ファイアウォールの概念が変わる
普及期突入で浮かび上がる「次世代ファイアウォール」導入の課題
アプリケーションベースのトラフィック制御が可能な「次世代ファイアウォール」は本格的な普及期に入ったとアナリストは断言する。一方で、導入の課題も明確になってきた。
米調査会社Gartnerが発表したIT製品に関する格付けリポート「マジック・クアドラント」によると、次世代ファイアウォールに対する懐疑論はようやく終わりを迎えつつあるようだ。今や企業は、この新しい技術の実装に当たってさまざまな問題に立ち向かわなければならない。
Gartnerのリポートは、ポートやプロトコルをベースに判断する「ステートフルファイアウォール」はもはやレガシーな技術であると見なし、多くの企業が次世代ファイアウォールを大規模に評価、導入しつつあることを示している。
「伝統的なファイアウォールは、企業を攻撃し続ける多くの脅威を阻止できない」と語るのは、ニューハンプシャー州のCapital Region Healthcare and Concord HospitalでCTO(最高技術責任者)を務めるマーク・スタリー氏だ。「2カ月に1回はウイルスに感染した病院から電話がかかってくるが、彼らはただIPS(不正侵入防止装置)のような機能を備えた標準的なファイアウォールを利用しているだけだ」
スタリー氏は2年前、Check Point SoftwareやJuniper Networksの旧式のファイアウォールをPalo Alto Networksの次世代ファイアウォールにリプレースした。そして2012年は、ニューハンプシャー州内の他の大規模病院全てがPalo Altoの次世代ファイアウォールにスイッチするという。
「ウイルスの大規模感染で復旧に3日間かかった病院は現在、Palo Alto製品の評価プロセスの段階にある」と同氏は語る。
次世代ファイアウォールのルール
アプリケーション対応ファイアウォールとして知られる次世代ファイアウォールは、従来のステートフルファイアウォールに備わるポートやプロトコル分析機能に加え、パケットを生成するアプリケーションをベースにしたトラフィック分析機能を備える。ほとんどのステートフルファイアウォールは80番ポートのHTTPトラフィックヘッダしか識別できないため、トラフィック分析機能は近年のWebアプリケーションの爆発的増加とともに極めて重要になってきた。
Gartnerはここ数年、次世代ファイアウォールがファイアウォール市場の主流になるかどうか、さまざまな議論を重ねてきた。そして、エンタープライズファイアウォールに関する最新のマジック・クアドラントにおいて、このトレンドが明白になったことを明らかにした。Gartnerは、これまで「ビジョナリー」ステータスに位置付けていたPalo Alto NetworksをCheck Point Softwareとともに市場の「リーダー」に引き上げた。
その一方で、これまで長く「リーダー」として認めていた伝統的なステートフルファイアウォール製品ラインを持つJuniper Networksは、Cisco SystemsやMcAfee、Fortinetと同じ「チャレンジャー」に移されている。
「われわれは、ファイアウォールベンダーが次世代ファイアウォールの領域へ移行することを待っていた」と語るのは、Gartnerのリサーチ副社長を務めるグレッグ・ヤング氏だ。「彼らはIPSへの信奉をなかなか捨てられなかった。それらのIPSの品質は本当にひどく、スタンドアロン(の次世代ファイアウォール)と競合することさえできなかった。スタンドアロン製品は徐々に市場を拡大していったが、(従来の)ファイアウォールベンダーはそれを無視し続けたのだ。そしてついに顧客の需要がベンダーの供給を上回る状況に至った。われわれは(マジック・クアドラントの)基準を見直し、市場のリーダーたるベンダーは(次世代ファイアウォールに)早急に対応する必要があることを示した」
Gartnerがコンサルティングするクライアントの多くは、「次世代ファイアウォールにフォーカスした製品について知りたがっている」とヤング氏は語る。それらに積極的に投資したい、あるいは少なくともそれらについて学びたいという声が多いという。
「ユーザーは(数年前まで)次世代ファイアウォールへの移行に懐疑的だった。だが現在、この市場にはさまざまな製品やベンダーがひしめいている」とヤング氏。「ユーザーはいよいよ次世代ファイアウォールに移行し始めた」
次世代ファイアウォール実装の問題点
次世代ファイアウォールの特徴であるアプリケーション層分析は膨大な計算処理能力を要求する。そのため、「次世代ファイアウォールを導入するときは注意しなければならない」とGartnerのヤング氏は指摘する。多くのUTM(統合脅威管理)ベンダーは自社製品を“次世代ファイアウォール”とうたっているが、そうした製品は大規模な企業には適さない。アプリケーションインスペクションなどの機能を全てオンにすると、UTMアプライアンスは致命的なボトルネックになるだろう。
※訂正履歴:掲載当初、「小規模な企業には適さない」と記載していましたが、正しくは「大規模な企業には適さない」です。本稿は修正済みです。おわびして訂正いたします。(2012/2/20 20:35)
「われわれはサイジングの悪い例をこれまで幾つも見てきた」とヤング氏は語る。「ほとんどのサイジング問題は、企業規模に合致しない機能を有効にしようとしたときに発生する。われわれは企業向けのUTMに極めて懐疑的だ。また、パフォーマンスに関する問題の多くは次世代ファイアウォールが統合化されていないことにも原因がある。統合化が表面的なものにすぎなければ、ボックスに何でもかんでも突っ込むと問題が発生し、パフォーマンスが一気に落ちてしまう」
もっとも、「今や多くのファイアウォールベンダーが、強力なエンタープライズグレードの次世代ファイアウォール製品を提供している」とヤング氏は言う。「どのベンダーも自社製品がベストだと主張するだろう。だがユーザーは、それぞれの環境に最適な製品を自らの手で探し出さなければならない」
次世代ファイアウォールは、運営チームに文化的な変化をもたらす。長年、ポートとIPアドレスのルールを定めてきたファイアウォール管理者たちは、次世代ファイアウォールの新しい世界に自分たちの安楽の地がないことを知るだろう。
「ファイアウォールの概念が変わる」と、Capital Region Healthcareのスタリー氏は語る。「書くのはアプリケーションベースのルールだ。単にポートやIPだけでは済まない。アプリケーションベースのルールになじむまで、ファイアウォールの管理者はハードな時間を過ごすことになる」
アプリケーション進化の先にあるもの
カリフォルニア大学アーバイン校のシステム管理者であるスティーブ・ギルマー氏は、アプリケーションの視認性が重要だと話す。だが次世代ファイアウォールを選択するときは、それだけを重視していたわけではない。
大学の教室のセキュリティ強化に向けてWatchGuardのファイアウォールをインストールしたギルマー氏は、次世代ファイアウォールがどのようにHTTPSトラフィックの復号やインスペクションを実行するのかを学ぶのが大変だったという。同氏は、HTTPSをマルウェア侵入の重大な脅威と見なしていたが、ほとんどのファイアウォールベンダーはインスペクションのためのHTTPS復号を推奨していない。その代わりに各社とも、自社の製品はネットワークに侵入したあらゆるマルウェアを検出し、感染したマシンを隔離できるとしている。
「マルウェアがネットワークに侵入していることは明らかであり、それが問題なのだ」とギルマー氏は話す。
そのことを念頭に、同氏は各ベンダーの製品がどのようにマルウェアを検出しているのかに興味があるという。しかし、多くのベンダーはマルウェア検出機能をサードパーティーに依存しており、それらがどのように組み合わされているかを評価するのは難しい。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社キーエンス] なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは -
製品資料
[株式会社セールスフォース・ジャパン] 「CRMは設計と無関係」は本当か? PLMとの融合で実現する高速開発 -
事例
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] AIエージェントの時代にどう備える? 「新たな働き手」を支える3要素とは -
製品資料
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] “横並びの自動化”から脱却、AI活用で生産性と競争力を高める秘訣 -
製品資料
[サイボウズ株式会社] AIが「わざわざ使うツール」になっていない? 業務で自然に使う導線にする秘訣
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
2
法務と開発者で「言葉が通じない」問題 トヨタやソニーが語るOSS管理の真実
-
3
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
4
なぜ「Gemini 4 Argon」は出遅れたのか? Googleが狙う“逆転のシナリオ”
-
5
「中堅・中小企業のネットワーク・セキュリティ運用実態」に関するアンケート
-
6
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
7
「Wi-Fi 7」経由でWindowsが乗っ取られる? 最高権限奪取の恐怖
-
8
情報漏えいはなぜ繰り返されるのか 今すぐ見直すべき「境界」
-
9
情シスの約8割が転職や退職を意識 調査で分かった“辞めたくなる最大の理由”
-
10
【漫画付き】ひとり情シス協会が明かす、RAG導入でしくじる企業「2つの共通点」
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
3
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
4
財務部門がAIを最大限に活用する方法 無駄のない戦略的リーダーシップへの道
-
5
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
6
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
7
なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは
-
8
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
9
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
10
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー