「ネットワークセキュリティ製品」を使い倒すには【第4回】
次世代ファイアウォールの花形機能、「アプリ識別」とは?
アプリケーション単位でトラフィックを認識して制御する「アプリケーション識別機能」は、次世代ファイアウォールのウリの1つだ。具体的にどう役立つのか? 詳細に説明する。
前回の「『標的型攻撃対策は不可能』と思考停止していないか?」では、標的型攻撃対策が、ネットワークセキュリティ全体と表裏一体であることを示し、セキュリティ対策の検討が必要な領域を整理しました。今回と次回は、特にキャンパスネットワークとインターネットの境目で効果を発揮する「次世代ファイアウォール」に焦点を当て、その主要機能を紹介します。
連載:「ネットワークセキュリティ製品」を使い倒すには
「次世代」という言葉は非常に曖昧であり、具体的に何を指すのかという一定の共通認識が市場に醸成されてからでないと使い難いものです。こうした共通認識を作るのは、皮肉なことに必ずしもシェアがトップのベンダーというわけではありません。市場のニーズをうまくつかんだ製品が、マーケットリーダーとして市場をけん引する形になるのです。
セキュリティ市場で“次世代”を名乗る製品分野の代表例が、次世代ファイアウォールです。次世代ファイアウォールは比較的新しい製品分野ですが、米Palo Alto Networksという“コンセプトリーダー”が市場に登場し、比較的短期間でユーザー企業のニーズが掘り起こせたこともあり、要件は比較的早期に固まりつつあります。
次世代ファイアウォールの主要な機能としては、以下の4点が挙げられます。
- アプリケーション識別機能
- リポーティング機能
- ユーザー識別機能
- 統合脅威管理(UTM)機能
次世代ファイアウォールは、こうした機能を効果的に組み合わせることで、セキュリティの確保だけではなく、ネットワーク通信の傾向やネットワークに潜む弱点を洗い出すといった効果も期待できます。
上述の通り、次世代ファイアウォールの機能は多岐にわたります。場合によっては、自社に必要な全ての機能を次世代ファイアウォール製品1種でまかなうよりも、自社のニーズに合った単機能製品を組み合わせた方が、結果的に使いやすいこともあります。次世代ファイアウォールという1つの製品に固執し過ぎると、柔軟性が失われる可能性があることに注意が必要です。
「アプリケーション識別機能」とは
次世代ファイアウォールの機能の中でも、最も華々しく、かつユーザー企業からのウケもよいのが、アプリケーション識別機能です。
従来のファイアウォールのログは、ポート番号など通信の“外観”のみを見てプロトコルを識別し、ログの出力やアクセスを制御します。一方、次世代ファイアウォールのアプリケーション識別機能は、通信をより深く識別し、どのアプリケーションがどういった通信をしているのかを調べます。こうした情報を識別さえできれば、それに基づいて制御することは容易です。
ネットワークの投資最適化にも有効
アプリケーション識別機能の効果は、セキュリティだけではありません。例えば、あるHTTP/HTTPSのトラフィックがどのような用途に使われているのかを調べることで、より効率的なネットワーク投資をするヒントを得ることができます。
具体的な例を挙げてみましょう。一時的に大量のトラフィックが発生する「バースト」が起こったとします。アプリケーション識別機能でバースト時のトラフィックを調査することで、「誰と誰とのやりとりでバーストが発生したのか」「そのバーストを許容することが、本当にネットワークへの投資に見合うことなのか」「実はそのバーストは止めることができるのではないか」といった検討材料を手に入れることができるのです。
現在、ネットワーク接続に利用されている最も一般的なクライアントは、Webブラウザだといえます。ただし、「Webブラウザを使った通信だけがWebの通信だ」と考えていると、ネットワーク投資の効率化は難しくなります。業務に使用するWebアプリケーションも、企業によっては社内利用を禁止しているSNSやWebゲームも、エンドユーザーにとっての見た目は違えども、HTTP/HTTPS通信には変わりがないからです。アプリケーション識別機能を使えば、同じHTTP/HTTPS通信であっても、アプリケーションの種類によって通信を止めたり、もしくは帯域を絞るなどの制御ができます。
アプリケーションよりも、さらに詳細な機能単位での制御を可能にする次世代ファイアウォール製品も多くあります。例えばSNSであれば、「チャットは可能だがファイル送信は禁止する」といった制御ができます。さらに、各ベンダーは従業員の生産性向上のためのポリシー設定のノウハウをテンプレートといった形で提供するのが一般的です。これを参考にすることで、IT管理者は知識獲得のコストを抑えることができるのです。
ファイル交換ツールのように、利用するポートが変動するアプリケーションであったとしても、現在の次世代ファイアウォール製品であれば制御できます。
アプリケーション識別機能はIPSから“分化”
従来のファイアウォールは、基本的にOSI基本参照モデルのトランスポート層(レイヤー4)までがカバー範囲でした。そのため以前は、セッション層やプレゼンテーション層、アプリケーション層といったレイヤー5以上をチェックする侵入防御システム(IPS)がアプリケーションの制御をカバーしていたのです。
ただし、IPSはセキュリティインシデントの監視が“本業”であることなどから、今日のようにアプリケーション識別機能が分化され、次世代ファイアウォールに集約された経緯があります。セキュリティ製品の歴史の中でも大きな変化だといえるでしょう。
また少し時代をさかのぼると、アプリケーション識別はWAN高速化機器の役目でした。アプリケーション識別をセキュリティの切り口で見るようになったのは、次世代ファイアウォールが登場してからだといえるでしょう。
コラム:製品選定で処理性能は論点にならず ただしリソースには余裕を
次世代ファイアウォール製品は一般的に、アーキテクチャによって2種に分類できます。「高速CPUを使って高度な一括処理をする製品」「特定用途向けIC(ASIC)による分散処理でパフォーマンスを向上させた製品」の2種です。
両者にはメリットと課題があります。課題に目を向けると、前者はバス容量や遅延、総合的なパフォーマンス、後者はASICによる機能の実装の難しさなどがありました。ただし現在は、半導体やアーキテクチャの進化により、両者ともに問題は解決されて十分に個性を出せると見て問題ないと考えられます。
加えて、この両者に当てはまらないアーキテクチャを備えることで、パフォーマンスへの影響を抑えた次世代ファイアウォールも登場しつつあります。例えば、Juniper Networksの「SRXシリーズ」は、経路制御を担う「コントロールプレーン」とデータ通信を担う「データプレーン」を物理的に分離し、それらを更に分散処理することでパフォーマンスを維持しています。
こうしたことから、次世代ファイアウォールの選定においてパフォーマンスの限界が深刻な議論になることはほとんどなくなってきました。むしろ、コストに見合った性能や機能が得られるかどうかが、製品選定の重要な要素となってきています。
ただし、いずれのアーキテクチャでも、全体的にパフォーマンスや機器のリソースは大目に見積もることを推奨します。次世代ファイアウォールでは複雑なことができる半面、リソースの消費も大きくなる傾向があるためです。さまざまな機能を使おうと思っても、予測通りのリソース消費量で済むかどうかを判断するのは難しい問題です。
さらに、トラブルの発生が一時期に集中する場合があることも、記憶にとどめておくべきでしょう。現在市場にある次世代ファイアウォール製品の大部分は、十分な品質を備えているはずです。ただし、何らかのトラブルが発生したとき、あまり1つの製品に多くの機能を詰め込み過ぎると、調査や原因究明の作業に手間が掛かる可能性が高くなります。
次回は、アプリケーション認識以外の次世代ファイアウォールの主要機能である、リポーティング機能やUTM機能について解説していきます。
執筆者紹介
内藤正規(ないとう まさき) ジュニパーネットワークス株式会社
大手ネットワーク機器販売会社のセキュリティ製品担当システムエンジニア(SE)からジュニパーネットワークスへ移り、新興市場のソリューション投入に注力するチームに所属。現在は同社のパートナー担当SEとして、主にセキュリティ製品全般のスムーズな市場への投入をサポートしている。
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「ネットワークセキュリティ製品」を使い倒すには
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