「警官よりも魅力的」米女子大が猛プッシュ
“セキュ女”育成計画始動――女子大生をもっとセキュリティ業界に
情報セキュリティ職に就く学生を増やしたい――。こうした思いの下、米女子大学が人材育成に本腰を入れ始めた。女性比率11%という“男性社会”をどう変えるか。同大学の挑戦を追う。
ローレンス・スナイダー氏は、「『情報セキュリティ職』という業種を救えるとしたら、頼みの綱は女性である」と考える1人だ。「救う」と言うと大げさだが、米Bay Path College(ベイパス大学)に新設されたサイバーセキュリティ学科の学科長であるスナイダー氏は、現在の危機的状況を痛感している。
有能で経験豊富な情報セキュリティ担当者の数は、需要に対して大きく不足している。「(ISC)2」(アイエスシースクエア、国際情報システムセキュリティ認証コンソーシアム)の推計では、全世界の情報セキュリティ担当者は約320万人で、2013年には新たに約33万2000人増えた。だが(ISC)2のエグゼクティブディレクターであるホード・ティプトン氏は、「さらに200万人の人材が必要だ」と話す。特に重要なのが、女性のセキュリティ担当者をどう増やすかである。
そこでスナイダー氏の出番だ。同氏は、ベイパス大学でサイバーセキュリティ管理の大学院課程新設を主導した。また、2014年に開設するセキュリティアシュアランス(情報セキュリティの確保)とデジタルフォレンジック(デジタル科学捜査技術)の2つの新しい学部課程も準備している。
これらのコースは、スナイダー氏のように、多彩な経歴と経験はあっても技術的専門スキルのあまり無い人が対象だ。「私はテクノロジーの知識は持っているが、ファイアウォールを管理したり、侵入検知システム(IDS)をセットアップしたりしたことがない」とスナイダー氏は話す。
このカリキュラムでは、将来の最高情報セキュリティ責任者(CISO)に必要な幅広い内容を学習する。学習内容は技術的な基礎に始まり、プロジェクト管理、組織変更、セキュリティ/コンプライアンス、法的問題など、サイバーセキュリティ管理のさまざまなトピックに及ぶ。
学部課程では、今日の組織におけるサイバーセキュリティ管理者の位置付けに基づき、ミドルアウト型アプローチ(トップダウンとボトムアップを組み合わせたアプローチ)が取り入れられている。「意思決定者と現場の両方に影響を及ぼすことのできる担当者を組織の真ん中に投入することで、セキュリティで何が可能であり何が不可能なのかについて、組織の意識を草の根から変えていきたい」とスナイダー氏は語る。
ベイパス大学は、学生数2100人の私立女子大学だ。同大学のように、情報セキュリティの学位を取得できる高等教育機関は増えてきている。少し前までは、実践演習に必要な企業レベルの研究用コンピューティング設備に大金を投じることのできる学校は少なかったが、クラウドコンピューティングのおかげでそうしたハードルも低くなった。米フォレンジックツールベンダーのAccessDataは、ベイパス大学の学生に必要なあらゆるツールのアクセス権を年間2500ドルで提供している。
カリキュラムの策定や研究設備の導入より、もっと深刻な課題は、女子学生に、情報セキュリティ職という職種が有望な選択肢の1つであり、しかもやりがいのある仕事だと理解してもらうことだ。(ISC)2の2013年報告書「Agents of Change: Women in the Information Security Profession(変化の担い手:情報セキュリティ職の女性)」によると、この職業に女性が占める割合はわずか11%。ここ数年で情報セキュリティ職全体の人数は増えてきたものの、女性の比率は変わっていないという。
これは情報セキュリティに限った問題ではない。米商務省の2011年の報告によると、米国経済の労働人口の半分近くを女性が占めるにもかかわらず、科学、テクノロジー、エンジニアリング、数学の分野で働く女性は25%未満だ。
ベイパス大学では、セキュリティの仕事を女子学生に売り込むアプローチとして、IT系特有の言い回しを減らしている。具体的には、コミュニケーション力や分析力、問題解決力、リーダーシップなど、成功するために必要な能力はどれも女性の得意とするものであり、男性をしのいでいるのと強調している。
「情報セキュリティ分野では、コンピュータを使わなければならない部分もあるが、それは全体のほんの一部だ。優れたデジタル捜査官になるには、生来の分析能力が求められる。問題を細かく分けて状況を判断する力が必要だ」(スナイダー氏)
ところで、情報セキュリティ職という職種は、女性が仕事に求めるものと一致しているのだろうか。スナイダー氏が女子学生から一番よく聞くのは、「人の役に立つ仕事がしたい」という声だそうだ。今のところ、大卒者が社会に還元できる職業として情報セキュリティ職を捉える人は少ない。だがスナイダー氏は、学生に情報セキュリティ職を社会事業や刑事司法と同じ見方で捉えてほしいという。
「どんな犯罪にも必ず被害者がいる。オンライン犯罪でもそれは同じだ。『被害者の役に立ちたいと思うなら、この仕事はぴったりだ』と、学生たちには話している。サイバー犯罪の被害者を助けるためには、街の警察官になるよりこの仕事に就く方が絶対に役に立つ」(スナイダー氏)
3人の娘の父親であるスナイダー氏にとって、これは人ごとではない。同氏の令嬢たちはまだ、どんな仕事を目指すかを決めていないという。もっと多くの親が、成功と出世と達成感の可能性を持つ情報セキュリティという分野への関心を娘たちに促すよう、同氏は願っている。
「他の職業と比べれば、“ガラスの天井”(目に見えない障壁)もぐっと少ない。しかも収入が高いから、子どもを育てる上でもよい仕事だといえるだろう」(スナイダー氏)
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