ある大学の悪戦苦闘
無数のiPhoneユーザーを満足させる鉄板の無線LANは存在するのか?
iPhone、iPadに加えてノートPCやセンサーなど大学では無線LANに接続する無数のデバイスが存在する。過剰な制御を掛けることなく、ネットワークのパフォーマンスを維持し、セキュリティを保護するにはどうすればいいのか。
「BYOD(私物端末の業務利用)」という言葉を耳にして一般的に思い浮かぶのは、スーツ姿のビジネスマンが個人用の「iPad」でプレゼンをしているシーンや、ソーシャルメディアの達人たちが、企業用のTwitterアカウントを私物スマートフォンで頻繁に使っている場面だろう。
そのようなBYOD先駆者を支えるための無線ネットワークを設計する試みは、ネットワークのセキュリティや容量計画などの問題に通じるものがある。
米イリノイ州エバンストンにあるノースウェスタン大学のネットワークトランスポートマネジャー、ジュリアン・コウ氏は、従来の無線ネットワークとは全く異なり、よりオープンなBYODを可能にする無線ネットワークの設計に取り組んでいる。同氏の目標は、もっとユーザーの目的に沿ったもの、そして、さらに複雑なユースケースにも対応する、創造的な無線ネットワークの方法を見つけることだ。
Google Glassが利用する無線ネットワークの構築
例えば、同大学でジャーナリズムを担当する2人の教授は、「Google Glass」を使って、米Googleについての大規模公開オンライン講座(MOOC)で教鞭をとっている。ビッグバンから亜原子粒子を発見しようとしている物理学研究者が使う機材は、無線周波数(RF)の最も小さい干渉さえ見過ごさない。他にも、外傷患者の診断と治療のシミュレーションを目的に精密に調節された数十の無線センサーが埋め込まれたマネキンを使う医学研究者がいる。
コウ氏はこれらのデバイスと同時に、何千人もの学生も同時にサポートできる無線ネットワークを整備しなければならない。学生たちは、寄宿舎のWi-Fiシステムがスマートフォンとタブレットに加え、無線対応のゲームデバイス、エンターテイメントデバイス、プリンタや他のコンシューマデバイスなど、さまざまなワイヤレス機器が使えることを期待しているのだ。
コウ氏は、2014年4月にラスベガスで開催された「Interop 2014」のセッションで、ノースウェスタン大学のBYODネットワーク戦略について語った。「『無線ネットワークの管理のために、あなた方(研究者や学生)は無線ネットワークを使って研究しないでください』とは言いたくなかった。可能な限りユーザーの目的に沿うよう努力しているが、同時に理にかなった制限も設けている」
創造的で巧みな処理が必要
1万7500台のデバイスが接続し、3600カ所の無線アクセスポイントが存在するネットワークで混乱を避けるのは簡単ではない。コウ氏にとって最大の問題は、デバイスが独自の無線ネットワークを構築してしまい、RF干渉のトラブルを引き起こすことによるパフォーマンスの低下だ。
大学のITポリシーを無視して危険なアクセスポイントを設置する学生がいる半面、多くの場合、特定デバイスによるネットワークへの悪影響は意図的に引き起こされたものではない。例えば、Googleの「Chromecast」(高品位テレビに接続し、Wi-Fiを使用してインターネットコンテンツをストリーミングするドングル)は学生に人気があるが、これが干渉トラブルを引き起こしている。Chromecastはデフォルトでは2.4Ghz帯域でスタンドアロンの無線ネットワークを構築するよう設定されていて、ほとんどのユーザーはそのまま使っているからだ。
しかし、大学のような半都市環境ではこのような無線ネットワークに悪影響を与えるデバイスを探し出すのは、ネットワーク監視ツールを駆使してもほとんど不可能に近いとコウ氏は語る。
「監視ツールを使えば数千ほどの不正デバイスが見つかる。ただ、不正デバイスの全てを、こちらから特定するのは現実的ではない。多くの場合、ユーザー側から『無線ネットワークの調子が良くないんだけど』という不満の声が上がるのを待って、呼ばれたらその場所に行き、現地で調査する」(コウ氏)
このようなパフォーマンスの低下は、通常はユーザーを教育するだけで解決できるが、より特殊なケースでは、ある種、創造的で局所的なネットワーク処理が必要となる。
センサーが埋め込まれたマネキンで救命技術のシミュレーションを行っている医学研究者は、5Ghz帯域を使ってセンサーのデータをワイヤレスでコントローラーへ伝送していた。しかし、同大学の無線ネットワークがこの研究者の医学研究室まで拡張されたとき、設置したばかりの802.11n規格のアクセスポイントが、無線ネットワーク上でセンサーと競合していることをコウ氏はすぐに発見した。これが原因で、センサーが破損データを作り、パフォーマンスの低下を招いていた。
コウ氏はまず、センサーを無線ローカルエリアネットワーク(LAN)に接続させようと試みた。しかし、イリノイ州シカゴにあるノースウェスタン大学の医学部キャンパスの研究室と、数キロ離れた同州エバンストンのメインキャンパスにある無線LANコントローラーの間で発生する遅延は、許容できるレベルではなかった。最終的にコウ氏は、競合が発生しているアクセスポイントの5Ghz帯域をオフにするしかなかった。
「5Ghzの恩恵を受けることはできないが、ユーザーの大部分は気が付いてさえいない。ほとんどのユーザーの心配は、基本的な接続ができるかどうかだけだ」とコウ氏。
無線LANセキュリティへの異なるアプローチ
ネットワークのセキュリティもコウ氏にとっても懸念だ。キャンパス内で利用される無線デバイスをコントロールできない状況の中、同氏は、ネットワークセキュリティへの対処法を編み出さなければならなかった。
まず行ったのは、全てのデバイスに対して、802.1X認証と侵入防止システム、さらに有害サイトのフィルタリングを義務付けることだった。これである程度のセキュリティ保護はできる。しかし、内部から外部のインターネットに接続する場合、強固なファイアウォールを通過するわけではない。
「ほとんどのユーザーが外部のインターネットから入ってくるものとして、アプリケーションとセキュリティの観点からユーザーを扱う。堅固なファイアウォールと強力な保護手段の大部分は、ネットワークの境界へ移動させず、できるだけアプリケーションとインフラに近い場所に置いている」(コウ氏)
キリスト教関連の米非営利団体CRISTA Ministriesでサーバ/ネットワークマネジャーを務めるジム・リチャーズ氏によると、同団体はBYODの採用に興味を持っているという。同氏は、Interopセッションで語られたコウ氏のセキュリティに対する取り組みに興味を持ったが、それがCRISTAのセキュリティとパフォーマンスのニーズを満たすかどうか分からなかった。
リチャーズ氏は次のように述べた。「ファイアウォールを持ち込むというアイデアには、確かに魅力がある。しかし、実現するのは私たちにとって難しいかもしれない。LAN上である一定のユーザーエクスペリエンスを提供することは、私たちにとってお手の物だが、いったんLANを離れると、私たちが提供できるユーザーエクスペリエンスは低下してしまう」
コウ氏は話の中で、ノースウェスタン大学の取り組みが誰にとっても好都合である、というわけではないことを認めている。
「利便性を取るか、それともセキュリティか、または管理なのかについては、常に語られている。私たちはオープンであり、幅広くさまざまなユーザーに対し、可能な限り協調的な側に立つようにしている。だが、非常に組織化が進んだ環境では、その取り組みが別の方向へ向かう。そういった組織では、非常に厳格に管理されたデバイスとアプリケーション、そしてユースケースを扱うことになるだろう」(コウ氏)
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