品川女子学院×Evernote特別イベントリポート【前編】
“品女”はなぜ「企業向けEvernote」を大規模導入したのか
「Evernote Business」を導入した中高一貫女子校の品川女子学院。本格導入2週間足らずで、既にさまざまな利用例が出てきているという。米Evernoteとの共催イベントで明かした、同校の取り組みを見ていく。
品川女子学院(東京都品川区)は、文部科学省がグローバルリーダーを育成する指定校制度「スーパーグローバルハイスクール」に認定する中高一貫の女子校だ。「社会で活躍できる女性を育てる」という命題を掲げ、クラス単位で起業に取り組む「起業体験プログラム」など、特色ある教育を実践している。
2014年5月中旬、同校の高等学校新2年生の205人全員に米Appleの小型タブレット「iPad mini」を貸与した。そのiPad miniで活用することになったのが、情報整理ツール「Evernote」の企業版である「Evernote Business」だ。
世界中の小学校や中学校、高校を見渡しても他に例がないという、Evernote Businessの“一括大量導入”に踏み切った品川女子学院。その導入発表イベントが2014年5月26日、同校で開催された。
「品女×Evernote 新しい授業で起業マインドを養う」と銘打った同イベントは、米Evernoteのフィル・リービンCEOの講演に始まり、同校教員による模擬授業やプレゼンテーション、生徒を交えたパネルディスカッションなど盛りだくさんの構成だった。その模様を前後編に分けて詳細にリポートする。
高2全員が「iPad mini」「Evernote Business」を手に
品川女子学院は、以前からIT製品の活用が盛んな学校の1つだ。「情報」の授業単位を中学1年の技術家庭科の中で1単位、高校1年でも2単位設定し、生徒の基礎的な情報リテラシーを養成する。さらに生徒に貸与したiPad miniも日常的な学校生活で活用させており、特に文化祭や体育祭などのイベントで活躍。生徒同士の情報共有やイベントの運営ツールとして役立てているという。
こうしたIT製品の活用状況は、ちょうど本イベントから1年前の2013年5月26日、同校の情報科主任である酒井春名教諭が別のイベントで紹介していた。中高生向けプログラミング教育を推進するライフイズテックが主催した「Edu×Tech Fes 2013」だ(当時の酒井氏の報告は動画で公開されている)。実はこのイベントに、Evernoteの日本法人であるエバーノートの外村 仁会長が同席しており、ここで互いの教育ビジョンに共感を覚え合ったことが、後のEvernote Business導入のきっかけになった。
その後も、同校の生徒やその保護者が米国のEvernote本社で同社エンジニアと対話したり、外村氏自身が同校を訪問して起業体験プログラムや同校の授業の進め方に触れたりする中で、相互理解が進んだ。結果、同校のカリキュラムと合わせる形で、教科や世代を超えた情報共有、問題発見、解決のためのツールとしてEvernoteを使うという方向性が確定。一部管理職やITに強い職員の間でEvernote Businessを先行導入したり、一部生徒や保護者がEvernoteの無料版である「スタンダード」を活用したりと徐々に下地が作られ、今回のEvernote Businessの大規模導入につながったという。
Evernote導入を後押しした「28Project」
Evernote Businessの導入には、同校の教育方針も深く影響している。“28歳になったときに社会で活躍できる女性を育成する”という「28Project」がそれだ。28Projectに関連した課題解決型学習「チャレンジベースドラーニング」に、Evernote Businessを始めとするIT製品を大いに役立てている。
28Projectでは、
- 周囲の状況から課題を見つける
- そのテーマについて議論する
- 解決策・納得解を見つけて実行する
という一連の流れを、提携する国内外他校の生徒と共に進めている。そのため、Evernote BusinessのようにWebで情報共有できるサービスが不可欠なのだ。
酒井教諭は「これまでもストレージ同期サービスの『Google Drive』などを使って生徒同士のディスカッションを進めてきたが、Evernote Businessはそれをさらに加速させると感じている」と指摘。つまり、上記の「そのテーマについて議論する」のプロセスに非常に効果的だというわけだ。
ただし、こうした用途であれば、Evernoteのスタンダードアカウントで利用できるノートブックの共有機能でも可能だ。なぜ、あえて有償のEvernote Businessを選んだのだろうか。
容量制限と“共有”を重視し「Business」を選択
「生徒の知識を学校に集約したいのであれば、Evernote Businessが必要だ」と酒井教諭は説明する。個人用のEvernoteだと、学校としての情報集約や月間の容量制限などが問題になるからだ。
容量制限を緩和するには、月間アップロード容量がスタンダードの60Mバイトから1Gバイトへと増える「プレミアム」アカウントも選択肢になり得る。それでもEvernote Businessを選んだ大きな理由は、“共有”だ。
「例えば、文化祭の模擬店での販売知識や勉強方法の履歴などは、後輩のために学校に集約し続けたいと考えている。これを実現するには、個人用のスタンダード、プレミアムアカウントでは難しい」(同教諭)。そこで、複数ユーザーで共有可能な「ビジネスノートブック」のアップロード権も別途付与されるEvernote Businessを選んだ。
さらに、Everenote Businessには教育機関向けの特別料金が設定されていることも、導入を大きく後押しした。同校ではこの仕組みを利用すると、Everenote Businessの方がプレミアムアカウントよりも安価に利用できるのだという。
導入から2週間、品女生のIT使いこなし術とは
iPad miniとEvernote Businessの活用で、品川女子学院ではどのような学びの形が生まれているのか。その実態を明かすべく、同校の神谷 岳教諭は今回のイベントで、同校の高校2年生約100人を対象に「つなぐ」をテーマとした模擬授業を行った。模擬授業では、「この2週間で生徒がiPad miniをどう活用してきたか」を紹介。生徒は自身のiPad miniの画面を会場正面のスクリーンに映写しながら、自身の使いこなし術を次々に発表してくれた。
iPad miniの画面は、iOSの持つ無線データ転送機能「AirPlay」を利用し、無線LAN経由で映像・音声再生機器の「Apple TV」に転送。その上で、Apple TVに接続したプロジェクターを使って映写した。最近の教育現場では、この仕組みを電子黒板などと組み合わせて活用する事例を多く見掛ける。
生徒が発表してくれたiPad mini活用例を以下に紹介しよう。生徒は学校内だけでなく自宅や通学中にiPad miniを活用可能で、さらにある程度自由にアプリを入れて工夫できる環境にあるようだ。
- 手帳アプリ「Lifebear」の活用。スマートフォンで予定やToDoを登録、iPad miniの大きな画面で情報を見る
- 資料集などを写真に撮り、Evernoteなどに入れておくと荷物が軽くなる
- 学習アプリ「Quizlet」で教員が作った英単語や4択問題にゲーム感覚で取り組む
- 自分の英語の発音を録音しておき、自室でそれを聞いて振り返る(この生徒の家庭では、スマートフォンを自室に持ち込まないことをルールにしているそうだが、iPad miniは勉強道具と位置付け、明確に使い分けているそうだ)
- 移動中や自宅学習中の疑問をメモ帳に教科ごとにまとめておき、授業中に見ながら適宜質問。得られた答えを後から書き込むなど、編集ができるので便利
- iPad miniは大画面なので、スマートフォンよりもずっと使いやすい
- 理科の実験の写真をメモアプリの「Note Anytime」に張り、手書きメモやテキストを適宜追加して記録する(写真1)
神谷教諭はこれらの活用例から、IT製品には「同期」「ゲーミフィケーション」「編集」「ビジュアル化」といったメリットがあることを指摘。その上で、「こうした利便性を活用して、『学校生活がこう変わってほしい』という意見を3分程度でまとめてみよう」と指示を出した。生徒から出た意見は次のようなものだ。
- 授業中に、教員に指示されて資料集の写真などを参照するとき、ページを皆でめくったり戻ったりすると時間がもったいない。授業で使う素材をあらかじめ用意しておき、生徒に見せたいタイミングで全員のiPad miniに送り、自由に動かしたり拡大したりできるとよい。それと並行して、オリジナルの素材を前面の大画面に表示することができると、資料の共有の仕方が変わる
- 録画した授業を自宅から見て、通話・チャットアプリの「Skype」などで後から質問ができる仕組みが欲しい
- 15分程度の面談のためにわざわざ登校しなくても、Skypeで面談ができるとうれしい
続いて「Evernoteシリーズを使った事例や、そのためにEvernoteに欲しい機能は何か」と神谷教諭が問いかけると、生徒からは以下のような意見が出た。
- 数学の問題解説を動画共有サイト「YouTube」に投稿し、そのリンク先をEvernote Businessにまとめてくれている先生がいる。ただ、これは個人的な取り組みなので、もっと(多くの教員に)広がってほしい
- スキャナアプリの「CamScanner」は、撮影した資料の画像を補正して鮮明にしたり、文字をテキスト化したりできる。Evernoteにもこうしたスキャン機能があるとうれしい。自分は重い参考書や問題集はiPad miniに取り込み、大きい画面で鮮明になった文字を見ている。荷物も軽くなるので便利
- プリントに書き込んだ自分のメモと、プリントそのものの画像をレイヤーで分けて、自分の書き込みの表示/非表示が切り替えられる機能がぜひ欲しい
- 「いいね!」ボタンがEvernoteになかったので勝手に作ってみた(写真2)。他の人が作った資料や工夫に対して「いいね!」ができるとうれしい
生徒はiPad miniやEvernote Businessを使い始めて2週間とのことだったが、既にかなり使いこなしていることが伺える。この様子を神谷教諭は「今はまだ『便利だから使っている』という段階だ」と指摘。「今後は“便利”の一歩先、ITを使うことで学校をもっと良くしたり、暮らしをより良くしたりするにはどうすべきか、いったことまで考えるようになってほしい」と生徒にエールを送り、神谷教諭の模擬授業は終了となった。
後編「女子高生にもっと起業家精神を――“品女”がクラウドを使う理由」では、同校の情報科主任である酒井教諭によるプレゼンテーションを紹介する。さらに、リービン氏と外村氏、酒井教諭に加え、“女子”つながりで急きょ駆け付けたEvernoteの女性副社長リンダ・コズラウスキー氏の4人と、同校生徒によるパネルディスカッションの模様をお伝えする。
EvernoteのリービンCEOが語る「生きる上で大切にしてほしい3つのこと」
EvernoteのリービンCEOの特別講演からスタートした今回のイベント。リービン氏がまず生徒に語ったのは、「生きる上で大切な3つのこと」だ。
その1つ目として、リービン氏は自身の経験を引き合いに出し、「常に周囲にすごい人たちが居る環境に身を置くことが重要だ」と指摘した。
リービン氏は、高校生時代を「すごい生徒」(同氏)に囲まれて過ごし、“平均的”な自身に居心地の悪さや寂しさを感じていたという。だがその環境で鍛えられたおかげか、大学や最初の勤め先では周囲より秀でることになる。そのとき高校時代を振り返り、「常に周囲からプレッシャーをかけられ、結果として成長できることこそ、自分が満足できることだ」と気づいたのだそうだ。
リービン氏はEvernote立ち上げ後の採用においても、「その人には自分よりも秀でた何かがあるかどうか」を必ず見ているという。
2つ目は、「人生で出会う100人程度の親友を大切にする」ことだ。若いうちはたくさんの出会いがあるが、人生で本当に大切な100人の多くは、そのときに出会うという。「“大切な人”が誰かを見極め、その人たちとのつながりを大事にしてほしい」(リービン氏)。事実、Evernoteで一緒に働く仲間には、リービン氏の20~30年来の親友が7、8人は居るという。
3つ目は、「誰かのためではなく、自分が欲しいものを作ろう」。リービン氏は現職に至るまで、さまざまな仕事を経験したという。最初はコンサル会社で、誰かの役に立つために駆け回った。次の仕事では銀行や公共機関向けのソフトウェア開発を手掛けた。だが顧客が「本当に求めているもの」がなかなか理解できず、「自分ではない、誰かのためにものを作る」ことに難しさを感じていたという。
そこでEvernoteでは、自分が本気で欲しいものを作ることに徹した。その結果として、Evernoteは世界中で利用されるサービスとなった。「自分が本気で欲しいものは、きっと他の人も欲しいはず。だから欲しいものを作るために本気になろう」とリービン氏は生徒に呼びかけた。
自分が欲しいものをどのように見つけ、どうアイデアにつなげるか。革新的な企業には、素晴らしいアイデアやイノベーションを次々に、かつ瞬間的に思い付く人がいると思われがちだ。だが実際には「そういう人は本当にまれだ」とリービン氏は指摘。次の3ステップを踏めば、もっと簡単にアイデアを創り出せると語った。
1. 2週間程度、日常のささいな自身のアクションを意識し続けてみる。例えば、朝起きて歯磨きをし、靴下をはいて、学校に出掛けるといったごく当たり前の行動を自己観察する
2. 次の2週間は、友達や家族の行動を意識して見続けてみる
3. 1カ月の観察の中で、自分や友達、家族の行動から「仕方なくやっていること」「好きではないのにやっていること」を見つけだす。そして、それらをもっと楽しく行う方法を考えてみる
このように、日常に潜む課題をちょっと手軽にすることこそが「自分のためのものづくり」であり、「こうして作ったものは多くの人が欲しがり、世の中をより良くするはずだ」とリービン氏は強調する。最後に同氏は「品川女子学院の皆さんからも、社会、学問、アートなど、さまざまな分野で素晴らしいアイデアが生まれることを期待している」とエールを送り、講演を締めくくった。
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