利用者とその家族を支えるコミュニケーションも可能に
訪問看護/児童デイサービスを支える医療クラウドを構築した「青竹のふし」
訪問看護/児童デイサービスを提供する「青竹のふし」は、導入・運用が容易なクラウドサービスを採用し、スタッフの業務の効率化や利用者とその家族とのコミュニケーションに役立てている。
看護スタッフへの連絡作業が業務の負荷に
福祉事業を営む関西が運営する「青竹のふし」(大阪府大阪市)は、大阪市や堺市、泉大津市などのエリアを中心に2008年から「在宅リハビリ青竹のふし訪問看護ステーション」において在宅患者への訪問看護サービスを提供してきた。さらに2012年11月、「青竹のふし子ども発達リハビリセンター」を設置し、0歳から障害のある18歳までの子どもを対象とするリハビリや看護、保育などが受けられる通所デイサービスを開始した。
サービス拡充に当たり、青竹のふしはある課題を抱えていた。「スタッフ間の情報共有」である。適切なサービス提供のためには、患者の過去の看護記録などの情報を正しく把握することが不可欠だ。また限られた時間内で患者宅を移動するため、患者の住所や名前、訪問先の地図などの情報を事前に看護スタッフに知らせておく必要がある。青竹のふしでは、紙ベースの看護記録をFAXで、それ以外の情報はメールを組み合わせて看護スタッフに伝達していた。
しかし、看護スタッフは必ずしも患者ごとに固定されていないため、患者の増大に伴い連絡件数も増加し、そうした伝達作業が現場に負荷を掛けていた。
関西の代表取締役 青山 敬三郎氏は「青竹のふしには約20人の看護スタッフが在籍しており、スタッフ1人当たり1日平均で5~6人の患者を訪問します。情報の伝達の負荷が増えたことで残業も常態化していました。また、業務効率化のためにSNSも試してみましたが、連絡の見落としも散見されるなど満足な効果は得られませんでした」と打ち明ける。
また、在宅リハビリに対するニーズは患者の症状ごとにさまざまであるため、作業療法士や理学療法士、言語聴覚士、看護師などで構成されるチームを編成する必要がある。そうしたチーム編成と各スタッフのスケジュール調整の手間も負担になっていたという。
アプリ開発の容易さと利用料金を評価して選んだクラウドサービスとは?
こうした状況を打開すべく、青山氏は2013年6月にITを活用した新たな情報共有の仕組み作りを決断し、サイボウズのクラウド型業務アプリケーション開発プラットフォーム「kintone」を採用した(関連記事:業務を改善するノンプログラミングPaaS「kintone」を解剖する)。
青山氏がkintoneに着目した理由の1つが「機器を導入することなく、運用管理の負荷が少なくて済む“クラウドサービス”であった」こと。訪問看護サービスを本業とする青竹のふしにとって、専門的なIT知識を必要とせずに導入・運用可能なクラウドサービスであることが必須要件であった。
また、kintoneには50種類以上のアプリケーション作成用テンプレートが用意されており、それらを用いることでノンプログラミングで汎用的な機能を利用できる(画面1)。そのため、短期間でのシステム環境の整備が見込まれた。さらに初期費用が不要で、1ユーザー当たりの月額利用料が880円と比較的安価であった点も評価したという。
本格利用に先立ち、青竹のふしでは2013年7月から1カ月にわたりkintoneを試験導入。その効果は当初の期待以上のものだったという。
「何より驚かされたのが、アプリ開発の簡単さです。最初のアプリでも約2日で完成させることができ、数時間で開発作業を完了できたケースも少なくありません。カスタマイズも容易で、使いながら機能改善を行うこともできます。インタフェースなどの使い勝手の良さからスタッフの評価も高く、試験の終了後にそのまま利用することになりました」(青山氏)
「スペース」機能で機密性の高い情報共有を実現
kintoneの導入効果は「情報共有の容易さ」「スケジュール調整作業の省力化」などにも表れたという。
まず前者で鍵となるのがkintoneの「スペース」機能。部署やプロジェクトごとに作成できる「スペース」と呼ばれるグループ単位での情報共有を実現する機能だ。メンバーそれぞれが持つ情報の共有やグループ内でのディスカッションなどに役立つ。
青竹のふしでは患者ごとにスペースを作成し、スペースごとに派遣予定の看護スタッフを登録(画面2、3)。患者の看護記録や基本情報などを限定されたスタッフのみで共有するとともに、申し送り(患者の状況の伝達)などをメッセージにより容易にできる仕組みを整えた。また、アプリケーションやフィールド、レコードごとにアクセス権限を設定できるなど患者情報の機密性が確保されており、万一不正アクセスが発生した際でもログ確認による早急な原因の特定が可能だ。
青竹のふしで相談員を務める衣川結子氏は「スタッフがすぐに必要な情報を入手可能な仕組みが整えられたことで、スタッフごとに連絡事項を伝達するという従来の煩雑な作業が一掃されました。また、患者に関するあらゆる情報をマスターデータから確認できる機能を利用することで、スタッフが必要とする情報の検索も容易になりました。移動中でもスマートフォンで患者情報を確認できる点もサービスの質の向上に寄与しています」と頬を緩ませる(画面4)。
利用者の家族とのコミュニケーションも促進
また、「ゲストスペース」機能を利用することで、デイサービスを利用する子どもやその家族とのコミュニケーションが促進されているという。ゲストスペースは、情報共有の範囲を顧客や取引先、協力会社など事業所外の人との情報共有を可能にする機能だ。ゲストとして招待されたユーザーは、ゲストスペース内のアプリケーションやスレッドのみを利用したり、開示された情報を閲覧できる。特に利用者の家族から高く評価されており、メッセージのやりとりが増えているという。
青竹のふしのスタッフは、リハビリセンターで実施したリハビリの様子などを写真を交えつつkintoneで記録。利用者の家族がその内容を確認したり、スタッフとのコミュニケーションに役立てている(画面5)。
青竹のふし子ども発達リハビリセンター 言語聴覚士 西山 文氏は「利用者の家族で仕事を持たれている方は、悩み事があっても直接スタッフに相談できる機会がないのが実情です。kintoneを介したコミュニケーションによって、時間を問わず思い付いたときに相談してもらえます。利用者の家族を支えるためにも、私たちにとってkintoneはもはや欠かせないツールになっています」と説明する。また、通所デイサービスではkintoneでの予約受け付けも開始したことで電話連絡が大幅に減り、受付業務の負担も軽減されたという。
予定を集約することでスケジュール作成を効率化
スケジュール作成の省力化のためにkintoneで開発したアプリケーションが、スタッフのスケジュールを一括管理する「予定帳」機能だ。従来、青竹のふしでは看護スタッフと患者が月単位で提出するスケジュールを突き合わせて看護スケジュールを手作業で作成していた。しかし、予定表の提出の遅れによりスケジュールの作成に手間取ったり、スタッフのダブルブッキングが発生することもあったという。
現在、青竹のふしではスタッフと患者の全ての予定を予定帳機能に集約。併せて、訪問スケジュールもスタッフ間で共有するよう業務を見直した。
「スタッフや患者の予定の傾向をつかむことで、従来よりも手間を要すことなくスケジュールを作成できるようになりました。また、全スタッフがスケジュールを共有することで、事前にミスを防ぐことも可能です。見える化されたスケジュールを基にスタッフ同士で勤務日を融通するなど、働きやすい職場作りにもつながっています」(青山氏)
kintoneの利用を通じて連絡やスケジュール作成などの手間が削減されたことで、従来4人で行っていた業務を1人で行うことが可能になり、患者へのサービス提供により多くの人員を割り当てることができたという。
「日本の福祉を世界一にしたい」 ITがその一助に
現在、青竹のふしで利用しているアプリは約370種類。その多くが管理業務に関するものだ。「現場スタッフの案件管理や日報などから、勤怠管理や会計管理にも利用しています。経営者である私にとって喜ばしいのは、売り上げの自動集計とグラフ化によってキャッシュフローの見える化が実現できたことです。他システムとの連携を通じて、業務効率のさらなる向上も見込むことができます。将来的にはあらゆるシステムとの連携を通じた、いわば“一気通貫”での業務フローの確立を目指す考えです」(青山氏)
青竹のふしでは「日本の福祉を世界一にしたい」という目標を掲げている。青山氏は「社会福祉というと政府主導で進めるというイメージがあるが、世界一になるためには組織の壁を越えて民間企業も含めた地域単位でのチームワークが必要」と語る。
同社は今後、SIerや医療機関との協業に力を入れるとともに、各種ノウハウを積極的に発信することで「日本発の医療用ITインフラの創出」を目指す。「国産ベンダーのクラウドサービスであるkintoneを採用した理由の1つでもある」(青山氏)。その一助をいわば、kintoneを含めたITシステムが担うことになる。
“青竹のふし”という社名は、青山氏が以前リハビリを担当した患者からもらった名前で、その患者が詠んだ歌集の題名でもある。若く白い竹でも失敗を怖がらずに一生懸命に努力し、その成果が未来へと継承していけばよい――青竹のふしの挑戦は始まったばかりだ。
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