LinkedInや人材派遣・転職サイトだけでは不十分
“不採用でも優秀な人材”をキープできる「人材コミュニティー」の作り方
IT活用で応募者、採用担当者の負荷が減り、就職・転職の採用プロセスが効率化された。その一方で、ITが両者のコミュニケーションを妨げてしまうという弊害も出ている。
採用応募者の追跡システム(Applicant Tracking System、以下 ATS)は企業の採用部門の効率を大幅に改善しているが、その一方でATSには明らかな欠点もある。
戦略的人材管理のシンクタンクである米Human Capital Instituteは2013年12月、サンフランシスコで「2013 Talent Acquisition Technology Forum(人材獲得テクノロジーフォーラム)」を開催した。カンファレンスの講演者らによれば、ATSは今や広く普及しているが、求職者と採用担当者の両方に「ブラックホール」を生み出しているケースが少なくないという。
求職者はいったん応募書類を提出してしまえば、面接に進まない限り、会社から連絡をもらうことはほとんどない。また、募集したポジションには不採用であっても、応募者の中には優秀な人材が残っていることもあるだろう。しかしATSには、採用担当者がこうした応募者と引き続き連絡を取り合うための十分な機能が備わっていない。
採用候補者の関係管理(Candidate Relationship Management)システムを導入した企業の講演者らによれば、同システムはATSに不足している機能を補うのに役立つという。セッションリーダーらは候補者関係管理システムのメリットに加え、注意すべき落とし穴や効果的に利用するコツなどについて率直に語った。
次点候補者をキープできる候補者関係管理システムとは?
候補者関係管理システムは人材コミュニティーの構築を容易にし、採用担当者はこのコミュニティーを通して、見込みのある人物の情報を継続的に追跡できる。この方法を用いれば、求職者がいったんいずれかの求人票に記入すると、そのポジションには適さないために選考から外れたとしても、優秀な人物であれば、採用候補リストに残る。
「雇用と応募者の技能・経験の観点から言えば、従来の大規模なATSは、雇用側と応募者の適合性を確保するために作られたシステムだ。求人票を開き、必要事項を記入するためのものであって、通常、強力なコミュニケーションツールも求職者を分類するための容易な手段もない」。こう語るのは、環境およびエンジニアリング分野のコンサルティングを手掛ける、米CH2M Hillのグローバル採用マーケティングおよびテクノロジー担当マネジャー、デリーナ・アダムチャック氏だ。「候補者関係管理システムを使えば、柔軟性がはるかに高まる。長期にわたりコミュニケーションを取るための優れたツールの他、数多くの方法で候補者を分類することができる」と、同氏は続ける。
米General Electric(GE)の人材獲得ソリューション担当主任を務めるシャハバーズ・アリベイグ氏にとって、候補者関係管理システムの採用は、「受け身の人材獲得戦略」から「先を見越した人材獲得戦略」への移行という、より大きな変化をもたらした。同氏によれば、候補者関係管理システムを導入する最大のメリットは「転職を考えているが積極的には活動していない受動的な求職者の情報を把握できる点」にあるという。
さらにアリベイグ氏によれば、GEの候補者関係管理システムは「銀メダリスト」といつでも連絡を取れるようにしておける点で、特に貴重だという。つまり、面接まで進んだものの、最終選考で漏れた候補者のことだ。GEはこの人材プールを利用することで、採用に要する時間を短縮できているという。以前に十分に吟味された人材であれば、予備審査の過程を省けるからだ。
コスト面のメリットもある。「人材派遣会社やヘッドハンターに頼りきりの企業には、コスト削減効果もある。当社が人材派遣会社に支払っている額を全世界で合計してみたところ、皆が縮み上がるような膨大な数字になった」と、アリベイグ氏は語る。GE社内の採用担当者は候補者関係管理システムのおかげで、外部の人材派遣会社と同様のツールを使って、優秀な人材のデータベースの充実を図れており、その結果、人材派遣会社への支出を削減できているという。
前出CH2M Hillにおいても、求人広告コストは考慮すべき問題だった。「採用担当者は1件の求人ごとに申込書で候補者を絞り込み、採用を決めていた。優秀な人材を逃していることは分かっていた。だが、解決策は分からなかった。本当に問題だったのは、新たに求人広告費を掛けて、何度も何度も同じ候補者を集めていたことだ」と、CH2M Hillのアダムチャック氏は語る。
セールス向けCRMは採用担当者には不向き
GEのアリベイグ氏によれば、人材獲得技術ベンダーの急増により、採用担当者はしばしば選択肢の多さに圧倒されているという。だが、ベンダーの選択だけに重点を置くべきではない。
「1つ私が学んだのは、市場に出回っている技術の大半はどれも非常に優れており、大きな違いをもたらすのは、技術をどのように実装するかであるということだ」と、アリベイグ氏は語る。
アリベイグ氏は、例えば、候補者関係管理システムをATSと統合する重要性を強調する。さらに同氏は、候補者管理の取り組みにおいては、技術の導入は最終段階で行うよう助言する。「システムの導入を成功させるためには、まず人やプロセスなどの構成要素の評価と標準化を最優先にすべきだ」と、アリベイグ氏は語る。
CH2M Hillのアダムチャック氏によれば、同社は米SmashFly Technologiesの製品を選ぶ前に、6種類の製品を検討したという。そのうち4つは採用担当者向けの候補者関係管理製品であり、残り2つはセールス向けの顧客関係管理(CRM)製品だった。だが、セールス向けの製品は早い段階で候補から外されたという。
「インストールしたらすぐに使えるセールス向けCRMは、採用担当者には向いていない。多くのカスタマイズが必要となる。その大半は、ATSとの統合作業だ。ATSと統合しなければ、あらゆる情報を手作業で入れ直すことになる」と、アダムチャック氏は語る。
アダムチャック氏もGEのアリベイグ氏と同様、技術よりもプロセスを優先させるべきだと考える。「いずれかのベンダーと話し合いを始め、デモを受ける前に、人材の収集や採用のプロセスを綿密に計画し、確認することだ。ベンダーからプロセスについて指図されたくはないはずだ」と、アダムチャック氏は語る。
アダムチャック氏は候補者関係管理システムを検討する際の留意点として、充実した内容のユーザーマニュアルとサポートの他、堅牢なレポーティング機能やフォローアップ機能の有無を確認するよう助言する。最後にいつ連絡を取ったかを候補者ごとに確認できる機能なども、その1つだ。
情報は量よりも質が重要
採用担当者には既に過剰な負担が掛かっているのに、その上さらに候補者関係管理システムを一方的に押し付けるべきではない――。GEのアリベイグ氏とCH2M Hillのアダムチャック氏はともに、そう注意を促す。
「採用担当者が目下、大量の応募申込書を処理中であるのなら、候補者関係管理システムについては忘れることだ。候補者情報の充実に費やす時間は恐らくない。その点に配慮するべきだ。候補者関係管理のロードマップにおいては、人材コミュニティーの維持管理の担当者を見つけられるが重要な要素になる」と、アリベイグ氏は語る。またCH2M Hillでは、候補者関係管理システムを導入して以来、新たに3つの役割が生み出されたという。人材収集の担当者、人材マッピングの専門家、候補者開発チームの3つだ。
候補者関係管理システムでは情報の量よりも質が重要であることを採用担当者に気付かせることも、重要なステップの1つだ。アリベイグ氏によれば、GEが初めて候補者関係管理システムを展開した当時は、この点を正しく理解していない採用担当者もいたという。
「友人や家族の他、LinkedInでつながりのある人たちも含め、誰でも彼でもシステムに追加している採用担当者もいた。だが、真の目的はそんなことではない。過ぎたるは及ばざるがごとしであり、量よりも質が重要だからだ」と、アリベイグ氏は語る。「だから採用担当者には、絞り込みのプロセスを経て、本当に吟味した候補者の情報だけを新鮮に保つ必要があるという点をしっかり理解させたい」と、同氏は続ける。
またアリベイグ氏によれば、候補者関係管理システムはマインドセットの大幅な変更を必要とするため、ベンダーと契約を交わす前に機能検証(POC:Proof Of Concept)を行うのが有用という。さらに同氏は、いったんシステムを正式に導入したら、チェンジエージェント(変革推進者)を配置し、特定の候補者セグメントごとに小さく始めるよう奨励する。
さらにアリベイグ氏は経営陣に候補者関係管理システムの価値を納得させる必要性に関しては、財務部門の責任者と協力し、直接的な数字として現れる投資対効果(ROI)を計算するよう助言する。
「一部の組織では、コストの問題になる。失業率が8%近い今、なぜこのような取り組みが必要なのか、という疑問が出るだろう。“適切な成長を遂げるための戦略実現者を適切なタイミングで見つけられないこと”の機会費用を、経営陣が理解することが極めて重要となる。採用に30日や60日、90日もの日数がかかれば、その分のコストが発生するということだ」と、アリベイグ氏は語る。
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