本社外しは進むのか
グローバル人材の採用・育成 ネックになるのは“本社”
海外で優秀な人材が採用できない――グローバル展開する日本企業の間で人材管理の課題が浮上している。どのような考えで人材管理を進め、システム導入を行うべきか。識者に聞いた。
現地の優秀な人がすぐに転職する、日本の本社で作成した戦略が理解されない、そもそも人の採用に苦労する――海外に進出する企業で人材についての課題をよく聞くようになってきた。海外進出を目指す日本企業は多くなっているが、人材問題がネックになるケースもあるようだ。海外進出企業を支援するプライスウォーターハウスクーパース(PwC)に日本企業の現状と解決策を聞いた。
グローバル展開のネックになる人材管理
欧米企業を中心にグローバル企業、多国籍企業と呼ばれる企業は多い。世界展開するIT企業などはその代表的な存在だ。日本企業もグローバル化を図る際にそのような先進企業をまねようとしてきた歴史がある。しかし、今多くの日本企業が気付いているのは、「グローバル展開は1つのパターンにはめることができない。先進的な欧米企業のやり方をまねてもうまくいかない」(PwC ディレクター 佐々木 亮輔氏)という現実だ。
その理由は人材管理の難しさだ。欧米のグローバル企業は海外展開の歴史が長く、経営を任せることができる現地の人材が育ってきている。一方、日本は日本からの駐在員がアジアの現地法人を中心に経営を行ってきたケースが多く、「現地の人材がまだマネジャークラスまでしか育っていない」(佐々木氏)。加えて、日本企業の人材管理の仕組みが終身雇用を前提としていて、流動性の高い海外の人材に対応できていないことも挙げられる。優秀な海外の人材は、自分がその企業で出世できないと考えると早期に転職を模索するのが一般的だ。
山本氏は現地人材の育成について、「20年以上、海外でビジネスをしていても優秀な人が育っていない企業が多い。それは実は育っていないのではなくて、その資質のある人材をそもそも採用できていないのが大きい。外国人が日本企業における出世について“ガラスの天井”を感じてしまい、早く高いポジションに就きたいという意欲と野心がある人は、日本企業に入ってこない」と指摘する。
これまでの人材管理の仕組みではうまくいかないことを理解した日本企業は、現実的な対応を模索している。「世界全体ではなく、リージョンごとに人材管理の仕組みを統一してまとめ上げているのが最近の傾向だ」(佐々木氏)。欧米企業型の1つの人材管理の仕組みで全世界の人材を管理するのが難しいなら、アジアや米国、欧州などリージョンごとに最適な人材管理の仕組みを採用しようという考えだ。海外拠点を統括する“グローバル本社”を別に設けるケースも多い。グローバル化の“日本本社外し”ともいえるだろう。
グローバル本社の仕組みは海外展開で先行する日本企業が積極的に取り入れている。製造や研究開発、マーケティングなどの事業部門ごとに、その意思決定や実働の舞台を海外に移すケースも見られる。「優秀な人材の採用が競争力に直結する研究開発の本社機能は北米に置く」「マーケティングは市場の成長率が高いアジアに移す」などの考えだ。「登記上は別にしても事業のヘッドクオーターを国外に移す企業は出始めている」(PwC パートナー 山本紳也氏)
日本とグローバルで人材管理システムを切り分ける
人材管理のITシステムについても“日本本社外し”が進む可能性がある。終身雇用が前提で労務管理機能が中心の日本本社の人材管理システムでは、海外の優秀な人材の採用やパフォーマンス管理に対応できない。そのため、現地法人やリージョンごとに海外製のタレントマネジメント製品を導入する企業が目立つ。「システムも日本国内の人材を対象としたシステムと、グローバル人材用のシステムとに切り分けることで、開発の方向性がすっきりする。(海外から見た)日本の特殊性にこだわってしまうと、そのようなシステム導入はできなくなってしまう」(佐々木氏)
スピード感も日本の本社とグローバル本社では異なる。「今までは3年かかっても本社でシステムを導入しようという議論が出ていたが、今は3年もかかっていたらアウト。1年でやるなら日本では導入が無理だから米国にプロジェクトを持っていくという企業が多い」(山本氏)。海外で生まれたタレントマネジメントの仕組みが日本本社の人材管理に適合せず、人事部が対応できないこともある。そのためグローバル本社が主導し、SaaSなど短期導入できるタレントマネジメント製品を利用するのだという。
今後の人材管理、人材管理システムの開発は、日本の本社と、グローバル本社との間で乖離が広がる可能性がある。「グローバル化で最もネックになるのは現場ではなく、本社。経営者が最もグローバル化をしていない。現地法人に出ている日本人は日本の本社の限界が分かっている」(山本氏)
もちろん、一部の製造業など日本の経営管理の仕組みを海外で貫いてうまくいっている企業はある。だが、業種や意思決定の形態が企業ごとに異なる中で、グローバルで成功している日本企業の成功例すらお手本にするのは難しいと多くの企業は気付いている。「片や海外でブランドがある企業はどんどん海外に出て行っている。それもグローバル化の1つの成功の形だ。だが、これまで日本中心でビジネスを行ってきた企業は、自社のアイデンティティーを反映した人材管理の仕組みをどう残すのか、それとも失ってもいいのかを早期に判断する必要がある」(佐々木氏)
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