トヨタ、キヤノンはいつ動く
IFRS適用に本気の企業はどこ? 833社から探る
現在20社程度のIFRS適用企業が今後増える見込みだ。金融庁も要件緩和でIFRSを適用しやすくする方針。今後、IFRSを適用する業種、企業はどこか? IFRS適用の兆候から探る。
一度はしぼみかけた日本企業のIFRS(国際財務報告基準、国際会計基準)適用への勢いが盛り返してきた。現在のIFRS任意適用企業数は10社で、他に11社が適用を表明している。だが、この21社以外にも日本経済団体連合会(経団連)は60社の適用を見込んでいる。日本を代表する大企業のIFRS適用が進めば、東京証券取引所の株式時価総額の大半をIFRS適用企業が占めることになり、IFRSを策定するIASB(国際会計基準審議会)への日本の影響力が大きくなる。直近のIFRS強制適用は考えられない中で、日本は実質的なIFRS適用国へと進みつつある。
公認会計士の中田清穂氏は2013年5月23日に開催されたTKCのセミナーで「今後のIFRS任意適用拡大の予測 ~次はどこの業界・業種が適用するのか~」というタイトルで講演をした。その中で、IFRS任意適用を推進し始めた経団連や金融庁の動きを「急激に動き出した」と指摘した。
経団連は新政権になって初めて開催された企業会計審議会総会・企画調整部会合同会議でIFRSの任意適用を推進する立場を表明した。その上でIFRSを任意適用する上での課題などを整理して、審議の進展を促した。
金融庁はこれを受けてIFRSを任意適用するために必要な要件の緩和に動き出した。現在、日本ではIFRSを任意適用するには4つの要件をクリアする必要がある。上場していることやIFRSに基づき適正な財務諸表を作成できる体制を整えていることなどが挙げられるが、「外国に資本金20億円以上の子会社を有していること」という要件が企業にとって厳しいという意見が審議会などでは相次いでいる。そのため、金融庁はこの要件を緩和する方針だ。金融庁の試算によると上場企業3550社のうち、外国に資本金20億円以上の子会社を持つ企業は621社。残りの2929社は持たない。この要件が緩和か撤廃されれば、新たに2929社のIFRS任意適用が可能になる。
IFRS適用の兆候とは
では実際にどの程度の企業がIFRS適用を検討しているのか。中田氏は講演で、IFRS任意適用を進める企業の兆候として
- 決算期の変更
- 有価証券報告書での表現
- 償却方法の変更
- 米国基準企業
- IFRS報酬支払い企業
の5つを挙げて、次の任意適用企業を探った。
決算期、償却方法の変更
IFRSでは本社と連結子会社の決算期のずれを基本的に認めないとされ、IFRSを適用するには決算期の統一が必要になる。中田氏によると決算期を変更した企業は55社。そのうち13社はIFRS対応を理由に決算期の変更を表明した。花王や東洋ゴム工業など、IFRS適用がうわさされる企業が並ぶ(参考記事:【市場動向】日本の常識が通じない中国拠点へのSAP ERP導入、そのコツは?)。
「記載義務もないのに、有報(有価証券報告書)の『経理の状況』でIFRSに対する取り組みの記載を行っている」(中田氏)企業も、IFRSの任意適用をにらんでいると考えられる。40社の企業で、前述の東洋ゴム工業の他、沖電気工業(OKI)や日本電産などが記載している。
償却方法の変更もIFRS適用の兆候だ。IFRSにおける固定資産の減価償却では定額法が使われることが多く、日本企業が採用する定率法は少ない。IFRSでも定率法による処理は可能だが、これまでIFRSを任意適用した企業の多くは定額法に変更している。中田氏によると償却方法を変更する企業は年々増加していて、2011年は48社、2012年は86社が変更。2009年の11社、2010年の7社から急増した。「従来、償却方法の変更は利益操作が疑われるためにほとんど行われなかった」といい、これらの企業がIFRS適用をにらんでいるのは明らかだ(参考記事:日本企業が翻弄されたIFRS「減価償却」の現在)。
他社に影響を与えるトヨタ、キヤノンの動向
32社ある米国会計基準を適用している企業の動向も注目される。日本のIFRS適用の議論はもともと、米国がIFRS適用の検討を表明したことで本格化した。米国がIFRS適用国となれば、米国市場に上場する日本企業もIFRSを適用する必要がある。そのため日本でもIFRS適用を可能にするための議論が急ピッチで進んだのだ。その後、米国ではIFRS適用への機運が低下してしまい、米国基準を適用する日本企業が急いでIFRSを適用する必要はなくなった。しかし、日本を代表する大企業が多い米国基準適用企業では「他社との比較可能性、グループ内での会計方針の統一を考えてIFRS任意適用の動きがある」と中田氏は分析する。「社内的には相当IFRS適用の準備が進んでいるはずだ」
中田氏が特に注目するのがトヨタ自動車とキヤノンの動向。共に経団連の会長排出企業で、任意適用を推進する「経団連の動きに合わせるはず」とみる。業界のトップ企業で系列や子会社も多く、IFRSを適用するとそれぞれの業界への影響が大きい。
IFRS任意適用の兆候の最後は、IFRS報酬の支払いだ。中田氏は、有価証券報告書(2011年4月期から2012年3月期まで)の「コーポレートガバナンスの状況等」で非監査報酬の説明でIFRSについて言及している企業を挙げた。その数、833社。2年間の合計報酬額は107億円に上る。1社当たりの平均額が多いのは電気・ガス業(1社当たり平均3580万円)で、トップの関西電力は2年間で約1億2000万円を「IFRS適用に関する助言・指導業務」などに支払っている。東武鉄道、ブリヂストンなどその他の業界トップ企業も軒並み、2年間で1億円以上を支払うなど、中田氏は「IFRS適用にかなり本気ではないか」とみる。
IFRS適用のインセンティブ
IFRS任意適用企業を増やす上では、そのためのメリットやインセンティブも欠かせない。他社との比較可能性の向上などがIFRS適用のメリットに挙げられているが、それだけでは力不足な面もある。金融庁はIFRS適用企業の金融商品取引法に基づく単体開示を実質的に会社法の単体開示と同じ内容にし、企業の負担軽減を1つのインセンティブにしたい考えだ。だが、負担が減るだけともいえ、IFRS任意適用企業増加へ効果は未知数。企業がIFRSを適用したくなるような効果的なインセンティブを求める声も強い。
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