「グローカリゼーション」で再考される経営モデル
パリのディズニーランドがワインを出す理由――と人事管理の共通点
世界展開する企業はグローバルな視点を持ちながらもローカルに合わせる「グローカリゼーション」の経営モデルが欠かせない。米Disneyが直面した問題とその解決策とは。
ソーシャルメディアが普及して、今は全世界レベルで他者とのコミュニケーションの頻度が以前よりも高くなったと思っている人は、考えを改めた方がいい。国際的な物流企業、米DHLが2012年にまとめた調査結果「Global Connectedness Index 2012」によると、実際には2007年に比べて世界の「つながりの密度」は低下しているという。2013年4月下旬に米国フロリダ州で開かれたカンファレンス、「Bersin by Deloitte's Impact 2013」の冒頭の基調講演において、米Bersin by Deloitteの創業者でありプリンシパルのジョシュ・バージン氏がこの点を指摘した。
この傾向は人事部門(以下、HR)にとってどのような意味を持つのか。「グローカリゼーション」(グローバリゼーション+ローカリゼーション)、つまり世界各地の支店や営業所で、現地のルールや慣習に従って事業を運営する必要性が高まっている。
Disneyがワイン販売を認めた理由
HRにとって、グローカリゼーションの拡大は、本社のアメリカ人を国外支店や営業所の責任者として赴任させることに加えて(または異動させる代わりに)リーダーを現地で採用し育成することを意味する。HRを機能させるために、現地固有のモデルを構築する必要もある。このカンファレンスではHRのリーダーと専門家たちが終始、「効果の出せるローカル対応のイニシアチブの策定は困難ではあるが可能だ」と説いていた。
バージン氏は、「グローカル」(グローバル+ローカル)な手法とは、企業がそれぞれ持つ固有の文化と、特定のマーケットを特徴づけている慣習や傾向を組み合わせて、新しいものを生み出すことだと説明した。そして自動車業界の例を挙げ、「全世界で売れる車を作ろうとした会社は、ことごとく失敗した」と同氏。「アメリカ車を作って国外にも売ろうとするのはダメだし、逆にアメリカらしさを一切排除して特定の国向けの車を作るのもよろしくない。そこで米Ford Motorは小型車『Figo』を作るときにこれらの両極端の手法の中間を取った。すなわち、“世界各地から部品を調達して、特定の地域向けの車”を作った」と同氏は説明した。車の大きさ、形、スタイルをインドの嗜好に合わせたことで、インドでは記録的に売れた。
「今後の1年でCHRO(Chief Human Resources Officer: 最高人事責任者)が果たすべき、大胆で戦略的な新しい役割」と題したパネルディスカッションで、米Walt Disney傘下のDisney Consumer ProductsおよびDisney InteractiveでHR担当執行役員を務めるゲイリー・ランドール氏は、「Disneyはアメリカ国外でテーマパークを作るときには、常にグローカリゼーションを意識してきた」と語った。例えば、フランスのパリにディズニーランドを作ったとき、当初はアメリカの本社が施設を所有し、運営もアメリカでのやり方に従った。すると、フランスの文化とディズニーの文化との間で摩擦が起こった。
ランドール氏はこう説明した。「フランス人がワイン好きなのは最初から分かってはいたが、私たちのテーマパークでは認めないつもりだった。ディズニーランドではアルコールは一切許可していなかったから。すると施設内で暴動が起こった。それで私たちは、フランスではどうしても飲酒を認めなければいけないと、認識を改めた。現在、当社は中国にテーマパークを建設中だが、そこにはメインストリートは作らない。中国人はそういう街並みになじみが薄いから。ディズニーらしさを表現するのはもちろんだが、同時に中国本来の文化も尊重しなければいけない」
このようなグローカルなビジネス戦略は、HRの運営プロセスにも影響を与えている。「新しい場所への人員配置の方針をすっかり考え直した」とランドール氏は言う。「当社は確かに、アメリカ人の駐在員を世界各地に派遣して新しい営業拠点を開設してはいるが、現地採用の社員をリーダーにすることで、われわれが望んだ目標を本当の意味で達成できた」
前述のバージン氏も、現地採用の社員のリーダーシップを育成することは「エクスパット」(外国人を駐在または赴任させること)モデルよりも効果が高いことには同意している。「本社から上級管理職を国外のオフィスに異動させても、期待するほどの効果は上がらない」とバージン氏。リーダーシップのスキルの中で効果のあるものは、国によって異なることも同氏は指摘している。
Bersin by Deloitteの人材管理担当の主任アナリスト、キャサリン・ジョーンズ氏と、ベンチマーキング担当の主任アナリスト、カレン・オリオナード氏が、中国でのリーダーシップ育成に関するセッションで披露したプレゼンテーションも、同様の趣旨だった。現地に赴任したアメリカ人の管理職は、異国の新オフィスの立ち上げに最初は活躍するだろうが、そんな「エクスパット」たちもできるだけ早く、現地採用の人材から後任者を探した方がいいと、両氏は言う。
ジョーンズ氏とオリオナード氏は成功するグローバルリーダーの要件として8つの能力を挙げ、中でも最も重要なものは戦略的思考、説得力のあるコミュニケーション能力、結果を出す能力の3つだとした。ただし、中国でこのような資質を持つ人材を見つけたり育成したりすることは比較的困難な可能性があると、両氏は注意を促した。というのも、中国では一般的に、労働者は上司に対して自分の意見を伝えることに積極的ではない。上司との関係を損ねるのを恐れるからだ。仮に直接コミュニケーションを取るとしても注意深く行う。
グローカリゼーションを後押しする分散型HRモデル
HRの運営方法もまた、グローカリゼーションの影響を受けることがある。「国外に設けた拠点では独自の運用方法が必要なので、多国籍企業やグローバルに展開している企業のHRリーダーは、“優秀な人材の集積”から“専門家のネットワーク構築”へとHRモデルを再編することを検討する必要がある」とバージン氏は提言する。言い換えると、HRはその機能を分散させて、HRのビジネスパートナーに権限を委譲し、現場レベルの判断に従って運用できる裁量を増やすべきである。その一方で、HRは統合したシステムを利用して全社的なイニシアチブを展開する際には、先頭に立つ必要もある。ただし、どのプロセスを現地に任せて、どの部分は全社共通の基準を適用するかを決めるのは、HRリーダーが大いに悩むところだと同氏は言う。
Disneyの分散HRモデルの場合、ローカルとグローバルの割合を最近再調整したと、ランドール氏は話す。「当社は長い間、分散HRモデルを運用してきたが、本社に集約できる共通の要素も依然として存在することに、つい最近気がついた」
同氏はさらに、「この認識を踏まえて、Disneyは最近、優秀な人材の集積拠点を7カ所開設した。現在は統合型HR運用モデルを、柔軟性を残しながら適用している。優秀な人材の集積拠点は、以前よりもずっと拡張性を高くした」
バージン氏によると、分散型の「(現地HRの)影響の大きい」HR運用モデルを適用している組織のHRは、他社に比べてより大きな効果を上げているという。「われわれが多くの企業を調査して学んだことは、HRが挙げている効果が他よりも30~40%も高い企業は少数ではあるが存在し、そのような企業には共通の特徴がある。その特徴とは、研修とスキルについて現地拠点の権限が大きく、専門知識を持つ人材のネットワークがHRのビジネスパートナーと連携していて、現地のスキルや経験を持つ人材から学ぶ手段を確保しながら、その情報を本社にフィードバックできるということだ。また、社内でも社外でもデータ収集とベンチマーキングに重点を置いていること、そして「大胆なビジネス指向のCHROがいる」ことの2点も特徴として挙げられる。
このモデルがうまく運用できれば、理想を言えばビジネスパートナーに新しい仕事を提供できるし、社内の従業員はテクノロジーの恩恵を直接受けることができるだろう」とバージン氏は言う。「われわれが事業を展開している世界では、あらゆる市場がローカルだといえる。HRモデル、企業研修、人材の獲得など、全てにおいて、われわれはこれまでの経験を今後の市場に活用する方法を見つけ出さなければならない」
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