。
ただし、アダルトコンテンツは全面的に禁止した。発覚したら直ちに解雇だ。当社のポリシーとして、技術者がオフィスに来ているときに会社側がiPadをスキャンして、ブラウザの閲覧やダウンロードの履歴を調査できることにしている。もう1つの禁止事項は、iPadで不適切な写真や動画を撮ること。われわれは映画スターやアスリートにホームエレベーター関連のサービスを提供しており、仕事のために写真を撮らなければならないことがある。しかし写真は100%仕事用でなければならず、顧客のプライベートな生活を侵害するものであってはならない。
セキュリティに関しては、あまり厳しい管理はしていないが、休止状態が一定時間続いた場合、iPadがロックされるようにしている。フィールド技術者はiPadを重宝しているので、ずっと使わずにいることはあり得ないからだ。
また、当社が使っているiPadアプリにアクセスするには、ログインとパスワードを必要とした。これらを回避できたとしてもデータリポート機能を付けていない。だから仮に当社のデータにアクセスされても何もしようがない。データ流出問題が起こる恐れは常にあるが、われわれのデータはそれほど機密性が高くないため、iPadに制限をかけたり、ロックダウンしたりするまでもないという判断だ。
iPadと新しいワークフローをどう定着させるか
――トレーニングや講習がこの取り組みで重要な役割を果たしたとのことですが、どのようにトレーニングを行ったのですか?
ルーシン氏 101ページのトレーニングマニュアルを作った。これはフィールド技術者に新システムと、われわれが彼らに期待する使い方について詳しく教えるものだ。それから技術者を3つのグループに分けた。当社での導入以前から、個人でiPadを持っていて既に使い慣れているAグループ、仕事のやり方が変わることに不安を抱いているグループ、紙ベースでの業務を好むCグループだ。
Aグループの技術者らは新システムを試したくてうずうずしていた。導入フェーズでは、このAグループの技術者がテストケースとなり、新システムを試験利用することで、システム改善の手助けをしてくれた。
Bグループは、仕事のやり方が変わることを少し心配していましたが、新しいやり方をかなり迅速に習得した。Aグループには約1時間のトレーニングが必要なところを、Bグループでは2~3時間かかった。トレーニング後も、サポートを必要としているスタッフにはマンツーマンのトレーニングを行った。
Cグループでの最大のハードルは、新しいものを使うことへの心配、不安、戸惑いを解消することだった。そこでAグループの技術者がiPadを最大限に有効活用する方法をアドバイスしている。自社の社員がこんなふうに変革に取り組んでいるのを見るのは素晴らしいことだ。
――導入初期にAグループのフィードバックを基に、どのような変更が行われたのですか?
ルーシン氏 われわれはServiceMaxの早期導入企業の1つだが、われわれがライセンスを取得したエンタープライズエディションは、常時オンラインのアプリだった。このアプリはサービスを探索していると停止してしまうことがあった。われわれがWi-Fiも携帯サービスもないところに赴くことが原因だ。そこでわれわれはServiceMaxに働きかけ、オンラインでもオフラインでも作業ができるネイティブiPadアプリを開発してもらった。このアプリはオフラインでデータを入力すると、接続が確立されたときに同期を行う仕組みだ。また、何より重要なのは異常停止が発生しなくなったことだ。われわれの技術者は、接続の有無にかかわらず、このアプリを使っている。
――iPad導入の取り組みのROIはどのように測定しているのですか?
ルーシン氏 この取り組みの費用項目としては、ServiceMaxとSalesforceのライセンス、システム導入、既存ERPシステムとの統合、ハードウェア、トレーニング、月額データプランなどがある。このデータプランは通信事業者の米Verizonに毎月支払うランニングコストだ。
ただ、現時点ではROIを算出するのは困難だ。これは新しい試みであり、初期設備投資費用でまかなわれてきたからだ。しかしわれわれは2013年3月に、新しい顧客を獲得した。これに伴い、サービス事業は年間で約38%伸びる見通しだ。この新システムを立ち上げていなければ、これほどの大口顧客を獲得するチャンスはなかったと思う。
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