2013年07月03日 08時00分 UPDATE
特集/連載

iPad、Android端末の弱点をカバー「訪問看護のために生まれた」と評価されたタブレットとは?

在宅医療・看護のニーズを満たすクライアント端末として注目されているタブレット。多くの選択肢がある中、「まるで訪問看護師のために生まれてきた」とユーザーに言わしめた最適なデバイスがある。

[翁長 潤,TechTargetジャパン]

 厚生労働省の「平成24年版 医療計画」によると、今後の医療・介護サービスの提供体制を施設完結型から地域包括型に移行し、医療と介護の連携強化を進める方針が掲げられている。また、2025年の将来像として患者の日常生活に密着する場所に病床機能が移ることを想定し、居住系サービスのさらなる充実を図る計画を進めている。その一方で、病床数の増加は見込まれておらず、最期を迎える看取りの場所の確保が今後問題になると予測されている。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、2040年には約49万人分の看取りの場所が不足する見込みだ。

 在宅療養や終末期ケアを充実させるためには、病気や障害がある人が住み慣れた地域や家庭で療養生活できることを支援する「訪問看護サービス」に期待が懸かる。しかし、全国の訪問看護事業所の数はそれほど増えておらず、訪問看護師の人材確保が課題となっている。

 「とにかく人(看護スタッフ)が足りない」。一般社団法人 名古屋市療養サービス事業団 在宅療養部 訪問看護課長 近藤佳子氏は、訪問看護の現状をこう説明する。そこで同事業団は現場スタッフの負荷を軽減するためにIT化に着手し、訪問看護師に最適なクライアント端末の採用を進めている。本稿では、インテルが6月に開催した記者説明会における同事業団の発表内容を踏まえ、その取り組みを紹介する。

現場スタッフの業務負荷の軽減をIT化で

 名古屋市療養サービス事業団は、名古屋市における高齢者などの在宅療養のための基盤整備を図り、保健・医療・福祉サービス水準の向上に寄与することを目的として、1995年9月に設立された。現在、名古屋市内で訪問看護ステーション16カ所、ケアマネジメントセンター15カ所、包括支援センター(いきいき支援センター)5カ所、無料の相談所「まちかど保健室」などの事業を展開。従業員400人のうち、看護職スタッフ330人が在籍している。

 同事業団では、訪問看護師や居宅介護スタッフの業務負荷の軽減を図るため、2011年2月に統合訪問看護業務システム「Smart Care System21」(以下、SCS21)を開発した。近藤氏は「スタッフに特に負担を掛けていたのは、看護記録やケアカンファレンスなど。それらの業務時間短縮を目的として、効率的な情報交換や記録入力の必要性を考え、システム化に踏み切った」と説明する。実際、全国訪問看護事業協会の調査によると「利用者宅で1人当たりの滞在時間は平均65分であるのに対し、訪問看護の準備や移動、記録、ケアカンファレンスなどで平均58分の時間を要する」という結果が出ている。

訪問看護師に最適なクライアント端末を検討

 SCS21は、訪問看護師のスケジュール管理から看護記録の入力・閲覧、レセプト請求、勤怠管理、給与計算などの機能を提供する統合システム。スタッフはこのシステムを利用しながら、当日の訪問予定スケジュールを確認したり、患者宅での看護業務の記録などを行う。また、現場で入力した登録内容はデータセンター上で保管され、各事業所のスタッフ間でリアルタイムに共有することができる。

photo SCS21の入力画面例《クリックで拡大》

 同事業団のIT統括本部 主任 篠田和紀氏は、IT化に当たり、2000年代前半の電子カルテ導入時の「医師が患者を見ずにPCばかり見る」という批判を思い出したという。訪問看護の現場で同様のことが起こることを懸念。「“人”を見なければ、適切な看護できない」と考え、利用者宅に1人で向かい、限られた時間内で処置を行う訪問看護師に最適なクライアント端末の検討を進めた。

 篠田氏によると、現場のスタッフが多くの機器を持ち歩きながら移動することを考慮し、携帯性に優れた端末を候補に挙げたという。「SCS21の開発段階では、iPadやAndroid端末などのタブレットが台頭しNetbookの勢いに陰りが見え始めた。また、2011年5月にインテルが提唱したUltrabookの第一世代が登場した時期に重なる」と説明する。その上で「多くの書類を作成する必要があり、物理キーボードが必須だ」と考え、現場での人気が高かったタブレットを候補から外した。また、医療システムの多くがWindowsプラットフォームであることからAndroid端末の導入も見送り、当時のNetbookはパフォーマンス不足だと評価した。最終的に折りたたみ式Ultrabook「ASUS Zenbook UX21E」を200台導入した。

 ASUS Zenbook UX21Eの利点について、篠田氏は以下の4点を挙げた。

  1. 薄い:訪問かばんに入る
  2. 軽い:女性の訪問看護師でも持ち運びやすい
  3. 速い:利用者宅でも素早く起動できる
  4. 盗難対策:Intel Anti-Theft technologyによるリモートロック機能

 「これらの特徴が訪問看護に最適だ」と考えていたが、実際に使ってみると不十分に感じる点があるという。例えば、「立ちながらの記録作業が難しかったり、利用者宅によっては処置中にUltrabookを置く場所がないこともある」(篠田氏)。また、利用者宅ではバイタルサインや看護ケアのチェックなどを記録しており、キーボードを使用する機会はそれほど多くないことが分かった。さらに、慣れないうちはどうしても入力作業に意識が向いてしまい、利用者の顔を見られないという課題も出たという。

 そこで同事業団は「膨大なドキュメントを作成できる性能を備え、看護の現場でも持ち運びやすい」という相反する要求を満たす新しい端末の導入を検討している。ただ、現行端末に対する事業所で従事するスタッフの満足度は高いため、業務ごとにより最適な端末の選定に取り組んでいる。現在、各事業所で勤務するスタッフ向けにパナソニックの「Let'snote AX3」を、現場で訪問看護を行うスタッフ向けにレノボ・ジャパンの「ThinkPad tablet 2」を試験的に導入している。

訪問看護師のために生まれてきた端末!?

 Let'snote AX3は、ディスプレーを背面に向かって倒しつつ回転させることでタブレットに変形するコンバーチブル型Ultrabook。ThinkPad tablet 2は、キーボードを着脱して利用できるデタッチャブル型Ultrabookだ。篠田氏は「まるで訪問看護師のために生まれてきたかのようだ」と評価している。その理由は、相反すると思われた要件を満たし、状況に応じた使い分けが可能だからだという。

photo 個別業務に応じた最適なクライアント端末に切り替え

 例えば、訪問看護の現場ではタブレットとして利用する。軽量で片手でも持ち運びしやすく、利用者に視線を集中させることで“人を見る看護”を実践できる。ペン入力も可能なため、素手で画面に触れられない環境でも利用できる。事業所に戻れば、キーボードを取り付けてカルテや報告書を作成することも可能だ。今のところ、性能面でも満足しているという。加えて「1日中持ち歩いてもバッテリーが切れることがない」点も大きなメリットだと説明する。篠田氏は「Ultrabookは技術の進歩に伴い、2011年当時に比べて、よりハイブリッドな端末に進化している」と評価する。

 また、近藤氏は「同事業団に勤務する訪問看護師の平均年齢48歳。導入当初は戸惑いもあったが、徐々に慣れて使いこなしてもらっている」と説明する。試験導入している端末はいずれもWindows 8を搭載しているが、現時点ではシステムの一部機能がWindows 8に対応していない。同事業団はWindows 8対応が完了してから、端末の本格導入を検討する予定だという。

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